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ゲーム『赤毛の聖女』において、悪役令嬢のポジションにいたのはリュゼ・キルマという侯爵令嬢だ。

私と弟がチート無双した結果、王子の婚約者の立場となった私だけど、本当はこの位置にいるのはリュゼである。


美しい銀色の髪を長く伸ばした美少女である。ブラウンの瞳は、少々キツめなのがネックであるけれど、なるほど確かに悪役っぽく見える。

彼女は貴族であることを尊いものとして、平民を差別している。本来、乙女ゲームにライバルはいても、悪役令嬢はいないと言われているけど、このゲームにははっきり悪役とされてしまっている。


それはライバルというよりも嫌がらせをするキャラクターだからだろう。

この世界のリュゼもまた、ゲームでのリュゼとほぼ同じ思考、動きをする。


リュゼは私と同じで今年18歳。クラスもまた同じであり、そこで見る限りは、まあ普通だ。

侯爵家の令嬢という立場は同じ。だが王子の婚約者であるのは私。だから普通ならライバルであり、できれば蹴落としたいと思うところではある。

が、リュゼは私に対して煽ったり、足を引っ張ることはしていない。アイリス派、リュゼ派と派閥が分かれているものの、トップ同士が友好関係にある以上、衝突はなかったのだ。


まあ、それはキルマ家の財政危機の時、チートで稼ぎまくったマークス家が助けたことが大いに関係している。家から『マークス家の機嫌を損ねることはするな』とリュゼは言われているらしい。

あと、ついでに我がマークス家の新作菓子を、市場に出す前に贈ってあげていることも関係していると思う。リュゼはお菓子に目がないのだ。


でも、私は彼女を友達と思ってはいない。貴族にはいい顔をするが、平民にはとことん冷たい。嫉妬深く、弱い相手にはとことん自分本位で、それでいて臆病なのだ。

そんな彼女は頼みもしないのに悪役令嬢としての務めをせっせとこなす。忘れてはならないのが、赤毛の聖女での彼女は主人公に対しての悪役だということ。


つまり、攻撃対象は、私ではなくメアリーなのだ。






授業が終わり、メアリーが部屋にやってこない。日付を確認し、ああ、リュゼの嫌がらせか、と思い出す。

先にやってきたのは、ヴァイス王子だった。


「おや、メアリーはいないのか?」

「ええ、来てませんわね」


メアリーがいないとわかると、かの王子様はあからさまに肩を落とした。

わかりやすい反応。こういうことが続くと、王子のほうから一年のいる教室やらに赴くようになる。

ゲームでも、ある日を境に王子とのエンカウントが増えたっけ。それを思い出すと、ついホッコリしてしまう。


「何かあったのかしら……? ヴァイス様、よろしければ様子を見に行きません?」

「むっ、俺たちから行くのか?」


王族というのは基本的に待つものだ。自分から行動するのではなく、下々のほうが来い、である。


「散歩のようなものです。まだ入学して日が浅い後輩たちを視察するのも、将来の王族には必要なのではありませんか?」

「視察か……。なるほど。では行くか!」


口実さえあれば、この人はフットワークが軽い。

というわけで、一年の教室がある校舎一階部分へと向かう。


王子と同伴する私。すれ違う生徒たちは、自然と道を開けて頭を下げる。これに対して、ヴァイスは特に反応はしない。当たり前の行動に、いちいち対応しないのだ。

さて、いざ到着すると、一年の平民生が泥だらけになっていた。


「何があった……?」

「あ、王子殿下!」


一年たちは、姿勢を正した。

聞けば、上級生が指輪をなくしたとかで、一年でそれを探していたのだという。


「指輪を探させた?」


表情を曇らせるヴァイス。

ここにいるのが平民出の生徒ばかりなので、貴族生の強権によりやらされたのは、お察しである。メアリーもまた服に泥がついているので、巻き込まれた口だろう。


「それで、その指輪とやらは見つかったのか?」

「はい、先ほど別の場所を探していた者が見つけたそうで……」


平民生たちの表情に疲労とやるせなさが浮かぶ。ただ捜索に狩り出されただけではない。実は指輪はすぐ見つかったのだが、それを平民生たちにすぐに伝えられなかった。つまり、もう探す必要がないのに、作業をやらされていたのだ。徒労感が半端ないだろう。

でも怒るに怒れないのは、相手が上級生で、しかも貴族生だからだ。


「そうか。皆、ご苦労だった。皆、寮に戻って休むといい」


ヴァイス王子も、そういうしかなかった。三々五々立ち去る生徒たち。メアリーがやってきた。


「すみません、ヴァイス様、アイリス様」

「とんだ災難だったな。……まったく、私物探しに後輩を動員するなど」


憤りが隠せない王子様。すると、メアリーのお腹の虫が鳴いた。


「すみません……」


恥ずかしげに俯くメアリー。


「その、お昼、今日食べてないので」

「何だって? 食堂にはいかなかったのか?」


驚くヴァイスに、メアリーは上目遣いを寄こす。


「その一年の平民生向けの食材が腐っていたということで、お昼がなかったんです」

「おお、何てことだ。これは食堂に一言言わねばならんな!」


貴族生と平民生の食事は、場所も別々である。しかし、一学年分の昼食が駄目だったとしても、他から少しとはいえ融通はできるはずだ――と建前はそうなっている。

でもこれに貴族が絡むと面倒になるのよねぇ……。私は、王子がメアリーと関わるイベントなので無言を通しているが、こちらからも手を回しておく必要がある。


というのも、本来、王子様の婚約者だったリュゼは、今はその位置にいない。

そのポジにいるのは私だ。その結果、リュゼは『赤毛の聖女』の時とは違った行動を取るようになったのだ。

つまりは、王子と裏で付き合っていた時間が別のことに使われるということなのだが……。


取り立ててライバルとなりそうな関係である私と中立である以上、彼女の陰湿な趣向は、平民差別とその嫌がらせのほうに流れてしまうのである。

こちらから牽制入れておかないと、ゲームの時以上に悲惨なことが平民生を襲うのだ。間接的にメアリーも被害を食らうことになるので、介入しなくてはいけない。


さて、今回はどのようなお仕置きをしておこうかしら?

悪役令嬢に私はなる!

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