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両手に抱えた花束は赤色で埋め尽くされていた。


「――よぉ、空。久しぶりだな、元気してるか? 俺は、入院生活送っててな、体力が落ちちまったみてぇだ」


ようやく退院が出来、明日から現場復帰と言うことで俺はまた忙しい日々に戻る前にと、三人の墓参りを順番にすませた。話したいことは沢山あったが、そんな時間も取れず、空の墓の前まで来て、やっと口を開くことが出来た。

花を置き、線香をあげる。

そうして、線香の煙はゆらりと上へと昇っていった。その光景を見て、この煙が彼奴らに届くのかと疑問に思っちまう。まあ、心の持ちようだ。

あの後、藤子から聞き得た情報は少なかったが、俺の母ちゃんを殺した犯人は口封じのために一般人を斬殺した事を咎められ殺されてしまっていたらしい。何でもその男が所属しているチームというか組みのボスが最小限の人殺ししかしない奴だったらしく、罰として殺されたのだとか。一般人は殺さないが一構成員は殺すんだと矛盾を感じつつも、まあマフィアの内部事情はよく分からないためそういうことかという風に落ち着かせた。取り敢えず言えることは、母ちゃんを殺した犯人については消化不十分という感じだった。それでも、犯人は見つかり制裁が与えられていたのなら、まあそれはそれで……と考えないことにした。

一番の勝利は、神津と明智を殺した犯人を捕まえることが出来たことだ。


「俺ちゃんと約束は果たしたぜ。すっげぇ時間かかっちまったけど、でも、ちゃんとお前らの仇うてたと思う」


返ってこない返事を待ちながら俺は微笑む。

空の墓石に拳を突き出して、約束を果たせたことを報告した。


「そういやさ、お前が言ってた花……何だっけか、アネモネだったか。お前が明智達に送ったのは仇をうつって言う意味の青いアネモネだったが、俺はお前に違う色を送るぜ」


これを送って良いものなのか、罰当たりとか非常識とか言われたらどうしようかとも思ったが、俺は供える花に赤いアネモネを選んだ。

後悔は一生ついて回るものだ。忘れることの出来ない過去、それを背負いながら足枷を沢山つけながら、それでも前に進んでいく。

一杯あった後悔が、時々顔を出して手を貸してくれるときだってある。今回の場合そうだった。


「明智が初恋って言う奴にも会ったし、他にも四年間色々事件があったよ。クソほど事件が起きる相変わらずの街だけど、俺はこの街を守っているって自分の事ヒーローだって思ってる。どうだ? 格好いいだろ」


俺は言う。

空が以前そう言ってくれたように、格好いい自分でいたい。

未だに姉ちゃんに尻に敷かれているし、怒られるのは怖いし泣いちまったり、びびっちまったりして自分の年考えろよって言われるけど、それもまあ、良い思い出で、俺は今の生活に満足している。

早くに逝っちまったのは、許せねぇし今でも寂しいが、それでもお前らとの思い出を忘れたわけじゃねぇ。勿論、お前らのこと何て一時も忘れなかった。それぐらい、俺にとって大きな存在だったんだ。


「ああ、で、話戻すけどな。その赤いアネモネの花言葉調べたんだよ。ガラじゃない? 悪かったな……でも、これをお前に送りたいって思ったんだ」


両片思いしていて、それがうじうじ十年以上も続いて、最終的に両思いだって分かったのに、俺達は親友で居続けることを選んだ。神津と明智をみちまって臆病になっていた。いつかくる別れに怯えて、踏みとどまってしまった。

あの時、キスしたかったとか、もっと抱きしめればよかったとか、ミオミオじゃなくて、澪って名前で呼んで欲しかったとか、色々。

もう戻ってこないあの時に思いをはせながら、それで、今があって、今ならこの言葉を贈れる気がした。


「赤いアネモネの花言葉、『君を愛す』らしいぞ。俺からお前へのプロポーズの言葉だ。なあ、受け取ってくれよ」


本当にガラにもなく調べて、空が明智に送った青いアネモネとはまた違う意味を持つ色の言葉。

あの時は言えなかったが、今なら言えると、遅いプロポーズになっちまったけど、どうか受け取って欲しい。


「……ハッ、矢っ張り似合わねぇよな」


風がそよそよと吹き、俺の前髪を揺らしていく。

俺の頭の中には、四人でばかしたときの光景が浮かんだんだ。あの時は最高に楽しかったなって。

数秒か、数分、空の墓を見つめ名残惜しくも家に帰らないといけない時間になった。明日から忙しくなる。その前に伝えておきたかったからきた、ただそれだけ。


「じゃあ、また来るからな。空……今度も面白ぇ話し持ってくるからよ。楽しみにしておけよ」


俺は空の墓に手を振る。

そこに眠る親友の、愛しの人の為に、俺は明日もその次の日も生きる。だから、会えるのはもう少し先になっちまうかもだけど、気長に待っていて欲しい。そうしたら、面と向かってちゃんとプロポーズするからよ。親友じゃなくて、恋人になってくれって。

俺は、空の墓を背に一歩を踏み出した。

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