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普通に誰でも利用できるようなアプリで、ふたり、もしくは複数で秘密を共有するという特別な空間を提供しているように見せかけている。プライベートなチャットだと思ったら大間違いだ。裏で復讐アプリの運営側と情報を共有されているのだと思うと、背筋が寒くなる。
(でも、どうやってユーザーを特定するんだろう…)
美晴は疑問に思った。運営側は集めた膨大なデータの中から、どうしてこずえと幹雄のやり取りを抜き出すことができたのか。チャットを利用している人間はごまんといるはずなのに。いや、この『こずたん』と『みきくん』のやり取りはどう考えても上原こずえと松本幹雄のものだとわかるが、それをなぜ抽出できるのか。
――質問があります。
美晴はチャットに聞いてみた。するとすぐに『どうぞ』と返事があった。
――どうしてこのやり取りが二人のものだと特定できるのですか? 登録名や個人名で必ずしも一致するとは限りません。疑ってすみませんが、教えて欲しいです。
『結構です。立て続けの裏切りは心を闇に陥れます。いいでしょう。こちらの情報を提示します』
アプリが続けて回答を送ってくれた。
『こちらは、電話番号でご相談者・相手の情報を特定しています。電話番号には様々な個人情報が詰まっています。スマートフォンを登録する時に個人情報を書くことを思い出してください』
(電話番号――!!)
美晴は息を呑んだ。チャットは更に回答を寄こしてくる。
『名前、住所、年齢、生年月日、電話番号からこれだけの情報が紐づきます。さらにこの個人情報で様々なデータが判明します。出身地、勤務地、現在の住所などがわかります。同姓同名の方もいらっしゃいますが、電話番号に紐づいた個人情報から算出するものは、99.9パーセントの確率で一致します』
(それで最初に電話番号を聞いてきたんだ――!!)
現代技術の進化は驚異的で、それが裏でどれほどの影響をもたらしているのかを痛感させられた瞬間だった。
たった11桁の数字に様々な情報がねじ込まれていることを、今まで考えたことがなかった。しかし理にかなっている。情報社会だからこそできることであり、それをうまくアプリを運営する会社が利用すれば、的確にAIが答えることが可能となる。
しかしどんな技術でも、その裏にはリスクが存在する。今回のように電話番号ひとつでこれだけの情報が特定できるということは、逆に自分自身も他者から情報を取得されるリスクがあるということだ。
『今は誰もがスマートフォンに個人情報を詰め込み、さらに電話帳登録をクラウド保存しています。美晴さんの電話番号、そしてクラウド保存されているデータ共有から瞬時に導き出した結果、上原こずえと松本幹雄が算出されました』
懸念材料をAIがチャットで回答してくれたので、美晴は小さな機械を見つめた。普段何気に使っているスマートフォンは、こんなにも多くの個人情報が詰まっていると思っていなかったからだ。
ただ、これで納得した。美晴が電話番号を復讐アプリに登録することにより、すでに運営側が知っている情報と結びつくというからくり。美晴のデータに紐づいたものを共有してくれたのだ。
それにしてもこのアプリは、どうしてここまで協力してくれるのだろう?
――いろいろと教えて下さりありがとうございます。でも、どうしてあなたはそこまで私のことを気にかけてくれるのですか?
『このアプリは、サレ妻・虐げられた苦しい思いをしているみなさまを味方するために作られました。また、当社が運営する出会い系アプリで収集した情報は悪用するためではなく、辛い思いをされている人たちの救済に利用するのが目的です。運営に携わっている者たちはみな、同じような思いをした集団から成されたものです』
運営側も、同じ思いを…?