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〇美術館・外
1ヶ月後。
『大英博物館展』の大きな看板。
〇同・内
優雅に館内を歩き、絵画観賞をする美花。
レイが立ち位置を変え、様々な方向から一点の絵を見ている。
その絵を観ようと、レイの後ろに立つ美花。
美花が来たことを確認したレイが、後ろに下がる。
ぶつかる美花とレイ。
美花の鞄が床に転がる
身軽に振り返ったレイ、軽い調子で、
レイ「ゴメ~~」
「ン」を飲み込み、美花の顔に見惚れる。
美花の強い視線から目が離せない。
レイ「あ、あ、すみ、ません……」
美花「痛いじゃない」
レイ「ご、ごめんなさい」
美花「拾いなさい」
レイ「は、はい」
床にしゃがんで鞄を拾うレイ、怯えた表情で美花を見上げる。
征服者の顔でレイを見下ろす美花。
レイの[首輪風チョーカー]を見ている。
顎を少し動かし「付いて来なさい」と合図して歩き出す。
鞄を持ち、美花に付いて行くレイ。
〇SMバー
洒落た高級店だが、装飾や照明がSM風の酒場。
着飾った男女が酒を飲んでいる。
赤いドレスを着た美花が、レイを伴い店内に入る。
レイの首輪に黒いチェーンが付けられ、先を美花が持っている。
顔中にピアスをした女性店員が出迎える。
店員「美花様。新しいペットですね」
美花「可愛いでしょ。でも拾ったばかりだから、まだ躾ができてないの」
店員「ウチでお預かりしましょうか? お好みに調教しますよ」
美花「いいわ。躾けるのも楽しみよ」
〇高級ホテル・ベッドルーム(夜)
手錠でベッドに繋がれた裸体のレイ。顔が紅潮している。
美花「しばらく側に居ていいわ」
レイの手錠を外し、外に出る美花。
手錠の『痕』を擦りながら、上半身を起こすレイ。
〇同・リビングルーム(夜)
服を着たレイが、美花の鞄を探っている。
美花が、高級ワインとグラスを持って入る。
美花「何してるの?」
美花「そのまま、こっちを向きなさい」
前を向くレイ。美花の財布を持っている。
美花「所詮は、野良犬ね」
レイ「金が……、欲しくて……」
美花がソファーに座り、ワインをグラスに注ぐ。
その前に立つレイ。
レイ「僕、役者って言ったけど本当は芸人です。『売れてない』のは本当だけど」
レイ「でも役者になりたくて。東京に行きたいんだけど……、リーダーが辞めさせてくれない」
美花「リーダー?」
レイ「トリオのリーダー。いつも偉そうにしてる。 でも、金を借りてるから抜けられない」
美花「いくら?」
レイ「百万」
美花「じゃあ、身請けしてあげる」
レイ「身請け?」
美花「たった百万で拘束されてるんでしょ? だったら、私が新しい飼主になってあげる」
レイ「本当に?」
レイは美花の足元に跪いた。
レイ「嬉しい。本当に嬉しい。これで……、絵を盗まなくていい……」
美花「絵を? 盗む?」
レイ「今日、観てた絵」
美花「あのとき観てたのは……」
レイが美術館で見ていた絵を思い出す。
美花「陳 峻栄の山水画?」
レイ「はい。陳 峻栄は、僕の、ひいひい爺さんです」
美花「まさか? ウソでしょ?」
レイ「本当です。ひいひい爺さんの絵を買いたいって、毎日のように人が来る」
美花「陳 峻栄の絵が、家にあるの?」
レイ「一枚だけ。でも……、凄いですね。ひいひい爺さん のこと知ってる人、少ないのに」
美花「絵画が趣味だから」
レイ「なんか、嬉しいなぁ」
美花「陳 峻栄の絵は、戦争や文化革命で消滅して、故宮博物院と大英博物館に数点残っているだけよ」
レイ「本当に詳しいですね」
美花「まあね」
レイ「美術館に ひいひい爺さんの絵が来たから行ってみました。ウチにある絵しか観たことないから、他のは、どんなんだろう? って」
美花「どうだった?」
レイ「よく似てた。特に、雲の感じや、川の流れる感じなんか、そっくりでした」
美花「家にある絵、本物かもしれないわ」
レイ「本物ですよ。子孫ですから」
美花「そうね……。いくらで買う、って言ってるの?」
レイ「は?」
美花「画廊が来てるんでしょ」
レイ「三億円って、でも、」
美花「たったの?」
レイ「たった?」
美花「陳 峻栄の絵は、もう絶対に流通しない。価値は上る一方よ。五億でも損は無いわ」
レイ「ご、ごおく?」
美花「誰が所有してるの?」
レイ「父です。それを盗んで売ろうかなって‥‥」
美花「そんなことできるの?」
レイ「無理です。できるならヤッてます。それに、父もそろそろ本気で売ろうと考えてるみたいだし」
美花「えっ?」
レイ「先週来たバイヤーがイイ値段を付けたらしくて」
美花は即決した。
美花「その絵は私が買うわ――。明日、案内して」
レイ「あ、明日?」
美花「困るの?」
レイ「いえ、わかりました」