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透明な放課後

9 - 第9話『たったひとりを、選ぶなら』

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2025年08月16日

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透明な放課後。





俺の目の前に、6人の“影”が立っていた。


きんとき、broooock、シャークん、スマイル、きりやん、そして俺自身。


それぞれが、曖昧な輪郭で光と影の狭間に立っている。

声も、姿も、少しずつ溶け始めていた。


空は深い灰色。

まるで、時が止まったような世界。


(……選ばなきゃ)


きりやんの声が脳内に響く。


「あなたが“覚えている”ということが、存在の証になる。

名前を呼んで、想い出して。

“残したい”って願った存在だけが、世界に残るの」


俺は、ひとりひとりの顔を見つめる。



きんとき:優しくて、少し不器用で。

よく2人きりで美術室にいた。

「nakamuって、変わってて好き」って、何気なく言ってくれた。

だけど――最初に消えた。


broooock:明るくて、人気者で、だけど“どこか嘘っぽい”。

笑顔の奥に、何かを隠していた。

「ほんとにきんときっていたっけ?」その言葉が、いまも胸に刺さってる。


シャークん:記録して、支えてくれて、真っ直ぐだった。

わたしを信じてくれていた。

だけど、それすら「選ばなきゃいけない」と言った。

“選べ”と背中を押したのも、シャークんだった。

スマイル:一番、空気みたいな存在だったかもしれない。

けれど、一番最初に心の距離が近づいた気がする。

でも、いつからか、記憶の中で消えかけていた。


きりやん:落ちた存在。

すべてを知っていて、それでも黙っていた。

「後悔のかたち」として現れ、俺に真実を告げた。

一番、強くて優しくて、壊れそうだった。



俺の目に、涙が浮かぶ。


誰かを選ぶということは――

他の誰かを切り捨てること。


それでも、選ばなければ、誰も残らない



風が止んだ。


「……俺は」


俺の声が、ゆっくりと静寂に溶けていく。


「私は――」



数秒の沈黙。


やがて、俺の唇がたったひとりの名前を呼んだ



その瞬間、世界が砕けた。


白い光。崩れる空。飛び散る記憶の破片。


誰かの笑い声。誰かの泣き声。

そして、最後に響いたのは――きりやんの声。


「――ちゃんと、選べたね。ありがとう」



俺は、目を覚ました。


教室だった。

放課後の教室。窓からは夕日が差している。


隣の席に、“ひとり”だけが座っていた。


その顔を見たとき、俺は小さく息を呑んだ。


(……覚えてる。俺は、この人を……)


「……おはよう、nakamu。寝てたよ」


穏やかな声。


そこにいるのは、たしかに“存在している”人間だった。


他の5人の名前は、もう思い出せない。

けれど――心のどこかで、俺は覚えていた。


“誰かが消えて、自分が何かを選んだ”ことを。




つづく


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