ヒトリシズカに【小説版】
顔が傷だらけだからパーカーを深く被って顔が見えないようにして、街を歩く。
こんな生活もう嫌だ‥解放されたい‥と思い、下を向いて暗い顔をする。
そうして歩いているとほのかにパンの匂いがする男性が僕を見て、近付いて来た。
「どうしたんだい?‥」
心配してそうな声色で僕に向かってそう言った。僕は顔が見えないくらいに見上げた。
「‥うちに来なよ。」
急にそんな事を言われて、少しびっくりした表情をする。
もしかして誘拐かな‥、と思ったが、誘拐ってこんなベタに言うのかな…と思考を巡らせながらも、コクリと頷いてパンの匂いがする男性について行く。
予想は当たっていたらしく、パン屋に入って行く。僕もそれについて行く。
僕に椅子に座るように言うと、厨房に行き、何かを作ってくれて僕の前にそれを置いた
男性曰くそれはラスクと言うらしい。
ラスクというものから漂う甘い匂いに釣られて、一口食べてみる。
甘い。こんなまともな食べ物は初めてだ。
ラスクに夢中になってると、男性は携帯を弄りながら少し暗い顔をしながら
「他人の家庭だからどうこう言えないけどさ‥、、お父さんはどうしたの?ずいぶん君幼いよね‥」
『ぁ‥えっと‥‥別に、一人でおつかいです、』
初めて嘘を付いた。
でもこれは自分の身を守るためには仕方がなかった。
「そっか‥」
『でも‥‥』
息が苦しくなる。呼吸がしづらい。
言わないほうが良いと思っていたのに、つい言ってしまった。
『お母さんは昔‥僕とお父さんを置いて出ていって‥、、僕は無能力者だからお父さんにも愛されなくて‥』
違う。愛されないのは無能力者だからじゃない。存在自体。存在自体が嫌いなのだ。
だけどそう思いたかったがためにまた嘘を付いた。
「‥そっか‥それはつらかったね。」
優しげな声でそう言った。それとは違い表情は少し罰が悪そうにしていた。
急に大きな音が聞こえた。
ドアを開ける音だ。
「おいお前。」
怒ってる顔でお父さんが僕に近付く。
何故この場所が、?ふとパン屋の男性を見つめる。
パン屋の男性は微笑んでいた。
僕にとってその笑顔は悪魔より悪魔の微笑み方をしていた。
僕はその笑顔を見て、無意識に涙がポロポロでてしまった。
「おい、帰るぞ。」
僕の手が潰れそうなほど強く手を掴んできて手を引っ張られる。
痛い。苦しい。
『離してッ‥!』
涙を流しながらそういうとお父さんはもっと怒った顔をして
「親に向かってどんな口の利き方してるんだ!!」
と殴ろうとする。
パン屋の男性はそれを静止させる様に言って
「それは‥家でね。」
と言った。
お父さんは無言で僕の手を掴んで帰ろうとした。
最後パン屋の男性は
「ごめんね。クレマチスさんの息子くん。」
そう言った。
僕は家に連れて帰られた。
「おい‥話すなって言ったよなぁ。」
胸ぐらを掴まれながらそう言われた。
「おい話聞いてんのか!!」
『ごめんなさい‥、!』
涙がポロポロ出つつも謝った。
だがお父さんは僕に殴りかかった。
「それじゃ分かんねぇだろうが!!」
痛い。口の中が切れたのか、ほのかに血の味がする。
ごめんなさい。ごめんなさい。無抵抗で殴られても何度も言うが、止まってくれない。
数十分後ようやくお父さんは止まってくれた。殴られ続けたせいか、僕の片目は少し開けづらくなった。
「反省しろよクソ生ゴミ。」
僕に向かって言った言葉。
僕は呼吸がしづらくて必死に呼吸をした。
息を整えながら僕は誓った。
大人は最初から信用しないし、僕の過去は言わない。人間は他の人間を利用して自分の利益だけ奪い取る利用し合いの関係だと。
みんなにとっての愛は悪意だと。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!