テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#あべさく
めかぶぷりん
8,223
29
雪月❄️
363
83
命冠の環の一件の後、ラウールは持ち帰った命の霊薬を、コントロールルームで調べ続けていた。
必要な道具をクリエイトで作り出し、分析、解析、実験をしており、前の必要最低限のものしか置かれていなかった時から比べると、かなり物が増えた。
自分専用の机と椅子まで用意し、阿部の机に横並びにしている。
🤍「うーん。ここがどうしても分かんないんだよなー」
分析用のモノクルをかけたまま、ラウールが顎に手を当てる。
🤍「阿部ちゃん、ちょっといい?」
💚「ん? なに?」
🤍「これ見てほしいんだけど」
隣の阿部に声をかけると、椅子の向きを変えて覗き込んでくる。
🤍「なんか、色が混ざってよく分からなかったんだけど、この瓶の中、マテリア三つない?」
ラウールはゴーグルを阿部に渡し、それをかけた阿部が、命の霊薬が入った瓶をじっと見つめる。
💚「赤くて雫のような模様が入ってるのが、啼き椿のマテリアだよね」
🤍「そう。あの場で確認したから間違いないよ」
💚「でも、確かにもう一つ、別の赤が見える。深紅っていった方がいいのかな。放射線状に模様が入ってるね」
🤍「やっぱり。じゃあ、これ、三つの異能が混じってるんだ」
💚「もう一つの異能も分かってなかったのに、更に別のも、か……夢幻ノ杜の時に、マテリア鑑定っていう異能あったよね。見ただけでどんな異能か分かれば、もっと調査が進むんだけど」
🤍「ねー。でも結局、どの人形が持ってるかは分からなかったし」
💚「マロウっていう子が最初のお屋敷の子って言ってたから、その子だと思うよ。でも、夏音のところから来られたのはグローリーとソフィラだけだったから、もうあの異能はなくなっちゃったね」
🤍「そうだよねー。マテリア鑑定みたいな道具が作れればいいんだけど、見たことあるマテリアとの照合しか、僕はできないからなぁ」
💚「あとこのマテリア、すっごく薄くなってるね」
🤍「そうなんだよね。啼き椿以外は、もう消えかかってる。多分、明日か明後日には見えなくなっちゃうんじゃないかな」
💚「つまり、検証もここまでってことだね」
🤍「うん。見えなくなったら、どうしようもないからね。とりあえず、今日は保管しておくね」
これ以上は、今はできることはない。命の霊薬の瓶を保管用のケースに入れると、ラウールと阿部はコントロールルームから出て行った。
翌日の朝、命の霊薬の中にあったマテリアのうち、啼き椿ではない他二つのマテリアは跡形もなく消えてしまっていた。
今日は目黒・阿部・宮舘・渡辺が事務所で留守番をしている。宮舘と渡辺は三階に行っているので、事務所にいるのは目黒と阿部だけだ。
そこに、警察署に行っていた岩本と深澤が戻って来た。ソファに座ったまま、阿部が二人を見やる。
💚「おかえり……って、どうしたの?」
帰って来た二人の表情は暗く、何かあったのだと物語っていた。
💛「警察でこれを渡された」
見せられたのは一枚の写真。それを受け取った阿部と、後ろから写真を覗き込む目黒。
🖤「え……なに、これ……」
💚「干からびてる……」
💜「全身の血が抜かれた状態で発見された遺体」
💛「命の霊薬に関係してるっぽい」
その言葉に、阿部も目黒も岩本を見つめる。
💚「命の霊薬って……あれ、まだ終わってなかったってこと?」
💜「そう。結局、命冠の環の教祖を逮捕したところで、何も分からなかった。というより、あれが命の霊薬だって豪語してるんだってさ」
💚「つまり、警察はあれが命の霊薬だとは思ってない?」
💛「そりゃそうだろ。マテリアが入っただけの、ちょっとしょっぱい水だろ? 警察側の鑑定結果もほぼ同じだってさ。俺も体、調べられたけど異常はないですねって言われた」
💚「じゃあ、警察の方も結果はラウと同じだったんだ」
💜「そうなるね。で、本題。この事件も、どうやら命の霊薬絡みじゃないかって、警察では考えてるらしい」
🖤「えっ? なんで?」
💚「血が抜かれてるから?」
💜「正解。啼き椿も、命の霊薬を作るのに大量に血を抜いてたって言ってたでしょ? 被害者は17人。病院で、今も治療中みたいだよ」
💛「で、教祖の話では、命の霊薬を作るのに血が必要なことは間違いない、らしい」
💚「らしい?」
💛「教祖の発案じゃないから、詳しいことは分かんねえんだと。別の人間が教えてくれたって。それが女だとも言ってた」
🖤「女って、まさか……芙蓉?」
💜「俺らもそれは考えた。やってることが儀式っぽかったしね」
💛「教祖が何かの願いを叶えたくて、芙蓉のおまじないを使って命の霊薬を作ってた。俺もふっかもその結論になったんだよ」
💚「……でも、芙蓉さんがそんなこと、するかな……」
ぽつりと呟かれた阿部の言葉に、皆が阿部を見る。
阿部は確かに、芙蓉が悪い人ではないと言っていた。阿部が芙蓉を敵として見ていないのは、メンバー全員が分かっている。
けれど、その感覚を鵜呑みにすることはできない。
💜「阿部ちゃんはさ、なにに引っかかってるわけ?」
向かい側のソファに座って問いかける。
すると阿部は少し考えるような素振りを見せたが、やがて一度、頷いた。
💚「最初の頃は、危険な思想の人にもおまじないを教えてた。美上とか、女子高生誘拐犯とか。でも美上って、やり方は良くなかったけど、綺麗になりたいっていう願い自体は悪いものじゃなかったでしょ? 女子高生誘拐犯に関しては、俺たちをおびき出すのに必要だから使っただけで、願いについては嫌悪してたんだよ」
💛「まあ、だからってやったことは許されるもんじゃねえけどな」
💚「それは俺も分かってるよ。でも、あの戦いからパタリと芙蓉さんは姿を見せなくなった。願いに、執着がなくなったんだよ」
💛「どっかで動いてるかもしれないだろ?」
💚「その可能性はある。それでも、ファントムの時に見た芙蓉さんは、あの時とはまるで違ったように思うんだ。まるで憑き物が落ちたような顔をしてた。その芙蓉さんが、命冠の環の教祖におまじないを教えるとは、俺には思えないんだよ」
阿部の言い分は分かるつもりではいる。
それでもやはり、無関係であると言い切ることはできない。
💜「分かった。阿部ちゃんのその感覚は、そのままでいいと思う。ただ、俺らは芙蓉の可能性も捨てない。決めつけたら、何も見えなくなるから。それでいい?」
💚「うん、いいと思う。俺も、漠然とそう思うっていうだけだから」
どうやら、その考えに固執しているというわけではなさそうだ。
それなら大丈夫だろうと、深澤も岩本も息をついた。
💛「今、佐久間と康二に命の霊薬に関して調査してもらってる」
💚「二人、出かけたのってそういう理由だったんだ」
💜「そ。阿部ちゃん的に、なにかあった方がいいものとかある?」
💚「例えば?」
💜「ラウがイヤホンとか通信機、作ってくれるでしょ? でも、戦闘で故障したり通信妨害の影響で使用不能になったり、いろんな理由で使えなくなってる。また新しく作るなら、何がいいのかなって思って」
💚「ああ。だったら、位置情報の共有は徹底したいかも。通信機能はほしいけど、危険信号みたいなものも送れたらいいよね。それこそ、通信する間もないってこともあるから。でも危険は知らせたいっていうことはあると思う」
💜「確かにね。理由は分からなくても、危険なのは分かるから駆け付けられる」
💛「ラウとの開発、任せていいか?」
💚「戻って来たら話してみるね」
朝から調査に出ていた佐久間と向井は建物の外に出て、軒下に立ったまま雨が降っているのを見て肩を落とした。
🩷「うーわ、最悪。雨、降ってんじゃん」
🧡「さっきまで晴れとったのになー」
🩷「なーんか、あれだなー」
🧡「あれ?」
🩷「不吉の予感っていうか、嫌な感じする」
🧡「ちょ、怖いこと言わんといて……でも早めに帰ろか」
🩷「照たちも情報集めてるはずだし、俺らも戦いに備えないとな」
🧡「せやな」
急いで帰ろうと雨の中を走り出した佐久間と向井。雨足が強くて視界が悪い。だが、不意に見えた人影に足を止める。
道の先に立っているのは、スラリとした一人の女。
こんな雨の中で一体、何をしているんだろうか。
🩷「お姉さん、風邪引きますよ?」
何となく声をかけてみる。
女性がこちらに人差し指を向けてきた、瞬間―――ピッと向井の頬が切れた。
🧡「え……?」
ヒリヒリとした痛みに、向井が頬に触れる。
🧡「血ぃ?」
滴り落ちる血。少量だから気にならないけれど、今、何が起きたのか。
そう思っていると、滴っていた血が水滴みたいに浮遊し始めた。
🩷「なっ!?」
そして、ほんの小さな切り傷からドロリと血が溢れ出した。
🩷「こーじ! 血! 抜かれてる!!」
🧡「えっ!? 嘘やん!」
道の先の女がニタリと笑ったのを見て、佐久間はすぐに向井の手を握った。
🩷「なんかヤバい! 飛ぶぞ!」
もう形振り構っていられなくて、向井と共に粒子転移して消えた。
特務調査局のドアが開いたのは、岩本がラウールに連絡を入れてから15分ほど経った頃だった。
🤍「ただいまー……」
💚「ラウ、おかえり。って、ずぶ濡れだね。タオル持ってくる!」
パタパタと休憩室に向かった阿部。
🤍「参ったよー。急に降ってくるんだもん」
💜「雨予報だったっけ?」
🤍「いや? 阿部ちゃんも何も言ってなかったし」
💚「はい、これ。とりあえず拭いて、シャワー浴びといで」
🤍「そうするー」
💛「あ、ラウ。あがったら頼みたいことあるんだけど、いい?」
🤍「わかったー」
タオルで髪を拭きながら三階へ続く階段に向かっていったラウール。
その後ろ姿を見送ってから、阿部は事務所の奥にある窓から外を見た。
💚「ホントだ。いつの間にか降ってる」
🖤「土砂降りだね」
💚「えー。雨降らないと思ってたんだけどなぁ」
💜「急変ってこと?」
💚「山じゃないんだから、こんな平地で急変することなんてないよ。変だなぁ」
💛「阿部が外すの、珍しいよな」
💚「うん。でもまあ、100%じゃないからね。佐久間と康二も雨に当たってるかも。風邪引かないといいんだけど」
そんなことを考えていた時だった。
パッと事務所内に現れた佐久間と向井が、何もない空中に現れた直後、重力に従って床に落ちた。
🧡「わぁ!」
🩷「いたた……」
💜「佐久間! 康二! お前ら、異能使って帰って来たのかよ」
💛「雨降ってるからって、そんなホイホイ使うもんじゃねえだろ」
🧡「ちゃうねん! 緊急事態やったの!」
🩷「やべーのがいたんだよ!」
🖤「やべーの?」
🩷「待って、涼太いない? すぐ止血したい!」
💚「舘様なら上の階に……」
いるよと話そうとした時、タイミングよく三階から宮舘と渡辺が降りてきた。
❤️「なんか、凄い音したね」
🩷「涼太! こーじのほっぺの止血して! 早く!!」
❤️「え、あ、うん」
説明がなされていないのでよく分かってはいないけれど、佐久間に圧倒されて向井の方に行った宮舘が向井の頬の傷を指でなぞると、パキパキと凍っていった。
❤️「はい、これでいい?」
🩷「……っはー……これで大丈夫かなー」
🧡「さっくん、怖いこと言わんといて!」
💜「で? 何があったんだ?」
ラウールと同じようにずぶ濡れの佐久間と向井にも阿部がバスタオルを持ってきて渡したところで、床に座り込んだまま佐久間が口を開いた。
🩷「帰り道でさ、女の人が立ってたんだよ」
🖤「女の人?」
🩷「そう。普通のお姉さん。けどその人がこっち指差したらこーじのほっぺが切れてて、大したことなかったから気にしてなかったんだけど、そしたら、急にすっごい血が出てきてさ」
💜「え、この掠り傷で?」
🩷「このかすり傷で! なんか、血が引っ張られてる感じ? ヤバいって思って、思わず粒子転移して来ちゃった」
聞いた瞬間、阿部が眉間に皺を寄せて、隣にいた目黒も阿部を見る。
💚「血……まさか、その人が犯人?」
🧡「えっ、犯人? なんの?」
💛「ここ数日、血を抜かれる事件が発生してんだよ。干からびた遺体がいくつか出てる」
💙「うわっ、グロッ」
💜「それ、どんな人だった?」
🩷「えっと……」
佐久間が特徴を話していくので、阿部は執務机からスケッチブックを取り出すと、ペンで似顔絵を描いていく。
描き終えた絵を、後ろから渡辺が覗き込んだ。
💙「阿部ちゃん、絵うまっ」
💚「ありがと。佐久間たちって、その女と遭遇したの、どの辺?」
🩷「んー。どこだっけ」
🧡「あそこ。あの、ほら美術館の近く」
💚「ああ、わかった。俺、ちょっと警察に行って事件の防犯カメラ映像、見せてもらってこようと思うんだけど、いいかな」
💜「じゃあ、誰かと一緒に行ってほしい」
🖤「俺、付いて行きます」
💜「なら大丈夫かな」
そうして話していると、シャワーを浴び終えたらしいラウールが上から降りてくる。
🤍「はぁー、さっぱりしたー」
💛「お、あがったか。佐久間と康二もシャワー浴びて来い」
🩷「助かるー」
🧡「さっくん一緒に入ろーや」
🩷「いーよー」
仲良く入りに行った二人を見送り、阿部がラウールに声をかけた。
💚「ラウ、ちょっといい? ラウに作ってほしいものがあるんだけど」
🤍「なになに?」
ちょっと来て、と手招きをしている阿部に、ラウールは執務机の方に向かった。
パソコンの画面を見ながら二人で話をしている。聞こえてくる単語が専門的なので、他の者たちは早々に聞くのを諦め、それぞれ散らばってやるべきことに着手することにした。
🤍「うん、構造は分かった。初めての組み合わせだからできるか分からないけど、やってみるよ」
💚「ありがとう。めめ、警察署に行こうか」
🖤「あ、はい」
すぐさま阿部の方に向かった目黒。二人は傘を持ち、事務所から出て行った。
🤍「じゃあ僕、ちょっと奥に籠ってるね」
❤️「終わるまで近づかないね」
どんな精巧なものでも、構造が分かっていれば作る事のできるラウールの異能。けれど集中力が必要なため、阿部が使っていたコントロールルームに入っていった。防音もされていて、邪魔が入りにくいから。
佐久間と向井もシャワーを終えて降りてきたので、宮舘は向井に声をかけた。
❤️「そういえば、康二の傷はどう?」
🧡「止血されとったから、もう血は出てないで。シャワー浴びたから、舘の氷はなくなってもうたけど」
💙「……血が抜かれるって、こえーな」
💜「何で攻撃されたかは分かんなかった?」
🧡「全く見えへんかったわ」
🩷「俺も分かんなかった。けど、なんか光った気はしたんだよ」
💜「光った? 光線みたいな?」
🩷「いやー、キラッて感じ」
💜「キラッ? こんな雨の中で?」
🩷「そうそう」
話を聞いて、余計に分からなくなってしまった。太陽の光もないというのに、空中で光ることなどあるのだろうか。
何か対策を考えたいところなのだが、推理するための材料が少なすぎる。
💜「これだけじゃ、どうにもならないね」
💛「阿部が何か掴んでくれたらいいんだけど」
コメント
1件