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どうせ|あの女《美緒》のことで連絡をして来たに決まっているけど、そんなのは関係ない。
わたしが、やったという証拠など健治にはないのだから……。
スマホの電話アプリをタップした。
呼びのコール音がして、すぐに通話表示にかわる。
「健治ってば、何度も電話して、どうしたの?そんなにわたしに会いたくなったのかしら?」
「昨日、どこに居たんだ。電話にも出なかったじゃないか」
電話から聞こえる健治の声は、苛立っていた。
やっぱり、わたしがやったという証拠を、健治は持っていないのだと確信した。
それなら、なにも恐れる事は無い。
「ふふっ、どこでもいいじゃない?わたしの勝手でしょう?」
「昨日の昼過ぎ、どこに居たと聞いているんだ!」
そうよ、成明がわたしの元から居なくなったとしても、わたしには健治が居る。
大学時代から付き合いのある健治。
あの頃から、健治は上昇志向が強く「いつか会社のトップに立ちたい」と夢を語っていた。
わたしなら、彼の出世を後押しする事が出来るし、そんなわたしの事を、彼は大切にしてくれるはずだ。
いや、大切にしなければならないのだ。
現に大きな取引をわたしは提供している。
「あら、感じ悪いのね。大口の取引相手にそんな言い方をしても、いいのかしら?」
「それで、昨日の昼過ぎ、どこに居たんだ!」
健治は、強気な姿勢を崩さずに、言葉を重ねた。
わたしは、彼の出世を助けてあげているのに、その態度は、全く持って、気に入らない。
「ふぅん。そういう事言うのね。まあ、いいわ。それなら、私にも考えがあるんだから」
ムッとして言い返した。すると、電話口から健治の怒鳴り声が聞こえてくる。
「わかった。もういい、美緒に危害を加えられてまで、お前と関係を続けるつもりはない。取引を中止にしてもらっても結構だ。この先、お前とは会わない」
こんな事を言っていても、健治は本気のはずがない。
だって、誰よりも健治の事はわたしが良く知っている。
ただ単に、わたしの事を試しているのだ。
そう思ったら、なんだかおかしくなってしまった。
「アハ、アハハ、何怒ってんの!? 健治ったら、必死になっておかしいんだから」
健治はまだ、わたしに同じ質問を繰り返した。
今度は低い声でわたしを威嚇する。
「それで、昨日の昼過ぎ、どこに居たんだ?」
「そうね。緑原総合病院……に」
まったく、|あの女《美緒》のために必死になって……。
わたしの事だけを考えていればいいのに、本当に気に入らない。
だいたい、わたしが|あの女《美緒》のために罪を認めるなんて事は、ありえないのだから。
「居たって言って欲しいのよね。健治……でもね。残念だけど、わたしが居たから何だっていうの。あの女がケガをしたからと言って、わたしには関係ないわよ。そこまで、言うなら証拠を見せてくれるかしら?ふふっ」
「果歩……お前ってヤツは……」
案の定、健治の悔しそうな声が聞こえてきた。
けれど、わたしが思っていたよりも、健治は怒っているようだった。
「証拠なんて無い。けれど、もういい……果歩、お前には付き合い切れない。取引中止を会社に言って、首でも何でもしてくれ……」
それを聞いてわたしは愕然とした。
わたしより、|あの女《美緒》を健治は選ぶというのだろうか。
取引中止や首だなんて、いままでの健治なら、絶対にそんな風に言わなかったはずだ。
大学卒業から今日まで積み上げてきた会社での地位や実績、それらすべてを捨ててもいいと思うほど、|あの女《美緒》に入れ上げているのというのだろか。
健治を変えた|あの女《美緒》が、憎い。
わたしが、欲しいものを容易く手に入れる|あの女《美緒》が、憎い。
「あら、そんなに簡単に行くかしら? あの女の事が大事なら、わたしの言う事を聞いた方がいいんじゃない?」
わたしの言葉に健治はショックを受けたようで、弱々しい声でつぶやいた。
「何を言っているんだ……」
わたしに逆らっても良い事など無いと思い知らせてやる。
わたしはもっと大切に扱われるべき存在なのだから……。
「さあ、どういう事なのかしらね。ふふっ」
そう言って、スマホの画面をタップした。
プツンと通話が切れると苛立たしさ倍増する。
「ハッ、どいつもこいつもバカじゃないの!」
八つ当たり気味に、スマホを持つ手を振り上げる。
しかし、ふと思いつき、その手をおろした。
「そうだわ。Facenoteに……」
とスマホの画面をタップして、Facenoteのアプリを立ち上げた。
そして、ポチポチと書き込む。
『元同級生の女が、夫へ嘘を吹き込んで、夫婦の間を引き裂こうとしている』
ピッと送信ボタンを押すと、ニヤリと口角が上がる。
「まあ、最初はこれぐらいの方が興味を引くわよね」