透明な放課後。
 
 
 ⸻
 俺の目の前に、6人の“影”が立っていた。
 きんとき、broooock、シャークん、スマイル、きりやん、そして俺自身。
 それぞれが、曖昧な輪郭で光と影の狭間に立っている。
声も、姿も、少しずつ溶け始めていた。
 空は深い灰色。
まるで、時が止まったような世界。
 (……選ばなきゃ)
 きりやんの声が脳内に響く。
 「あなたが“覚えている”ということが、存在の証になる。
名前を呼んで、想い出して。
“残したい”って願った存在だけが、世界に残るの」
 俺は、ひとりひとりの顔を見つめる。
 ⸻
 きんとき:優しくて、少し不器用で。
よく2人きりで美術室にいた。
「nakamuって、変わってて好き」って、何気なく言ってくれた。
だけど――最初に消えた。
 broooock:明るくて、人気者で、だけど“どこか嘘っぽい”。
笑顔の奥に、何かを隠していた。
「ほんとにきんときっていたっけ?」その言葉が、いまも胸に刺さってる。
 シャークん:記録して、支えてくれて、真っ直ぐだった。
わたしを信じてくれていた。
だけど、それすら「選ばなきゃいけない」と言った。
“選べ”と背中を押したのも、シャークんだった。
スマイル:一番、空気みたいな存在だったかもしれない。
けれど、一番最初に心の距離が近づいた気がする。
でも、いつからか、記憶の中で消えかけていた。
 きりやん:落ちた存在。
すべてを知っていて、それでも黙っていた。
「後悔のかたち」として現れ、俺に真実を告げた。
一番、強くて優しくて、壊れそうだった。
 ⸻
 俺の目に、涙が浮かぶ。
 誰かを選ぶということは――
他の誰かを切り捨てること。
 それでも、選ばなければ、誰も残らない。
 ⸻
 風が止んだ。
 「……俺は」
 俺の声が、ゆっくりと静寂に溶けていく。
 「私は――」
 ⸻
 数秒の沈黙。
 やがて、俺の唇がたったひとりの名前を呼んだ。
 ⸻
 その瞬間、世界が砕けた。
 白い光。崩れる空。飛び散る記憶の破片。
 誰かの笑い声。誰かの泣き声。
そして、最後に響いたのは――きりやんの声。
 「――ちゃんと、選べたね。ありがとう」
 ⸻
 俺は、目を覚ました。
 教室だった。
放課後の教室。窓からは夕日が差している。
 隣の席に、“ひとり”だけが座っていた。
 その顔を見たとき、俺は小さく息を呑んだ。
 (……覚えてる。俺は、この人を……)
 「……おはよう、nakamu。寝てたよ」
 穏やかな声。
 そこにいるのは、たしかに“存在している”人間だった。
 他の5人の名前は、もう思い出せない。
けれど――心のどこかで、俺は覚えていた。
 “誰かが消えて、自分が何かを選んだ”ことを。
 
 
 つづく
 ーーーーーーーーーーーーーーーー







