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#STARGLOW
佐野いちご
313
「……リュウキ。お前大丈夫か、」
夜の事務所で一人、帰る気力も無く座ったままでいると、帰ろうとしていたカイリュウがこっちに来て、心配そうな声で話しかけてくれる。
返事をしようとするも、口を開こうとすると泣きそうになって、何も言えずに唇を噛むと、そんな俺に気付いたのか、またカイリュウの声が飛んでくる。
「……、いや、ごめん。…大丈夫なわけないわな…、」
「っ……、ん、ごめ、、」
「…うん。無理して喋らんでええから」
ぽん、と背中に優しく置かれた手に、涙腺が一気に緩んでいく。
……たっくんと話をしてから、
なんとか仕事をこなしたものの、
一日中ずっと、たっくんの言葉が、
頭から離れてくれないままで。
“…っ…、付き合ってる人とか、…おるんやっけ、”
“え、?なに、急に…っ、……いないけど、?”
たっくんが失った記憶は、
……やっぱり、俺との思い出だった。
‘恋人’としての俺の事だけが、
たっくんの中から、すっぽりと抜け落ちてしまっていて。
俺と付き合っていたことも、
もうすぐ記念日を迎えることも、
俺が、泣いたことがあることも、
……たっくんが、俺に、
“好きだ”と、言ってくれたことも。
きっと、ぜんぶ、
……全部、たっくんの中から、
消えてしまっている。
そんな事を考えた瞬間に、
涙がぽたぽたと溢れ出して、思わず手で顔を覆った。
「っ、、ぅ……っ、」
「…たっくんと話して、…気付いてもうたんやろ、?」
「……っ、ん…、うん、、っ、」
「…お前がたっくん連れてった後、俺らもな、たっくんの事、ちょっと話し合うてん。……今聞くんキツいやろけど、その…、リュウキと付き合うてたこと、忘れてもうてるんやないかって。」
「っ、〜、、…ん、、ひ、ぅ、っ、」
「…っ、このままじゃおられへんやろ、腹割ってたっくんと話…
「いや、…いい、っ、」
「、え…っ、?」
たっくんと話した方がいい。
多分、そう言おうとしたカイリュウの言葉を遮った。
「っ、…俺、っ…たっくんに聞いたんよ、、付き合っとる人、おるんって…っ、そしたら、いないって言われて…っ、…だからもう、俺からは何も言わない、」
「……っ、リュウキ……、」
「たっくんが、もしかしたら、思い出してくれるかもしれんし…っ、それまでは、…俺も、ちゃんと振る舞うけん、」
「でもお前、…っ…だって、もうすぐ記念日って言うとったやんけ…、」
「っ、…今、たっくんに恋人はおらんのやけん、っ、そう言われたんやけん…っ、…お願い。みんなも、…っ、そういうことに、してほしい。」
「っ、……、、」
……そりゃ、俺だって、
本音を言ったら、たっくんに縋りたい。
思い出してよって、今までのこと全部、
たっくんに、話したい。
でも、それでもし、
たっくんが、責められていると感じてしまったら。
思い出せない事に、罪悪感を感じてしまったら。
……俺との記憶が、たっくんの事を、
苦しめることになってしまったら。
それが一番、
俺にとっては、辛いから。
「…っ…、辛くなったら、…誰でもええから、ちゃんと俺たちに吐き出すんやで。」
「…、うん。ありがと、カイリュウ、、」
俺の気持ちを受け止めるように、そっと背中を撫でながらそう言うと、カイリュウは立ち上がって、部屋を後にした。
***
「はい、ここまでおっけー、?」
たっくんがコレオを担当した曲の振り入れ中、そう振り返ってみんなに掛けられた声が、練習室に響き渡る。
はーい、と返事が飛び交い、それぞれがその場で軽く振りを確認していると、じゃあ一旦休憩ね、とたっくんが指示を出した。
水分補給をしながらも、
……つい、たっくんの事を、眺めてしまう。
たっくんの考えたコレオ。
たっくんの振り入れ。
……どうしたって、
たっくんの事を見ないといけない時間。
いつもなら、この時間が好きだった。
たっくんから教わる事も、
たっくんが作るダンスも、
……教えることに託けて、俺にだけこっそり触れてくる可愛いたっくんも、
その全てが、愛おしくて。
汗を拭いているたっくんを見ながら、
……こんな気持ちも全部、
独りよがりになるのかと、切なくなっていく。
見つめていると、ふいにたっくんがこっちを向いて目が合って、そのまま俺の方に向かってきたことに内心焦りながらも、必死に口角を上げた。
「リュウキ、おつかれ。」
「うん、おつかれ、たっくん。」
「……今回のコレオ、正直どう?」
「えっ、?あ、うん、めっちゃええね!」
「まじ、?ならよかった、」
ホッとしているような顔を見せるたっくんに、もっと伝えたくなって、言葉を続ける。
「うん、まじで良い、めっちゃ好…っ、、あ…、」
「ん、?」
‘好き’と言おうとして、なぜか口を止めてしまった。
……別に、コレオを褒めようとしただけやんか。
そう思い直して、再び口を開く。
「…っ、、ううん。……、めっちゃ好き、」
「…、ふふっ、そっか。ありがとね、」
「……、うん…、、」
褒めたかっただけ。
……そんな言葉を、
思わず噛み締めるように、
それ以上の気持ちを込めて、
俺はたっくんに告げていた。
***
振り入れが終わり、次の現場に向かう移動車に乗り込むと、当たり前のように、俺の隣にはたっくんが座った。
いつもの事で、なんなら付き合う前からこうやけど、なんだか特別な事のように嬉しくなる。
……ずっと落ち込んでもおれんし、俺と話しとったら何かの拍子に、記憶が戻るかもしれない。
そう気持ちを前向きにして、たっくんに話し掛けた。
「たっくん、これ見て。おもろくない?」
「ん?…ふふっ、なにこれ。笑」
スマホを取り出して、話題になっている面白い動画を見せると、たっくんの顔が綻んでいく。
笑ってくれるのが嬉しくて、その後も色んな動画を見せていると、よく見えなかったのかふいにたっくんが近付いて、手が少しだけ俺の手に触れた。
ドキッとして、思わずその手を見てしまうと、たっくんの視線もそこに注がれる。
「、あ…、ごめん、」
「っ、え…、」
お互いに、触れ合ったのを確認したのに、
……たっくんだけが、謝ってすぐに手を離す。
その瞬間、頭では理解しつつも、
猛烈な寂しさが、心と身体に襲いかかる。
「っ、、…ううん。俺も、…ごめん。」
必死に平静を装って、なんでもない振りをすると、また動画に目を向けるたっくん。
“うん。いいの。…りゅうきがいるならどこでも、”
……俺の腰に触れて、肩に顔を乗せて、スマホを覗き込みながらそう甘えてきたたっくんの姿を思い出して、途端に苦しくなる。
こんなに近くにいるのに、
全く近くにいない事を実感して、
前向きに考えようとした心が、
……ゆっくりと、沈んでいくのを感じていた。
***
「……ただいま、」
家に帰って、誰もいない空間に、
自分の声が虚しく消えていく。
仕事終わりにたっくんの家に行くことも、
夜のドライブもない。
付き合う前にもそうやって遊んではいたけど、
今、この感情のまま、’友達’としてそういう遊びを楽しめる自信はなかった。
何もやる気が起きなくて、お風呂を済ませるとすぐにベッドへと直行し、身を落とす。
「……今何時やろ、」
時間を確認するためにスマホに目をやると、ふと、たっくんとの習慣を思い出す。
……いつも、寝る前には必ず、
たっくんは俺に電話を掛けてくれていた。
それがたとえ数分でも、
「おやすみ」の一言だけでも、
この1年近く、ずっとそれは続いていて。
たまに、明らかに限界まで眠そうな声でも掛けてくれていたりして、その度にたっくんからの愛を感じて、嬉しくなって。
……それが、初めて、
掛かってこない夜。
胸が苦しくなって、たっくんの事を考えないようにしようとしても、俺の家にはもう、1年分のたっくんの存在が散らばっている。
たっくんが、いつも泊まりに来た時に着る服。
お揃いで買ったアクセサリー、いつも一緒にやるゲーム。
……布団に、少しだけ染み付いた、 たっくんの匂い。
「……〜っ、、たっくん…っ、」
また、目にじわじわと涙が滲んで、
胸が張り裂けそうなほどに、
たっくんの事が、恋しくなる。
そばにいたい、
一緒に眠りたい、
……たっくんに、触れたい。
たっくんが好き、
すきだよ、たっくん、だいすきだよ
……おねがい、
俺だけ置いていかないで。
思い出してよ、
、ねぇ、、たっくん。
「っ、ぅ、…っ、、」
我慢していた感情を吐き出すように、
布団を被って、止まりそうもない涙を流し続けた。
***
たっくんの記憶が戻らないまま、俺達の記念日はもう、明日に迫っていた。
……考えないようにしていても、どうしても頭には明日の事が浮かんできて。
せっかくの個人仕事にも身が入らず、少しだけミスをしてしまった事に落ち込みながら、最後の仕事を終えてタクシーに乗り込むと、事務所へと向かった。
こういう時、…たっくんに、甘えられたらな。
……本当だったら、明日は。
そんなじわじわと溢れ出そうな寂しさを、無理矢理胸の奥に押し戻しながら、事務所に着くと部屋のドアを開けた。
「あ、リュウキ、おつかれさま。」
「っ、、うん…、おつかれ、…たっくん、っ、」
無気力で部屋に入った瞬間、たっくんに声を掛けられて、いると思っていなかったのもあって、動揺しながら返事をする。
……会いたいと思っていたのに、
いざ会うと、苦しくなって。
そんな複雑な気持ちになりながら、動揺を隠すようにたっくんとすれ違おうとすると、いきなり顔を覗き込まれた。
「っ、…なに、っ?」
「…なんか元気ないね、大丈夫?」
「……っ、、ううん、ちょっと疲れただけ。」
「……、そっか。」
声を掛けてくれたことと、俺の様子に気付いてくれたことに、…つい、喜びそうになる。
そのまま俺の前から離れることなく、じっと顔を見つめてくるたっくんに、耐えられなくて口を開く。
「…っ、たっくん、?」
「、、あ、ごめん…、…なんか、…リュウキが元気ないと、心配だから。」
「、…っ、…え…、?」
少し眉を下げて、そう言ったたっくんが、
……一瞬、恋人のたっくんに、
戻ってくれた気がして。
「……今日、確かリュウキ、個人仕事だったよね。大変だったの?」
「…っ、…うん、、」
「…そっか。お疲れさま。頑張ったね、?」
「っ、、」
優しいたっくんの声が耳に響いたのと同時に、
……たっくんの手が、ぽん、と俺の頭に乗った。
その瞬間に、
触れられた手の暖かさと、
触れてもらえた嬉しさと、
本当はずっと、たっくんに甘えたかった気持ちが溢れ出て、胸の中が、ぎゅうっと痛いくらいに締め付けられる。
「、……っ、、ん……、」
「……リュウキ、?」
「っ、ううん。…ごめん……っ、なんでもない、っ、」
思わず泣きそうになったのを、必死に唇を噛んで堪え、なんでもないと返事をした。
……久しぶりに触れたたっくんの熱と、
俺を気にかけてくれる、優しい声。
、やっぱり、……きっと、たっくんの中には、
……まだ、きっと、、
「…明日、オフでしょ、?……ゆっくり休みなね。」
「……っ、……え…、」
たっくんの言葉を聞いた瞬間、
胸の中の何かが、崩れていく音がした。
……明日。
“ねぇ、たっくん。スケジュール見た?”
“うん、見た。”
“……休みやったね、?”
“、、うん。”
“…へへ、ラッキー。”
ずっと、…2人で楽しみにしとったやん。
……ねぇ、たっくん、
俺まだ、行先決めてないけんさ。
どこでも行けるし、
どこだっていいけん。
……あの時の勝ちも、たっくんに譲るけん、
“ふふっ、…あれから1年か。”
あの話も、もう恥ずかしがんないからさ、
……何回だって、言ってくれてもいいけん。
だから、
、、だから、さ。
……俺との事、どうか忘れないで。
「っ、…〜っ…、、」
「…リュウキ、?」
「っ、…、、うん。、ばいばい…っ、たっくん…っ、」
込み上げてくる感情を、
これ以上、抑えることができなくなって、
事務所を出た瞬間から、人目も気にせず、
ぐしゃぐしゃに泣きながら、家路についた。
何も整理がつかない頭で、
ひとつだけ、
確かな絶望だけが、そこに突き刺さっていて。
……記念日が終わったら、
もう、
たっくんの事を、諦めよう。
、そう、……心に決めて、
0時を迎えた時計を眺めながら、
泣き疲れた目を閉じて、眠りについた。
コメント
16件
1人布団で泣いているりゅうきが辛すぎて( ߹ㅁ߹)いつもだったらたっくんがいて幸せそうに笑ってるりゅうきがいるはずなのに( ߹ㅁ߹)オフを一緒に過ごすはずだったたっくんからゆっくり休みなね(ひとりで過ごしてね)って言われるのはキツすぎる…早く!!早く!!思い出してたっくん!!!😭😭
更新ありがとうございます! もう泣きそうです😭😭まだたっくんが大好きなのに諦めようって判断をしたリュウキが切ない😢たっくんがいないと話したくなるけど、目の前にいると話せなくなるリュウキが見てられないくらい悲しいです😭😭今まで当たり前になってたことがいきなりなくなったらと思うと怖いですね、、、リュウキの辛さは味わえないけどぜひ幸せになってほしいです、、! 次のお話も楽しみにしてます😊
読めば読むほど涙止まらんてぇ😭 リューキがどんだけ苦しいのかなんて、記憶のないたっくんは何も知らない、、こんなんめっちゃ辛いのにたっくんの優しさと暖かさに嬉しい半分寂しい、心が痛いの積み重ねで苦しくなって、、、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ってなるよなぁ😭(語彙力どうなってん笑)