「死にたい」
それが俺の望み。
だけど最近、望みが変わった気がする
「初兎ちゃ~ん!!」
『どした~?いむくん』
いむくん。俺の親友。
どうやら彼も「死にたい」と思っていたらしく、
俺らは意気投合した。
そうそう、今の俺の望み。
それは、
「いむくんとずっと笑っていたい」
俺にとって、いむくんは神様だ。
俺が向日葵だとしたら、天と地がひっくり返ってるとしても、太陽であるいむくんを見続けるだろう。
そう、太陽。
今年の夏は、太陽が体を射すように暑い。
でも、
俺たちが放課後、海へ向かって自転車を走らせる時は違った。
風を切って、二人乗りした。
「涼しいねー」って二人で言って、
海に着いたらアイスを食べる。
__幸せだった
“あの刻”以外は
「初兎ちゃん!今日も海行こ!」
『おん!せっかくやし今日は海入るか!』
今日も、俺の自転車で海に向かう。
風を切る音は煩くなかった。
いむくんの声に夢中だった。
シュワシュワ弾けるソーダのような声、
ずーっと聞いていたい
「_兎__!初兎_ゃ_!前__て!」
あ、ボーッとしていた。
『どしたんいむく………』
「初兎ちゃん!初兎ちゃん、前向いて!」
「いむくん」を言い切る前に、咄嗟に前を見た。
___トラック、
___避けられない
___嫌だ
___死にたくない
___いや、元から死にたかったなら
___いむくんを生かせよう
走馬灯のように流れて行くそれは、
結論は「俺は死んでもいいからいむくんを助ける」になった
俺は自転車のハンドルから手を離し、後ろを向いた。
真っ青ないむくんの顔。
俺が急に後ろを向いたから吃驚していた。
俺は、そんなことお構いなしに、
全力で両手でいむくんを横に投げ飛ばした。
「火事場の馬鹿力」とはこれのことだろう。
そう思ったのも束の間、
俺の視界にだんだん巨大な影が延びてきた
(これで…死ねるのか)
ギュッと思いっきり目を瞑り、
覚悟を決めた
(死ぬときってやっぱ痛いんやろうなぁ)
心の何処かで「痛いのは嫌」と思ったんだろうか
____その瞬間
×××××××××
聞いたことのない音が聞こえた。
肉がひしゃげるような…
ただただ不快な音
え………?
俺はいつまでたっても、
痛みが無いことに気付くと、
全身が氷のように冷たくなった
自転車から落っこちても、痛みの欠片もない
肉がひしゃげる音
俺は無意識に目を開き、音がする方を向いた
そして真っ先に視界に入ってきたのは
『いむくん………?なんで血だらけなんよ、
なんで血吐いてるん…?』
きっと今俺は、
自転車から落ちたとき足の打ち所が悪く。
複雑骨折したんだろう。片足が動かない
でも、
痛みはない。
いむくんが血だらけで寝そべっていたからだ
足を引きずって、
いむくんの側へどうにか移動する。
いむくんの目は、頭から流れる血が顔まで流がれ、充血しているようだった。
いむくんは、どこも見てない。
ただ、眩しい太陽を眺めていた。
「初…………ちゃん…____」
そう言って
いむくんは動かなくなった
最後…いや最期に
いむくんは俺の名前の後に何か言った。
でも、その声は聞こえなかった。
俺にとって、一生の呪いになってしまいそうだったんだ。
トラックの運転手らしき人が駆け寄ると、
直ぐに警察に電話をかけたら、
ずっと俺に謝った。
「俺のせいだ。俺のせいでこの水色君が____」
いや、この人は悪くない。
全部
全部
全部
俺が悪い。
いむくんの声をもっとちゃんと聞いていたら
トラックの進む方向を確かめていむくんを投げ飛ばしたら
海に誘わなければ
俺が生きていなければ
俺は世界の全てが色褪せて行くのが分かった
「いむくんが死んだ」