テラーノベル
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——翌朝。
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。——というより、ろくに眠れなかった。瞼が腫れぼったい。洗面台の鏡に映る自分の顔は、昨日より少しやつれていた。
学校に行かなきゃ。休むわけにはいかない。——prっつに会える日を、一日も無駄にしたくなかったから。
通学路。昨日と同じ銀杏並木。同じ冷たい空気。——でも全部違う。昨日見た景色は「残り二十八日の景色」で、今日のこれは「残り二十七日の景色」だ。
校舎が見えてきた頃、校門の前に見覚えのある背の高い影が立っていた。
prっつ「おはよ。」
待っていた。——朝、ここで。そんなこと、今まで一度もなかったのに。
prっつ「なんとなく。今日はここで待っとこ思て。」
理由になっていない理由を、さらっと言ってのけた。——まるで、昨日 mz太が見せた一瞬の翳りを、一晩中考えていたみたいに。
mz太「……そっか、おはよ。」
それだけかわして、二人は歩き出した。
並んで歩く二つの足音。昇降口で上履きに履き替える、その何でもない動作すら、今日はやけに丁寧に感じた。——一つ一つが最後になるかもしれないから、なんて。
prっつ「なぁ、今日の放課——」
prっつの言葉を遮るように、チャイムが廊下に響いた。朝のホームルーム五分前。
prっつ「……タイミング悪。」
苦笑して頭を掻くprっつ。言いかけた言葉の続きは、結局わからないままだった。
午前中の授業が始まる。三時間目、体育。着替えのとき、クラスメイトの視線がちらちらとmz太の体に向いた。——痩せたな、と誰かが小声で言った。聞こえないふりをした。
走ると息が切れる。——前はこんなことなかった。バレーのボールを拾う動作で膝がかくんと笑って、慌てて体勢を立て直した。
mz太「ッ 、……」
mz太は、運動神経はどちらかと言えば良い方だった——はずなのに。——身体が弱っている証拠だった。
体育教師が笛を吹いた。「交代!」——mz太は列の後ろに下がった。壁際に座り込んで、荒い息を整える。
prっつ「……おい。」
いつの間にか隣にいた。同じ列だったはずがないのに。——サボりか、こいつ。
prっつ「顔色悪いやん。保健室行くか?」
小声だった。——周りに悟られないように。大きな手がそっとmz太の額に触れた。熱を確かめようとして。——その手のひらが、ひんやりしていて気持ちよかった。
——prっつの表情が一瞬、曇った。
prっつ「……お前、熱あるんちゃう?」
違う。——熱じゃない。ただ体が言うことを聞かなくなっているだけだ。でもそれを説明する言葉が出てこなかった。
mz太「…そうなのかな……ッ 、」
否定すれば疑われるだけ——だから何も言えなかった。
3,105
prっつ「……ちょっと来い。」
有無を言わさず、だった。——prっつはmz太の腕を引いて立ち上がらせると、「腹痛いんで二人で保健室行きまーす」と体育教師に叫んだ。嘘が雑すぎる。
保健室には誰もいなかった。——養護教諭は不在。白いカーテン越しに差す光がぼんやりと室内を照らしている。
prっつ「ほら、横になれ。」
ベッドの布団をばさっとめくって、半ば強引にmz太を座らせる。——そしてprっつ自身は、パイプ椅子を引きずってベッド脇に陣取った。
prっつ「……なぁ。」
声のトーンが変わった。——さっきまでの強引さとは違う、静かな声。
prっつ「俺に言えんこと、あるやろ。」
真っ直ぐな目だった。——緑の虹彩が、薄暗い保健室の中でやけにはっきり見える。逃がさない、と言わんばかりの眼差し。
mz太「…えっ……、?ぃや、何のこと……っ、?」
prっつ「とぼけんな。」
静かに、でもはっきりと。——prっつは椅子に深く座ったまま、膝の上で拳を握っていた。
prっつ「最近おかしいやん、お前。ゲームで夜更かし?ほんまか?昨日パン食うてる時も箸——ちゃうわ、手ぇ震えとったし。さっきの体育、あんなん前のお前やったらありえへん。」
一つ一つ、並べていく。——見てたんだ、全部。ずっと。
prっつ「熱ちゃうのも分かっとる。……なぁ、mz太。」
名前を呼ぶ声だけ、少し掠れていた。
prっつ「俺はお前の親友やろ。——なんで頼ってくれへんの。」
沈黙が落ちた。保健室の時計が秒針を刻む音だけが響いている。——prっつは待っていた。どんな答えでも受け止める覚悟を決めた顔で。
mz太「ッ …… 、pーのすけッ……」
mz太の声は震えていた。目尻には涙が浮かんでいる。でも、ぐっと涙を堪えて、少し俯いた。
mz太「ごめん……ッッ 、俺……ッッ 、」
言葉が続かなかった。——喉の奥で何かが詰まって、「ごめん」の先がどうしても出てこない。
俯いたmz太を見て、prっつは黙ったまま立ち上がった。——ベッドの端に腰を下ろすと、何も言わずにmz太の頭にぽん、と手を置いた。
prっつ「……泣いてもええよ。」
それだけだった。——急かさない。問い詰めない。「言え」とも 言わない。——ただそこにいて、待ってくれている。
その優しさに触れて——堪えていたものが決壊した。
mz太「ッッ’……ぅ’ッ …ぅあ”ッ……」
堰を切ったように涙が溢れた。——声を殺そうとして、殺しきれなくて、嗚咽が漏れる。
prっつは何も聞かなかった。——ただ頭の上の手をゆっくり動かして、不器用に撫でた。ぐしゃぐしゃの黒と白の髪が指の間で乱れる。
どれくらいそうしていただろう。——五分か、十分か。やがてmz太の肩の震えが少し収まった頃、ぽつりと声が発せられた。
prっつ「……落ち着いた?」
返事を待つ間も、手は離さなかった。——むしろ少し力を込めて、ここにいるぞ、と伝えるように。
mz太「…ぅん……ごめん……ッ 、」
prっつ「謝んな。——んで、話せるか。」
穏やかだが、芯のある声。——逃げ道を塞ぐのではなく、ちゃんと隣を歩こうとする声色だった。
mz太「ッ …… 俺……ッ 、——病気なんだって……ッッ 、」
保健室の空気が、凍った。
prっつ「——。」
撫でていた手が止まる。——一拍。二拍。
prっつ「……え?」
声にならない声。——聞こえていた。確かに聞いた。でも脳が理解を拒んでいる。
prっつ「ちょ、待って。——病気って、」
prっつの声が震えていた。——初めてだった。こいつがこんな声を出すのは。
prっつ「……どのくらい、なん。」
聞いてしまった。——聞くしかなかった。「なんで」でも「どんな」でもなく、真っ先に出た言葉はそれだった。——頭のいい奴だ。もう察している。
mz太「——一ヶ月……ッ 、」
時間が止まった。——prっつの中で、何かが音を立てて砕けた。
prっつ「——は、」
口が開いたまま閉じない。——緑色の目が大きく見開かれて、焦点が合っていない。一ヶ月。三十日。八百四十時間。それが全部——
prっつ「嘘やろ。」
掠れた声だった。——否定してほしくて吐いた言葉。でもmz太が泣きながら嘘をつく人間じゃないことくらい、十年以上の付き合いで嫌というほど知っている。
prっつ「嘘って言えや……っ、」
prっつの手から力が抜けた。——ベッドに置いていた手がそのまま、だらんと落ちる。——顔が歪んでいく。
prっつ「……なんで、俺に黙っとったん……ッ、」
怒りじゃなかった。——泣くのを必死に堪えている顔だった。唇を噛んで、拳を膝に押し付けて。
mz太「ごめん……ッ 、言うのが……怖かったっ……。言ってしまえば、今まで通りの日常が変わるんじゃないかって……ッ 、ぷーのすけにはっ、心配も迷惑もかけたくなかったの……ッ 、」
prっつ「——迷惑なわけあるかッ!」
叫んだ。——抑えきれなかった感情が、保健室に反響した。
prっつ「迷惑とか、心配とか……そんなん俺が決めることやろ……ッ!お前が勝手に決めんな……ッ!」
目尻から涙が一筋、落ちた。——本人は気づいていない。
prっつ「……俺、お前のこと——」
そこで言葉が途切れた。——唇が震えている。「好き」というたった二文字が、どうしても喉を通らない。
——今言ってどうする。残り一ヶ月のこいつに、「好き」を背負わせてどうする。
prっつ「……ッ、」
ぐしゃりと顔を歪めて、乱暴に目元を腕で拭った。——泣いてない、と言い張るように。
prっつ「……あと二十六日、あるんやな。」
絞り出した声。——震えたまま。でも、前を向こうとしていた。
mz太「ッ ……ぅん……」
prっつ「……わかった。」
大きく息を吸った。——吐いた。——もう一度、吸った。
prっつ「ほんなら、全部俺にくれ。」
赤くなった目でmz太を真正面から見据えた。
prっつ「お前が我慢しとった時間も、怖かった気持ちも——残りの日ぃも。全部。俺が隣におる。——勝手に一人で抱えんな、もう。」
そう言って、ぐいっとmz太を引き寄せた。——長い腕が背中に回る。乱暴で不格好な抱擁。力加減なんて考える余裕もない。——ただ離したら消えてしまいそうで。
prっつ「……死ぬなよ、アホ。」
耳元で囁かれたその声は、祈りのように小さかった。
mz太「ッ………」
mz太は何も言わず、ただprっつをギュッと抱き返した。それが——prっつに残りの日数を上げる、何よりの肯定だった。
二人はしばらくそのまま動かなかった。——保健室のカーテンが風に揺れて、白い布が二人の上を通り過ぎていく。
やがて、prっつが静かに腕を解いた。——離れ際、名残惜しそうに指先だけがまぜ太の肩を滑った。
prっつ「……顔、えらいことなっとるで。」
自分の顔も人のこと言えないくせに。——ポケットからくしゃくしゃのハンカチを取り出して、mz太に差し出した。
prっつ「目ぇ冷やさんと腫れるぞ。」
それから、ふっと息をついた。——泣いた後の、覚悟を決めた顔。
prっつ「——今日、お前んち行ってええか。」
mz太「…ぅん、いいよ。」
放課後。——二人はいつも通りに帰路についた。少なくとも、周囲からはそう見えただろう。並んで歩いて、くだらない話をして。——ただ少しだけ、いつもより歩幅が狭かった。どちらからともなく。
mz太の家は学校から徒歩十五分ほどの住宅街にあった。一人暮らしのワンルーム。
prっつ「……おじゃまします。」
靴を脱ぎながら、きちんと揃える。——prっつは何度かこの部屋に来たことがある。ゲームしに。漫画読みに。——でも今日は、初めて来た場所みたいな顔をしていた。
prっつ「……なんか飲むもんある?」
台所に向かいながら、努めて普通に振る舞おうとしている。——さっき保健室で全部ぶちまけたはずなのに、こうして日常を演じようとする。それがprっつなりの優しさだった。
mz太「ぇっと、コーラとかならあったと思う。…この前、pーのすけが来た時用に買ったから。」
prっつ「——……覚えてくれとったん。」
冷蔵庫を開けた手が一瞬止まった。——コーラのペットボトルが二本、きちんと並んでいる。前に来た時、prっつが好きだと言った銘柄。
prっつ「……ありがとな。」
グラスに注いで二つ持っていく。——テーブルに向かい合って座ると、ようやく一息つけた。
prっつ「……なぁ。お前さ、」
コーラを一口飲んで、グラスを置く。
prっつ「やりたいこととか、行きたいとことか——あるん?残り、二十六日で。」
重い話のはずだった。——でもprっつは、まるで旅行の計画でも立てるような口調で聞いた。——泣かないと決めたのだ、さっき。
mz太「………そうだなぁ……。俺は、いつものように、ぷーのすけと楽しく居られればそれで良いよ。」
mz太「……でも、強いて言えば……ぷーのすけと、どこか遊びに行きたい。町の行事とかでも、旅行でも、何でも良いから、二人で遊びに行きたい。何か特別なこともしたい。」
prっつ「——特別なこと、か。」
繰り返して、少し考え込むように天井を見上げた。——それからぱっと顔を戻す。
prっつ「よし。ほんなら全部やろ。」
指折り数え始めた。
prっつ「まず——来週、商店街の秋祭りあるやん。あれ行こ。あと再来週は文化祭やし、一緒に回ろ。……旅行はちょっと厳しいかもしれんけど、日帰りでどっか遠出もできる。電車乗ってさ、海とか。」
矢継ぎ早に。——まるでスケジュール表を埋め尽くすように。
prっつ「特別なことは——まぁそれは追々考えるとして。」
にっと笑った。——少しだけ目が赤いまま。
prっつ「全部付き合うから。一日も無駄にせんぞ。——約束な。」
mz太「……」
mz太はそんなprっつの様子に、少しぽかんとしていたが——
mz太「……ふはっ笑、何それ、全部はやばすぎ笑。……まぁ、でもありがと。——約束。」
mz太が笑った。——久しぶりに、ちゃんと笑えた気がした。
prっつ「……っ、」
その顔を見た瞬間、prっつは息が詰まりそうになった。——ずるい。こんな時にそんな顔すんな。
prっつ「……おう。約束。」
小指ではなく、今度は拳を突き出した。——こつん、とmz太と拳を合わせる。
夕暮れが部屋を橙に染めていく。——コーラの炭酸がぱちぱちと弾ける音と、二人の呼吸だけの静かな時間。
prっつ「……なぁ、今日泊まってってええ?」
mz太「今日?……」
少し考えてから言った。
mz太「うん、良いよ。」
prっつ「よっしゃ。」
嬉しそうだった。
——隠す気もないらしい。
その夜、二人は狭いベッドに無理やり並んで寝転がった。——肩と肩がくっつく距離。枕は一つを奪い合い、結局mz太が使うことになった。
消灯。——暗闇の中、天井を見つめたまま二人はぽつぽつと話し続けた。好きなゲームの話。学校の先生のモノマネ。くだらなくて、どうしようもなく愛おしい会話。
やがてprっつの呼吸が規則的になった。——眠ったらしい。起きている時は気丈に振る舞っていたが、疲れていたのだろう。
暗がりの中、すぐ隣にある体温。——prっつの寝息が微かに聞こえる。
ソッとprっつの頬に手を添えた。
mz太「……おやすみ、pーのすけ。」
そして、ボソリと
mz太「……大好きだよ。」
届くはずのない言葉だった。——prっつは眠っている。聞いていない。それでいい。言えたこと自体が奇跡みたいなものだったから。
添えた手をそっと離す。——prっつが無意識にその温もりを追うように寝返りを打って、mz太との距離がさらに縮まった。肩に重みがかかる。——prっつの頭が乗っかったのだと気づくのに数秒かかった。
……あったかい。
こんな夜がずっと続けばいいのに。——そう思いながら、mz太もゆっくりと目を閉じた。隣に誰かがいる安心感が、ここ数ヶ月で一番深い眠りに誘ってくれた。
——夜が更けていく。秋の虫の声だけが窓の外で鳴いていた。
……あと二十五日。
next ♡ 5000 ⤴︎⤴︎
参考パクリ×
表紙イラスト保存⚪︎
無断転載
自作発言 禁止
無断使用
コメント
2件
涙腺崩壊不可避 だね この 物語 😭😭 pr 彡 mz 彡 互い に 相手 の こと を 想 っ てる のが 最高 すぎた 😿💖 (( ? pr 彡 イケメン すぎて やばい です 🫵🏻💗 相変わらず 物語 書くの 上手すぎてるよ !!! 🫶🏻︎