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「ぱひー、ぱひー」
「はぁい♡ どうしたのよぉ?」
「何そのデレッデレな声。どこから出したの……」
返事をするだけでネフテリアを呆れさせたパフィは、アリエッタの前で屈み、会話を促す。
アリエッタが覚えた言葉を駆使して必死に話そうとする姿は、保護者の心をこれでもかと書き乱すのだ。
「ぱひー、ふぉーく、えいっえいっ」
「うんうん。フォークで、突くのよ?」
「つくのー。ふぉーくっ、つくのよー」(使い方合ってるか? お願い察して!)
「っ! 興奮しちゃいそうなのよ」
「最初からしてるでしょ。いやまぁ気持ちはすっごく分かるけど」
真似をして必死に知らない言葉を使おうとする姿に、大人達はメロメロになっている。ツッコミを入れているネフテリアも、ちょっと頬を染めて見守っているのだ。完全に冷静なのはピアーニャとイディアゼッターのみ。
「この娘はとても良い子なんですよねぇ。おそらく母親も悪気は無いのでしょうが……」
「いやぁ、コイツはワルギなく、わちをふりまわすからな。ハナシにきくエルさんと、あまりかわらないキがするが?」
「うぅむ……せめて悪神に育たないよう時々見守らねば」
「む、パフィはナニをするつもりだ?」
アリエッタの事で盛り上がっていると、パフィが立ち上がった。どういう訳か、困惑した顔のままやる気に満ち溢れている。
「なんつーキヨウなカオしてるんだ、アイツ」
そのまま見守っていると、両手でフォークを持ち、慎重に狙いを定めている。しかし四角形の物体は、まだまだかなり遠くに浮かんでいるのだが……。
「フォークは、チョクセツつきさすブキのはずだが……まさか」
「考えられる展開は、多くないですね」
嫌な予感しかしない2人は、何が起こってもすぐに動けるように、周囲に『雲塊』と手を浮かべて備えている。見た目が怪しい神の周囲に手が4つ浮かんでいるというビジュアル的な問題のせいで、この場にいるソルジャーギアだけでなく、シーカーからも恐れおののかれてしまっているが。
やがてパフィに僅かな変化が見られた。攻撃をするようだ。
「【フルシェット・」
アリエッタに魅せる為に、技名までしっかり考えた様子。魔法と同じようにその名を口にする事で、仲間への注意喚起にも使える。もちろんフォークによるただの攻撃では必要ないのだが、何かが起こる気がしたパフィは、それを技として繰り出すことにしたのだ。
そしてその予感は的中した。
「ポニャーデ】!」
ギュオッ
フォークから伸びた三本の赤い光のうちの2本が、四角形の2つを貫き、霧散させた。
「きゃーきゃー! ぱひー!」
「フォークからなんか出たのよ!?」
パフィの攻撃に、アリエッタが目をキラキラさせて大喜び。
アリエッタの塗装によって、フォークが異様な進化を遂げてしまったのは明らかである。
「アリエッタは、まっすぐコウセンをとばすのがスキなのか?」
「どうかは分かりませんが、そういう傾向はありますね。無駄な破壊が無い点は安心ですが」
爆発という周囲に影響が出るような事をしない事には、素直に感心している2人。
しかし感心してばかりはいられないようで……。
「ぱひー! かこいー! ぱひー! すごいー!」
「そ、そうなのよ? うふふ、もっと見せてあげるのよー!」
今度は調子に乗ったパフィが、ビームを全方向に乱射し始めてしまった。
元凶のアリエッタはぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
「おおい! パフィまてまて!」
「え? 総長も刺してほしいのよ?」
「んなわけあるかあああああ!!」
ピアーニャの叫びで、アリエッタも我に返った。
(はっ、そうだった。みゅーぜのカッコイイ所も見なきゃ!)
だからといって止まるとは限らないが。
「みゅーぜ、みゅーぜっ、まほう」
「えっ、魔法使えばいいの? でもまだ届かないけど、もしかしてパフィみたいな事になるのかなぁ?」
さらに近づいている四角形の群れに向けて指を差しながら言っているので、何に何をすればいいのかは簡単に察しが付く。
「でもあたし、放出型の魔法苦手よ? いつものでいいのかなぁ?」
「だったら、また撃ってくるのがいても困るから、壁でも作ってみたらどうかな?」
「なるほど」
ミューゼは植物を操る事に特化しているので、それ以外の魔法はそれほどうまく扱えない。それだとパフィのように届くか分からないので、ネフテリアが防御する事を提案した。1方向に巨大な木でも生えれば、そうそう囲まれる結果にはならないと踏んだのだ。
「それじゃあいくよアリエッタ。【禍林樺】!」
ズゴォッ
その時、サイロバクラムの地形そのものが変わった。
ミューゼが使ったのは林を創り出す魔法。通常であれば家数件分の範囲に、少しの感覚を開けて大量に木を生やすという、割と大規模な魔法である。直接の攻撃性はないが、戦況を大きく変化させたり、建築素材を大量に確保できるのだ。
だが、今回創り出されたのは、林ではなく……
「巨大な樹海が出来てますね」
「おおおいいいいいいい!! なにやっとんじゃミューゼオラあああああ!!」
はるか遠くまで続く木々の海に、まだまだ遠くの地面すれすれに浮かんでいた四角形が大量に巻き込まれ、消滅していたりする。
「えと……や、やりすぎちゃった☆」
「限度ってもんがあるでしょおおおおおお!!」
ペロッと可愛く舌を見せるミューゼに、ネフテリアが絶叫した。その隣で、アリエッタが目にハートを浮かべて興奮している。
「みゅーぜー! キャー!」(かっこいいー! テヘペロかわいいー! もう無理ー! 推しが良すぎてしぬー!)
「お、おぉ……なんだこのアリエッタ……」
かつてないテンションの爆発に、ピアーニャがドン引きしてしまっている。
「ぴあーにゃ! みゅーぜ! すごい! ぴあーにゃっ!」
「ひぃっ! ちょっわかった! わかったからはなせひぎゃあああああ!」
ついにはアリエッタに掴まり、ハイテンションのまま振り回され始めた。イディアゼッターは苦笑いするしかない。
「みゅーぜすごい? みゅーぜすごい?」
「すごいからっ! すぐえっ、おもいっ…しめ……ゼッちゃっ…!」
「大変仲がよろしいようで、なによりです」
どこがだっと叫びたいピアーニャだったが、アリエッタに顔を抱きしめられていて声がうまく出せないでいる。
しかし、突然アリエッタの動きが止まった。何事かと思ったピアーニャが恐る恐る顔を覗き込むと、相変わらず目にハートを浮かべたまま、ニマニマとほくそ笑んでいた。
(むふふ、みゅーぜとぱひーの隣に立てる男になれたら、幸せだろうなぁ。それには同じレベルで暴れないとな!)
(あ、これナニかたくらんでるカオだな? わかりやすいぞ)
そしてアリエッタがピアーニャを手放した。もちろんミューゼと一緒に戦う為である。
しかし、それを察していたピアーニャが、今度こそ叫んだ。
「テリア! わちもコンカイばかりはホンキでやる! こいつらゼンインとめろ!」
「うへっ、りょーかいっ! ミューゼ、パフィ、ちょっと止まって。アリエッタちゃんも止めなきゃ」
ホンキという言葉に嫌な顔をしたネフテリアが、ミューゼ達を制止する。肝心のアリエッタはミューゼに抱っこさせた上でいろんな事をさせて、強制的に大人しくした。
「ふえぇ……」(みゅーぜぇ、そんなぁ♡)
「ふぅ……♪」
「いやその満足感を隠してほしいかな。っていうか、わたくしもそういう風に受け入れてくれたら嬉しいなー」
「いやでーす」
「むー、いいもん、今度また頑張るもん」
どんなに拒否されても、王女は諦めないのだ。
その様子をイライラしながら見ていたピアーニャが、『雲塊』を捏ね回している。
「思いっきりやる気ですね」
「いーかげん、おもいっきりブッパなさないと、ストレスでおかしくなりそうだ」
「……ご苦労様です」
会話しつつも捏ねている『雲塊』は、徐々にその大きさを増していき、時々光を放ち始めた。ピアーニャの頭より大きくなると、今度は頭上に掲げた。手は動かしていないが、『雲塊』を操作して捏ね続けている様子。
さらに大きくなり、辺りの木程の大きさになると、今度は変形を始めた。渦巻きながら長く伸び、最終的には筒のような形状になった。
「何アレ。なんか光ってるけど」
「近づかないでね。危ないから。これがピアーニャの本気の一端なの」
「え、今までは本気出したことなかったのよ?」
「まぁそういう事なのよ。今まで見せていたのって、雲をただ変形させていただけの、攻撃技でもなんでもない行動だったから」
『えぇ……』
言われてみれば、雲を変形する事は、ハウドラント人なら一般家庭でもやっていた。その為、勝手に変形の手順か何かに『技』と呼ぶものがあるのかも…と、パフィは勝手に思っていたのだが、それは違うと今判明した。
「なんで今まで使わなかったんですか?」
「使うまでに準備が必要なのと、規模が大きいのが理由ね。こういう風に相当離れた相手じゃないと、あまり使う機会がないのよ。だからこそ奥の手としては完璧なんだけど。っと、気を付けて、撃つわよ」
雲に片腕を突っ込んだピアーニャが、髪や服を揺らしながら佇んでいる。筒状の『雲塊』は時々発光し、その筒の中は特に強く発光している。
周囲のソルジャーギアも、シーカー達に促されて警戒態勢になっていた。
そしてピアーニャが狙いを定め、正面の四角形達に向かって攻撃した。
「おちろ!【狼狩の雷砲】!!」
瞬間、筒状の雲から雷が放たれ、遠くの四角形に引っ張られるように着弾。さらにそこから全方位にさく裂し、広範囲に雷をまき散らした。巻き込まれたほとんどの四角形が消滅していく。
「うわー」
「総長ってこんなに凄かったのよ? ちっこいだけじゃなかったのよ?」
「ほぇ~……」(ぴあーにゃ、こんなに凄い子だったの?)
3人の反応に、ピアーニャはちょっぴりイラッとした。
(ちっこいとかいうなっ! っていうかアリエッタのやつ、すこしはコワがってくれ!)
見ていたソルジャーギアは数名怖がっているが、そんな事はどうでもいいピアーニャだった。
パフィ、ミューゼ、ピアーニャの攻撃でさらに大きく数を減らした四角形は、ここで高速移動を始めて一気に空いた場所を埋めつつ急接近してきた。まだ少し距離はあるが、アーマメントや魔法でかなり狙いやすくなった。という事は、予想される惨事が近づいたという事でもある。
「もう少しのようですが、これからどうなさいますか?」
イディアゼッターの言葉に、改めて顔を引き締める一同。その中でも、アリエッタの顔が真剣なのが、どうしても気になってしまうのだった。