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アニータと互いに本音で話し合いたいと思った。彼女が何を考えてあのようなことをしていたのか知りたかった。結果的にその希望は叶ったけれど……
「マルク様ってね、昔からぜーんぜん変わらないの。アニータ、アニータって後ろをついてきて……まるで私をどこかのお姫様みたいに扱ってくれる。私の言うことは少しも疑わないで聞いてくれるし、望みはなんでも叶えてくれたの。ほんと可愛いったらなかったわ」
『強欲』……そして『高慢』
どこまでも身勝手なアニータの思考に吐き気を催す。私はこんな人のために……あんな惨めな思いをさせられてきたのか。
「それでもさすがにリナリア様を雑に扱い過ぎじゃないかって……私もちょっと心配になるほどだったのよね。仮にも婚約者なのにって……」
「どの口が……自分が優越感に浸るためだけに私とマルク様の仲を掻き乱していたんですね。体が弱いフリまでして……」
「体が弱いのは嘘じゃないわ。ただし、子供の頃にだけど。マルク様はその時の記憶が強く残ってるみたいで、もうとっくに完治しているのに気付いてないだけよ」
「つまり騙していることには変わりないってことじゃないですか。最低ですよ……」
今更マルクに同情なんてしない。あれだけ近くにいながらアニータの本質を見抜けないのはマヌケとしか言いようがないし、彼女を選んだのは彼の意思に他ならない。しかし、病を盾にするのはあまりにも卑怯で倫理観に欠けている。同情はしないが……アニータにいいように扱われているマルクに憐れみを感じずにはいられなかった。
「リナリア様だって悪いのですよ。もっとしおらしくして私に嫉妬でもしてくれていれば可愛らしかったものを……あなた無駄に気が強いのですもの。しかも、バージル・ジョゼットまで貴女の味方をしてる風なのも気に入らなかったわ。あの方こそ私のお相手として目を付けておりましたのに」
「えっ……」
「だから私もムキになってしまったというか……少々やり過ぎてしまいました。でもまさかアルメーズ家がレシュー家の反感を買ってまで婚約を解消するなんて夢にも思っていませんでしたから」
アニータはさっき何と言った。バージル様を?
いや、別にそこまで驚くことではないのか。彼に憧れている令嬢は大勢いる。アニータもその例に漏れずだったというだけのことだ。
バージル様に関する評判は今まで何度も耳にしてきた。初恋泥棒なんて異名も存在するほど彼はモテる。周知の事実であるのに……どうしてこんなに胸の辺りがモヤモヤするのだろうか。
「おかげでマルク様と一緒に伯爵にこっぴどく叱られてしまいました。でも、これでリナリア様もお分かりになったでしょう? 多少イジワルはしましたが、私はマルク様と貴女の婚約に反対はしておりません。解消なんてしなくてもいいのですよ」
婚約解消をする必要はない。アニータはやはりこの主張は崩さない。彼女は私が本心では婚約解消を望んでいないのだと信じきっている。私の頑なな態度はあくまで意地を張っているだけだと……
こういうところはマルクと似ている。どうして私がここまで蔑ろにされてまで彼に好意を抱いていると思えるのか。おめでたいにもほどがあるだろう。アニータにも私の意思をはっきりと伝えておく必要がある。
「……アニータ嬢、貴女は勘違いをしておられます。私にはもうマルク様との婚約を継続する意思はありません」
「なんですって……どういうことですか」
「どうもこうも……貴女もご存知でしょう。もともとマルク様との婚約は家門の利に基づいた政略的なもの……私が望んだのではない。当主である父が解消を宣言したのならそれで終わりなんです」
「えっ、でもリナリア様はマルク様のことが好きでしょう? 解消なんて本当はしたくないのですよね」
「例え政略であっても関係は良好であるにこしたことはない。私はそう考えてマルク様に歩み寄ろうとしていただけ……婚約者としての体裁を保とうとしていたに過ぎません。残念ながらあの方はそれすらもできなかったようですが……まあ、どのみちもう終わったことなのでどうでもいいですね」
「そんな……」
アニータはさっきまでの饒舌ぶりが嘘のように沈黙してしまう。それほどまでに私の言葉は彼女に衝撃を与えてしまったのか。そんな突拍子のないことを言ったつもりはないのに……
「有り得ない……そんなはずはない。リナリア様とマルク様は、結ばれなければならないのに」
「アニータ嬢?」
「だって……そうじゃなきゃ……あの場所は……」
アニータの様子がおかしい。言動はずっと無茶苦茶だったけど、今の彼女は理性を失っていて……まるで何かに取り憑かれているかのようだった。
この状態がこれ以上続くようなら人を呼ぼう。身の危険を感じた私は、アニータから距離を取るため、背後に向かってゆっくりと一歩踏み出した。その時だった。
俯いていたアニータが勢いよく顔を上げ、私に向かって両手を伸ばしてきたのだ。警戒はしていたはずなのに……どうすることもできなかった。その場で固まってしまった私は、アニータに肩を強く掴まれてしまう。
「ダメです!! リナリア様。あなたはマルク様と結婚しなければならない。アルメーズ家の時期当主はマルク様です」
「痛いっ!! やめて下さい!!!!」
私の肩を揺さぶりながらアニータは叫んだ。そのあまりにも必死な形相に恐怖が湧き上がる。怖い。なんなのこの人……どう見ても普通じゃない。
「離して下さい!! 今更あなたにそんなことを言われても、私の気持ちは変わりません。離して!!」
がむしゃらに抵抗して、なんとかアニータの腕を振り解くことができた。そのまま教室の扉に向かって走る。後ろを振り返る余裕などはなく、私はすぐに教室から脱出した。