「ここ、一緒に行かない?」
そう切り出されたとき、驚いたと同時に嬉しさで胸がいっぱいになった。他のメンバー―きっくんとか誘うのかと思ってたから。でもそれじゃ俺の家に来た意味がない。しかもうっすら期待してた自分にムカつく。
でも、こいつとサシで旅行なんて考えられなかったから、まさに青天の霹靂だ。俺は嬉しいのを必死で隠そうと
「あっそ」
なんて不機嫌そうに返した。その時のこいつの顔ときたら、楽しみな小学生だ。ガキかよ、と悪態をつきたい気持ちを抑えつつ、なるべく表情を見られないようにそっぽを向いた。俺が楽しみにしてるのがこいつにバレたくなかったから。
旅行の準備をしている中、確かに行くと言ったけれど詳細を何も聞いていなかったことを思い出した。アメニティは何があるんだろうとか、部屋着ってあるんだっけ、とか。
旅館ってことは多分浴衣なんだよな。でも俺サイズ合わねーし…どうしたもんかな。
「電話してみるか」
あいつのことだ、どうせ夜中まで起きてるだろ。もう2時になるんだけどな。
「出てくれよー…」
普段あまり開かない奴のラインを開いて、通話ボタンを押す。
『もしもし』
「あ…起きてた?」
『うん、どうした?』
「いや…旅行のことで…」
やっぱり起きてたわ。早く寝ろよって言いたかったけど、俺も起きてたし人のことは言えないな。声は…あまり眠そうじゃないから普通に起きてたようだ。
部屋着があるかって聞いてみたけど、やっぱり浴衣があるみたいだった。
「俺さ、浴衣大きくて脱げちゃうんだよね。だから部屋着持っていこうかと思ったんだけど」
これは俺のエゴだが、ここで浴衣を着てほしい!なんてなったら嬉しい…って、俺らしくないな。でもやっぱり返ってきた言葉はこいつらしい、可もなく不可もなく、
「荷物かさばるんじゃない?」
わかってたよ。期待しちゃいけないことくらい。でもさ、あいつの浴衣姿も見られるなら別にいい。そう思っていると、電話口から聞こえてきたのは
『楽しみにしてる』
心臓がチクッとなった。俺だって…楽しみにしてるよって言えたらどれだけ楽だろう。心の中で「俺もだよ」と返して、当の本人には「ん」と一言だけ。
旅行当日。昨日はドキドキであまり寝られなかった。朝が早いのもあるけれど、行きの電車で俺は我慢できなくなって寝てしまった。
「あろま、起きろ!」
何だよ、せっかくいい夢見てたのに…
向かい側の窓を見てみると、青々とした水平線が見えた。あれ、夢じゃない?隣に感じる温もり。
あ、現実か。
「いい景色でしょ?」
ああ、めちゃめちゃいい景色じゃん。なんていうか―
「来てよかったな」
俺らしくない言葉を聞いて、驚いた様子のえおえお。俺だって旅行好きなんだ。いい景色を見たら素直にそう言う。こいつと一緒にいるから美化されてるのかもな、なんて絶対に言わねぇけど。
To Be Continued…
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