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既読のまま返事のないLINEにももう慣れた。私だけじゃないことも知っている。
こんな風に何ヶ月も会えないことだって今までも何回もあった。 だから平気。
だって彼は誰のものにもならない。
昼をすぎて、2時。
あの人が女と会うのは決まって夜だから、
今の時間は1人で家にいる。行けば会える。
口実に作ったおかずを丁寧に包んで彼の家へ。
(ピンポーン)
(ピンポンピンポン)
1回、2回3回
いくら鳴らしても出てこない。
『今家?』
送ったところで返事は無い。
気まぐれな彼のことだ。どうせコンビニに
タバコでも買いに行ったんだろう。
そう思って家の前で待っていた、のに。
「も〜また女の子呼んだの?」
知らない声に顔を上げると会いたかった彼、
そして…彼の隣によく似合う綺麗な人。
昼間から彼が会う相手、お揃いのセーター。
こちらが望まなければ手も繋いでくれないはずの彼が、自分からその人の手首を掴んでいる。
嫌でもわかる彼の『特別』。
彼に会うためだけにSNSを見漁ってわざわざ買った、男ウケばかりを気にした新品ワンピースが、途端に恥ずかしくなる。
「…呼んでないよ」
彼の弱った顔が向いているのは私ではない。
「ふーん、じゃあ来ちゃったんだ。ハルは相変わらずだね〜」
彼の『特別』がこちらを見る。
「ずっと待ってたの?寒かったよね、大丈夫?」
動揺も怒りもなくにこやかに話しかけてくる。
…嫌いだ。本命の余裕か、ただの天然か。
私には手に入らないもの。
「…大丈夫、です」
返事を聞いたその人は、彼の手を振り払う。
「え、ナナ?誤解だって!」
動揺する彼に呆れたように笑いながら
「私先戻ってるね、程々にしときなよー?」
「ほんとちが、おい、ナナ!」
「もーせっかく会いに来てくれたんでしょ?
話してきなよ。お姉さんも、じゃあね」
当然のように彼の部屋に入っていく。
「最近連絡無かったの、彼女できたからかー」
焼けそうな喉でギリギリ言葉を絞り出す。
「あーいや、彼女じゃないよ、片思い。」
あー⋯最悪。彼女って言われた方がマシだった。
重い女だと思われたくなくて、必死に笑顔を作る。
「え〜ハルが片思い!?いつから?言っといてよ、超邪魔しちゃったじゃん私!」
「いや…見ただろ、相手にされてないの。」
「手、掴んでたじゃん」
「あいつ掴んでないと勝手にどっか行くんだよガキの頃から。ただの習慣。」
あぁ幼なじみですか、なるほど。
いつからとかじゃないんだなぁ。最初から、
出会う前から彼の特別はあの子だった。
「服だっておそろいだった」
「あれは俺が着替えとして渡したから着てるだけ。ペアルックキモがられたし」
会話をしながらも家の方を、あの子のことを気にしているのがわかる。
「ってかそんなに好きなら他の女と遊んじゃだめじゃん!あの人絶対ハルのこと遊び人だと思ってたよ?」
「あいつは友達の俺にしか会ってくれないから」
「それでほかの女でカモフラージュ?」
数秒の沈黙、彼は少し悩んで口を開く。
こんなに余裕のない顔が出来る人だったのか。
「最近あいつが彼氏と別れてさ、もう今しかないと思って」
彼はいつも自分の話をしない。自分ばかり相手のことを知って、欲しがる言葉を言って、余裕な顔で私の唯一の理解者みたいな顔をする。
自分のことは何一つ教えてくれないまま。
最近会ってくれない理由はこれか。
…彼の、次の言葉はもう分かっている。
「いやーほんとごめんね邪魔しちゃって!近く通ったからついでに会っとこうかなーみたいな!用はなくて!その、あの、ほんとごめん帰るね私、またね!!」
言われたくない焦りと、彼のことを知った気でいた恥ずかしさとで早口でまくし立てる。
「チカ、あのさもう」
「やだ、聞きたくない!!!!」
「っ…ごめん、もう会えない。ごめん」
…わかっていた。
彼の『特別』がいることを知った瞬間に。
それでもどうにか、彼と繋がっていたかった。