外が明るくなるのが早くなったな、なんて思いながら身体を起こす。
ついこの間まで起きる時間には真っ暗だったのに、今は薄っすら明るくて、隣で眠る阿部の姿を照らし出していた。
長い睫毛に縁取られた瞼と薄い唇を閉じて眠るその無防備な顔は、昔から変わっていない。変わっていないのに、なんだかとても大切で特別なものに思えるのは俺と阿部との関係が仲間から愛を伝え合う仲に変わったからだろうか。
髪を撫でると、小さく身じろぐ。布団から覗く細くて艷やかな肩口。何も着ずに寝てしまっていたかと、そして否が応でも昨晩の事を思い出す。
昨晩。
窓を開けてちょうどいいくらいの気候の中、汗だくになりながら初めて愛し合った。
付き合いが長いせいでそもそもの心の距離が近くて、阿部から『照の特別になりたい』と言われた時、悪い気はしなかったけど正直ピンときていなかった。
それでも、2人で過ごす時間の空気は確かに変わっていった。恋人になるともっと寄り添って良くて、優先して一緒にいても良くて、阿部が誰かと話していると息をするように嫉妬した。
彼は俺の特別な人だと認識すると自然とキスをしたり、更にはセックスする時の事を考えるようになった。
男の身体は男を受け入れるようにはできていない。無茶はできないし、体調を崩すようなことがあってもいけない。
躊躇する俺を見透かすように、昨晩阿部は言ったのだ『俺、大丈夫だから』と。
周りがまた少し明るくなり、阿部の寝顔をさっきより鮮明に映し出す。
流れた涙の跡が白く残っている。ひとつになった時、阿部は苦しいけど嬉しいと泣いた。俺も、自分の身体を痛めつけてでも阿部が俺を受け入れてくれた事に泣いた。
体内の温かさ、柔らかさ、それから苦しいけど幸せだと歪んだ笑顔を思い出して、また涙が出てくる。
💛「ありがと」
布団をかけ直して、頬に口づけた。
ベッドを抜け出してキッチンで水を飲む。
起きて朝食があったら喜ぶだろう。まるで花が開くような、華やかなのにどこか控えめな笑顔を頭に浮かべると自然と頬が緩んでしまう。
目玉焼きを作ろうとしたら黄身が割れたので、スクランブルエッグという事にしてかき混ぜているとスマホが鳴った。
💚『起きたんだけど、身体が痛くて動けない。そっち連れてって』
寝室に向かい、クローゼットから適当に部屋着を出して阿部に被せ、背中に背負う。これも昔から変わらないけど、よくこれで動けるなと思うくらい軽い。
阿部をおぶったまま冷蔵庫からボトルコーヒーを出してグラスに注いで、皿に移しておいた卵とベーコンと共に運ぶ。
ダイニングに降ろしたら『なんか落ち着かない』とソワソワする。昨晩の感覚が抜けていないらしい。
💛「どうしたいの」
💚「照の膝で食べたい」
悪戯っぽく笑って、それから眉を下げ、困ったように上目遣いをして見せた。
💛「いいけど、こぼすなよ」
💚「わかってまぁす」
朝食をローテーブルに移動させ、阿部をダイニングチェアから抱き上げ、ソファに座る。
わかってまぁす、とは何だったのか、阿部は俺の足に一口目からスクランブルエッグを落とした。
💛「あっっつ!!!」
終
コメント
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michiruさんんんん😭💓 💛💚めちゃくちゃエモいです、しかもオチも最高🥹緩急が最高で、ドキドキしてきゅんきゅんしてもう大好きですーー🥺❤️
おはようございます☀ 昨日のそれスノ余韻からのこのお話🥹 幸せ💖ありがたき💛💚