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「御二人にもこんな時期があったのですね」
「はっはっ! そうさぁ。儂は陛下が皇太子時代から画院にいたがのぅ、それはもう、沢山描かされたぞ。ほれ、見てみなさい」
姜弘が天日干しの中から、幾つもの絵を集めてきた。
「これは皇后様が髪結をしているところで、あまりに美しいから儂に描いて残すようにとうるさくてのぅ。急いで筆と紙を用意して描いたんだったな」
侍女に長く艶やかな髪を梳かれて、鏡台の前に座っている。女性の何気ない日常だが、確かに目を奪われるほど美しい。
「こちらの絵は桂花餅……ですか?」
丸い形の中に小さな花の模様。淡い黄色で着色されており、金木犀を使った餅だと分かった。皿の上に乗った餅だけがただ描かれているだけの絵。
その絵を見ると姜弘は苦々しげに笑った。
「そう、桂花餅じゃ。皇后様が陛下の為に作ったといってなぁ。餅は食べると無くなってしまうから、儂に描いて残しておけと言うんじゃよ。ただの餅をじゃぞ?! まったく呆れてしまったわい」
「ふふっ、余程うれしかったのでしょうね」
「こっちは宴の席で舞を見ているところ。この絵を描いている時に二人がなんと会話していたか分かるかい?」
「そうですね……皇后陛下が『なんて美しい舞なんでしょう、ねえ陛下』とかでしょうか」
何人かの踊り子が領巾を靡かせ、両陛下の前で踊っている。
目線は舞を見ているが、お互いに肩を寄せ合い、皇后は口元を袖口で隠して微笑んでいるように見える。
「その通りじゃ。その後陛下は『そうだね、でも其方の方がもっと美しいぞ』と仰っていた時には、聞いているこちらが恥ずかしいくらいじゃったわい」
「わぁ! 愛妻家ですね」
「陛下は結婚する前から皇后様にぞっこんだったからな。誰を皇后に据えるかという話になった時、胡淑妃と樊貴妃の名も上がっていたが、陛下が今の皇后様にすると言って譲らなくてなぁ。胡淑妃を推していた皇太后様がついには折れて、皇后になることをお許しになったのだよ」
「そこまで……」
姜弘が持ってきた絵を見ると、どの絵からも皇后への愛を感じる。
暖かい眼差しで皇后を見つめる顔。そっと手を取る様子。互いに気遣う仕草。
そこには麗霞の描く春画のようなエロの要素は全くないのに、胸がトクトクと高鳴ってくる。
#異世界転移
花月夜れん
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設楽理沙
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耀聖(ようせい)
269
耀聖(ようせい)
855
「それにしても、お若い頃の絵ばかりですね。もっと後のは、別の場所にしまってあるのでしょうか」
蔵の一角しか天日干ししていないので、まだ蔵の中に残っているのかと思い聞いてみると、姜弘は首を横に振った。
「一人目のお子様が生まれた時からだったか。絵の依頼が徐々に減っていったのは。三人目の暁明様がお生まれになった後は、儂は一枚も描いておらん」
姜弘は生まれたばかりの暁明皇太子を腕に抱いた絵が最後だと、手渡してきた。
上の二人は女の子で、皇子が産まれてきた皇后は、この時何を思っていたのだろう。嬉しい反面、不安だったんじゃないだろうか。権力争いから息子を守るため、必死だったのが絵から伝わってきた。
口元は笑っているのに、目つきは以前の絵のものよりも少し鋭く警戒しているように見える。
「それは何故なのですか? こんなに仲睦まくしてらしたのに」
「さあのぅ。夫婦の間の事じゃ。色々あるんだろうて。陛下も多くの妃嬪を後宮に迎え入れて、子を儲けなさった。陛下とて男だから、若い女性に魅力を感じるのは自然というもの。何度も子を産んだ女性よりもと、別の女性へ目がいってしまっても仕方ないじゃろう」
「そういう……ものですか……」
「そういうもんじゃ。陛下の寵愛を受けるために、国中から集められた女性がアピールしてくるんだぞ?」
「そうですね」
と返事をしたものの、正直なところ、陛下にはガッカリしてしまった。
子を多く儲けなければならないのはわかる。子孫繁栄を願うのはどこの家庭だって同じだし、皇帝という立場なら尚更。
ただそれとこれとはまた別じゃない?
皇后だけを見ることは出来なくとも、愛情を持って接することは出来るはずだし、何もそんな素っ気なくならなくたって。
それならいっその事、初めからイチャイチャしてこないで欲しいと麗霞なら思う。最初から淡白な関係だったなら、そういうものだと割り切れるかもしれない。
でも一途に愛されていた頃があったなら、きっとその落差に苦しめられるだろうから。
「私が皇后陛下なら嫉妬したでしょうね。昔は私だけを愛してくれていたのにって」
「はっはっ! そこが皇后様の凄いところじゃて。空よりも広く、海よりも深いお心をお持ちだからな。嫉妬するどころか他の妃嬪たちの子も、自分の子のように可愛がられておるし、慕われてもいる。あの様に出来た御方はそうそうおらん」
私には無理だわ。と思ったが、麗霞が皇后になる未来は来ないので要らぬ心配だったと気づく。
「ほれほれ、さっさと片付けないと、日暮れに間に合わなくなるぞ!」
「そうでした」
姜弘に言われて、天日干ししていた書画をきれいに拭き上げた棚へと戻していく。
蔵の中と外とを何往復もしていたら、外はもう薄暗くなってきている。最後の点検をしていたところで、一人の宦官に蔵の外から声を掛けられた。
「そこの官女よ、よいか」
「はい」
「これより陛下が、この蔵にしまわれている書画をご覧になりたいそうだ。しばし場を借りるぞ」
陛下……?!
ちらりと盗み見ると、皇帝が数名の連れを伴って待っていた。
恭しく返事をした麗霞が頭を垂れ扉の脇へと立つと、皇帝が蔵の中へと入っていく。
コメント
1件
第40話、拝見しました〜🕯️🤍 姜弘さまが描いた若き日の皇后さまの絵、どれも本当に愛に溢れてて、特に桂花餅を「食べたら無くなっちゃうから描いて残せ」って言ったエピソード、もう最高に可愛いし切ない…… そこから後の陛下が妃を増やしていった話に麗霞が「ガッカリした」って気持ち、すごくわかります。「昔は私だけを」って思っちゃうの、自然だよね。 皇后さまの広い心には到底なれそうにないけど、そういう人の器の大きさも描けるありみさんの筆致、本当に好きです。陛下登場で次回どうなるのか緊張〜!