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坪井は、真衣香の唯一の同期であり。

社内の人気者でもある。

整った容姿、明るい性格、いつもふざけているようで、けれど仕事となると人が変わったように真剣な眼差しを見せるから。

信頼も厚く、坪井のまわりにはいつも誰かがいるのだ。


真衣香は同期であるが、ただそれだけ。

営業の坪井と、総務の真衣香はそれほど接点もなく。

備品の補充に訪れるか、もしくは朝の掃除タイムに偶然出会うか。

その程度の、ただそれだけの関係。


(入社したばっかりの頃、研修で話したけど……)


その後はこれといって、2人きりの会話がないのが真実だ。


「へぇ、じゃあ、立花の友達と俺の連れがクラブのイベントで知り合ったってこと?」

「そうそう、ハロウィンパーティ」

「え?マジ?立花そうゆうの行くの?」

「わ、私は、行ってないよ」


優里と、その知り合いの男性。

そして坪井と真衣香。

その他数人で全部で10人ほどになる今回の合コン。

自然と小さなグループごとに別れての会話となっていた為に、真衣香は近くに座っていた坪井含む3人と会話をしていたのだが。


(あ、暑いな……)


場を盛り下げるわけにもいかないけれど、かと言って他の3人のように話題を振れるわけでもなく。

会話に困りちびちびと飲み続けた慣れないビールのせいで、酔いがまわってしまっているのだろうか。

ボーッとぼやけてきた思考に、真衣香が困っていると。


「な、立花」

「……ん?」

「今日忙しかったじゃん?総務もだろ?」

「うん?」


今日は年に数回、役員達が集まる会議があり。

若手中堅社員は対応に追われていた為本来の業務を残業で片付ける人が多かった。



「抜けない?どっかでゆっくり飲もうよ、お前さっきから気張りすぎ」


そう言って、正面から手を伸ばし真衣香のジョッキを奪う。

そして、躊躇うこともなく半分ほど残ったビールを坪井が飲み干した。


(か、間接キス!!!???)


真衣香は目を見開いてその様子を眺めた。


「ん?どしたの?ポカンとして」

「え、あ、え!?いえ」


しかし驚いているのは真衣香だけで、坪井はなんら気にしていない様子で笑顔を見せる。


(そりゃそうか)


真衣香はひっそりと心の中で頷いた。

坪井のまわりには人が集まる。すなわち、女性も集まるのだ。

間接キスだとか、そんなもので騒ぐ世界に坪井はいないのだ。



妙に納得していた真衣香の手が、急にグイッと引き上げられた。

見上げれば、いつのまにか立ち上がっていた坪井が真衣香を引っ張り上げるように立たせて「んじゃ、俺ら抜けるね〜」と、陽気な声を出して手を振った。


「涼太、てめぇ早いんだよいつもいつも!」なんて野次が飛んでも御構い無しに、坪井は財布から何やら一万円札を出し真衣香の友人、優里に手渡した。


「今日の分の会費足りる?」


優里は「多すぎるけど」と、どこか睨むように坪井を見ながら一万円札を返そうとする。


「立花の分と、俺のと。2人分だよ」

「ああ、だったら、大丈夫……って、真衣香帰るの!?」

「いや、待って帰るっていうか坪井くん、お金ダメだよ」


真衣香は座ったままの優里と、すぐ隣に立っている坪井を交互に見ながら慌てて声を上げる。

その様子を眺めていた坪井は、ブハ!っと盛大に笑い声をあげ、また強く真衣香の手を引く。


「ダメじゃないし、立花は帰るよ〜! 大丈夫、同僚だから変なことしないって。今日仕事忙しかったからさ愚痴りたくて」


(あ、そっか、そういうこと)



恐らく坪井も疲れているのだろう。

優しい彼のことだから、断ることもできずこの場に来たのだろう。


(私と抜けるのは口実ってこと)


わかったよ、と。

そんな視線で真衣香は坪井を見て頷き、仕事用の少し大きなトートバッグを肩に掛けた。


「優里、大丈夫。坪井くんも残業で疲れてるだけみたいだから」


耳打ちすると優里は安心したように笑顔を見せた。

真衣香はその笑顔を眺めながら、お姉ちゃんみたいだと、どこかホッとした気持ちを覚える。

この感覚は中学の頃、優里と出会った頃から変わらない感情だ。


ざわざわとした空気を背中に感じながら、真衣香は坪井に手を引かれ店を後にした。

いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました

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