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junp_
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#めめこじ
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ab.side
目黒が「少し」と認めてくれたあの夜から。 私たちの距離は、ほんの少しだけ変わった。
朝、顔を合わせれば挨拶を交わすようになった。
食事を共にすることも増えた。
庭を歩くとき、気づけば隣に旦那様がいることもあった。
以前の私なら、そんな日が来るなんて思ってもいなかった。
この家に嫁いだばかりの頃。
旦那様は冷たく、必要なこと以外はほとんど話さない人だった。
私も、そんな方なのだと思っていた。
政略によって結ばれた夫婦。
家同士のために決められた縁。
そこに心が入り込む余地など、ないのだと。
それなのに。
少しずつ。
本当に少しずつだけれど。
旦那様は、私に心を見せてくれるようになった。
そのことが、私は嬉しかった。
朝に「おはよう」と言ってくれるだけで。
隣に座って食事をしてくれるだけで。
名前を呼んでくれるだけで。
胸の奥が、温かくなった。
――私は、こんなことで嬉しくなってしまうのだ。
そう気づくたびに、自分が恥ずかしくなった。
けれど。
嬉しいものは、嬉しかった。
旦那様が私にだけ見せてくれる表情。
私の話を黙って聞いてくれる時間。
ほんのわずかに緩む、その表情。
それらすべてが、私には大切だった。
だからこそ。
忘れてはいけないこともあった。
この結婚は、最初から決められていたものだということ。
⸻
ある日の夕方。
私は縁側で古い和歌集を読んでいた。
庭から吹いてくる風が心地よくて、ページをめくる手を止めたときだった。
mg「何を読んでいる。」
声がして、顔を上げる。
旦那様だった。
「昔の和歌集です。」
mg「好きなのか。」
「はい。」
私は少し笑った。
「言葉にできない気持ちを、別の形で残せるところが好きです。」
そう答えると、旦那様は何も言わず、私の隣に腰を下ろした。
その距離の近さに、少しだけ胸が騒いだ。
以前なら、こんなふうに隣に座ることなんてなかった。
それが今では、当たり前になりつつある。
――いけない。
そう思いながらも。
私は、その時間を嫌だとは思えなかった。
mg「お前は。」
「はい?」
mg「言葉にできないことが多いのか。」
思わず笑ってしまった。
「旦那様ほどではありません。」
旦那様は何も言わなかった。
否定もしない。
その様子がおかしくて、私はまた小さく笑った。
すると。
隣から、ほんの少しだけ気配が柔らかくなった。
旦那様が笑ったわけではない。
けれど、表情がわずかに緩んだ。
それだけで、胸がいっぱいになる。
――もっと、この人のことを知りたい。
そんなことを思ってしまった。
そのとき。
mg「阿部。」
名前を呼ばれた。
心臓が大きく跳ねる。
「はい。」
顔を向ける。
旦那様は何かを言おうとしていた。
mg「俺は――」
その先を待った。
もしかしたら。
もしかしたら、この人も同じ気持ちなのではないか。
そんな期待が、ほんの一瞬だけ胸をよぎった。
けれど。
怖くなった。
これ以上、期待してしまうのが怖かった。
「旦那様。」
私は先に口を開いた。
「私たちは、政略結婚ですよね。」
旦那様の表情が止まった。
mg「……。」
「忘れていたわけではありません。」
自分に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を続ける。
「この家に来た時から、分かっています。」
mg「何が言いたい。」
少し低くなった声。
私は膝の上で手を握った。
「旦那様が優しくしてくださることを、嬉しいと思っています。」
本当だった。
嘘ではない。
むしろ、嬉しすぎるくらいだった。
「でも……それを勘違いしたくないんです。」
言葉にした途端、胸が痛んだ。
「旦那様は、家のために私を大切にしてくださっているだけかもしれない。」
mg「違う。」
すぐに返ってきた。
あまりにも早い否定に、私は思わず目を見開いた。
旦那様自身も驚いているようだった。
けれど。
私は首を横に振った。
「ありがとうございます。」
それ以上、聞いてしまったら。
私はきっと、期待してしまう。
「でも、私は旦那様の負担にはなりたくありません。」
mg「負担?」
その言葉に、旦那様の声がわずかに揺れた。
「はい。」
私は笑おうとした。
けれど、うまく笑えていたかは分からない。
「私は、旦那様の優しさに甘えてしまいそうだから。」
もっと近くにいたい。
もっと話したい。
もっと私を見てほしい。
そんな気持ちが、どんどん大きくなってしまう。
だから。
「今の距離が、きっと一番いいのだと思います。」
そう言った。
自分で口にしておきながら。
その言葉が、一番苦しかった。
⸻
それから私は、少しだけ距離を戻した。
朝食は、以前のように別々にした。
必要以上に旦那様の部屋へ行かないようにした。
仕事をされているときは、できるだけ邪魔をしないようにした。
「旦那様、お茶を置いておきますね。」
mg「……。」
「失礼します。」
襖を閉める。
その瞬間。
胸の奥が、きゅっと痛んだ。
本当は。
もう少しここにいたかった。
一言でも話したかった。
けれど。
これでいい。
最初から、そういう関係だったのだから。
旦那様が私に優しくしてくれたこと。
一緒に食事をしたこと。
庭を歩いたこと。
名前を呼んでくれたこと。
全部、大切な思い出にすればいい。
そうすれば。
これ以上、傷つかずに済む。
――そう思っていた。
けれど。
数日も経たないうちに。
私は、自分が思っていた以上に旦那様を求めていたことを知った。
声を聞けないだけで寂しい。
隣に座らないだけで落ち着かない。
朝、顔を合わせても以前のように話せないことが苦しい。
距離を戻したのは自分なのに。
自分で決めたことなのに。
胸の奥は、少しも納得してくれなかった。
⸻
数日後。
庭に出ると、旦那様がいた。
mg「阿部。」
「はい。」
振り返る。
いつも通りに笑った。
笑わなければいけないと思った。
何も変わっていないように。
けれど。
mg「なぜ避ける。」
胸が跳ねた。
「避けていません。」
mg「嘘だ。」
静かな声だった。
私は何も言えなくなった。
mg「俺が何かしたか。」
「違います。」
mg「なら。」
旦那様が言葉を止める。
そして。
初めて見るような顔をされた。
迷っている。
困っている。
そんな顔。
mg「なぜ離れる。」
その一言で、胸の奥に押し込めていたものが溢れそうになった。
本当は。
私だって離れたくなんてない。
でも。
「旦那様。」
声が震えそうになるのを必死に抑えた。
「私は……。」
言ってしまっていいのだろうか。
迷った。
それでも。
もう、隠しておくことはできなかった。
「旦那様にとって、大切な人になりたいと思ってしまいました。」
旦那様の息が止まるのが分かった。
私も、自分で言ってしまった言葉に胸が苦しくなった。
「でも。」
続ける。
「それが私の一方通行だったら、きっと苦しくなるから。」
本当は、もっと近づきたい。
もっと旦那様の隣にいたい。
もっと私だけを見てほしい。
でも。
それを望んでいいのか、分からなかった。
「だから、少しだけ戻ります。」
風が吹いた。
雪解けの水が、庭の隅で小さな音を立てている。
「最初の距離に。」
旦那様は何も言わなかった。
私は、その沈黙が怖かった。
やっぱり。
私だけだったのだ。
そう思おうとした。
けれど。
旦那様の握られた拳が目に入った。
何かを堪えているように見えた。
それだけで、ほんの少しだけ期待してしまう自分がいた。
――だめ。
これ以上は。
私は一礼した。
「失礼します。」
背を向ける。
一歩。
また一歩。
離れていく。
本当は。
呼び止めてほしかった。
「行くな」と言ってほしかった。
私のことを必要だと言ってほしかった。
けれど。
そんなことを願う資格が、自分にあるのか分からなかった。
だから振り返らない。
振り返ったら、きっと戻ってしまう。
あの人の隣へ。
もう一度、あの温かい場所へ。
私は歩き続けた。
胸の奥が、どうしようもなく痛かった。
そして。
初めて気づいた。
私はもう、この結婚をただの政略結婚だと思えなくなっている。
家のために嫁いだはずなのに。
いつの間にか。
旦那様の隣にいることを、願ってしまっている。
この人にとって。
家の都合で結ばれた妻ではなく。
一人の人間として。
大切な存在になりたいと思ってしまった。
だからこそ。
怖かった。
もし、それが叶わなかったら。
もし、私だけがこの気持ちを抱えていたら。
きっと、私はもう元の距離には戻れない。
遠ざかる足音を聞きながら。
私は胸元をそっと押さえた。
――どうか。
これ以上、好きになりませんように。
そう願った。
けれど。
自分の心が、もうその願いを聞いてくれないことを。
私は知っていた。
続
コメント
7件

悲しいよ😭 本音を全部話して 結ばれて欲しいよ〜
え…まさか…バイバイとかないよね?! 結ばれて欲しいよー(泣)
切ないよー😭😭😭😭 結ばれてほしい🖤💚