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その声の持ち主は姉の後ろに居たひと。
黒蝶のような、鮮やかな黒の着物を身にまとい。唇が赤く。大人っぽい人だった。
その人がずいっと姉の横に並んだ。
「まだ話は終わっておりませんことよ。私達。一度、あなたとお話しがしてみたかったのです」
するとその女の人に続くように、ぞろぞろと後ろに居た人達までこちらにやって来た。
ですがと、葵様が話すと目の前の人の赤い唇が歪んだ。
「従者風情が。下がりなさい! 私は貴族院、院長の娘。今ここにいるお父様に、鷹夜様の従者が無礼者だと言いつけられたいの?」
その言葉に葵様が、ぐっと息を飲み込んだのが分かった。
きっと言い返すことは簡単だが、葵様の立場上。言い返すと問題になりかねないと判断したのだろうと思った。
これはいけない。
葵様を巻き込んではダメだと。
私は葵様に風呂敷を押し付け、一歩前に出た。
「あ、葵様。私は大丈夫です。私に用があると言うことですので、このままお話を聞きたいと思います」
「ですが、環様」
葵様の声に仰々しく、黒い着物の人の声が重なる。
「あら。お話ししてくださるのね? 嬉しいわぁ。でも、女同士のお喋りに男性は禁物。邪魔よ。その失礼な従者を遠ざけて下さらない?」
葵様を退けてどうするつもりなんだろう。
落ち着け私と、ゆっくりと言葉を選ぶ。
これは変に騒ぐと、ここに居る葵様にも杜若様にも迷惑が掛かるかもしれない。
変に刺激しない方がいいと思い、まずは話だけでも聞こうと思った。
「わかりました。ですが──葵様は私の護衛です。完全に遠ざけることは出来ません。私達の会話が聞こえない範囲に葵様には距離を取ってもらう。これでよろしいでしょうか」
風がさぁっと爽やかに吹いた。
なのに私の背中には、冷たい汗が流れてしまう。
姉さんが「ふん、環のくせに生意気ね」と言う言葉の後、黒い着物の人が「まぁ、それで良くってよ」とうなずいた。
葵様を見ると「わかりました。下がります。ですが環様に何かあればすぐに駆け付けますので」と、軽くこめかみをトンと叩く動作をしながら、葵様は静かに私達と距離を取った。
葵様が離れると途端に心許なく感じて、胸のざわつきが増した。
そして、口火を切ったのは黒い着物を着た人だった。
「全く。手間の掛かることですこと。さて。あなたに言っておきたいことがあるのよ。よく聞きなさい。私はね、鷹夜様とお見合いしたことがあるの。でも鷹夜様は誠実に対応して下さり、今は仕事に集中したいと言われてしまったわ」
「そうなのですね」
「だから円さんが言った通り。所詮あなたは、その下品な色合いが目立って、暇潰しに選ばれただけ。勘違いなさらないでね?」
下品な色。
そう言った女の人の目線は、蔑むように私の髪や瞳を見ているのが分かった。
言われた言葉は心に刃のように刺さり、思わず自分の髪に触る。
確かに私の髪は淑やかな黒髪なんかじゃない。雪華家の特徴の色でもない。
けれども杜若様は私の髪を出会った一番最初に、向日葵みたいだと言ってくれた。褒めてくれた。ばあやだって、明るくて綺麗だと言ってくれた。
私は──そちらの言葉を信じたい。
ゆっくりと深呼吸したあと。
髪から手を離して顔を上げた。