ありがとう。 そういって照明が落ちる
大きすぎる拍手と「ありがとう」という言葉。
嬉しいなぁ、でも、寂しいなぁ。
そっと舞台から降りる
スタッフ)大森さん、ありがとうございました。
大)いえいえ、これを想定していたので。
若)元貴ぃ!泣
大)おぉ、若井めっちゃ泣いてる
涼)僕もいるよぉ泣
大)涼ちゃんまで…そんなに感動したの?
若・涼)うん泣
大)そんな揃えて言わなくても…笑
あの曲の”意味”分かって泣いてくれてるのかな..
そう。光失病のこと、僕が明日死ぬこと。全て歌詞に詰め込んである。それに気づいて泣いているのか、ただ感動したのか。それは僕には分からないけど。
大)じゃあ僕はこれで失礼します。
危なかった、もうすぐ薬切れる。ここでバレちゃだめだから。
翌日 病院にて
医者)本当に良いんですか…?
大)はい。誰にも言わずに死にます。あ、僕の死亡推定時刻って…
医者)21時です。
大)了解です。
マネージャーにメッセージを送信。
大)「今日の21時に新曲『hiSt』リリースしてください。色々とありがとうございました。」
すぐに帰ってきた。
マネ)「いえいえ、21時ですね。ていうか、いつの間にレコーディングなんてしていたんですか?」
大)「まぁ、それは内緒ってことで。」
マネ)「は、はぁ。では、よろしくお願いします。」
時刻は19時。手足があまり動かない。医者によると、昨日まで手足が動いていたのが奇跡らしい。
大)あの…伝言、いいですか。
医者)は、はい!
大)若井と涼ちゃんには、『ミセス続けなくてもいいから、二人で思うように、Feelingに任せて生きて。僕は昨日も言った通りずっとそばに居るから。僕の家の鍵が僕のポケットの中に入ってるはずだから、落ち着いたら取って、家の中入って。』
マネージャーさんには『最後まで迷惑かけちゃってすみませんでした。これからも二人をよろしくお願いします。今までありがとうございました。』
こんなもんでいいかな。あとは….
20時。僕はベッドの上、殆ど動かない手でギターを持ち、スマホを近くの机に置いて、インスタライブを始める。カメラはオフのまま。
・・・
「お顔見えない…😭」
「昨日のライブ感動しました✨」
「この時間に見れて嬉しい!」
・・・
ギターを弾き、静かに歌い始める。
「ケセラセラ 今日も唱える…」
「まだ消えちゃいないよ ちっちゃな希望を…」
「帰りたくなる 戻りたくなる…」
「出逢えたことが名シーンだと…」
一通り歌い終わり、深呼吸してまたギターを弾く。
「縁に帰る匂いがした 覚えているかな僕たちは
夢中に描いたんだ 大きな宇宙のような瞬き….」
(少しカット)
「バカみたいな僕の夢を 馬鹿みたいに信じてくれて やるせない そんな今日でも 僕には君がいる
見失う明日の自信も 独りになるそんな恐怖も 大丈夫 揺るがない 君には僕が居る ありがとう 今日も ただ一緒に 忘れることは無い ただ永遠に」
(マタマタカット)
「見失う明日の自信も 独りになる そんな恐怖も 『大丈夫 僕らなら』 あの日の僕らが居る ありがとう 今日も ただ一緒に 忘れることは無い ただ永遠に」
〜♪
最後のフレーズを弾き終わり、そっとインスタライブを切る。
時刻は20時半だ。あと30分しかないのだ。
あれからずっと寝転んで天井を見つめている。 写真を撮ってみようか。もう手も足も動かないけど。
なんだか体が暗くなって来ている気がする。
またぼーっとしていた。
もう体の痛みも無いし、呼吸も上手く出来ていないと思う。何も聞こえないし、視界もほぼ黒だ。これが光失病か。
体はぼーっとするのに、頭では言わなくて良かったのかな、とか二人とも心配してくれるかな、とかいろいろ考えてしまう。ネガティブ思考になるってこういうことだったのか。
医者side…
20時59分。目の前の一人の患者、大森元貴さんはもうすぐその命が終わる。
ずっと隣に居たけれど、光失病になると視界も黒くなっていくから多分僕のことすら見えないだろう。
そして体もどす黒くなっていく。痛々しいどころではない。見ているのも辛いが、大森さんに最期まで寄り添えるのは医者である自分しか居ないから、僕が見届ける。
21時。大森さんの呼吸が止まり、命の蝋燭、最後の一本が消されてしまった。
涙が止まらなかった。光失病の恐ろしさを知った恐怖か、人を亡くす悲しみ、救えない虚しさかは分からない。そして、
「大森さん、いや、元貴!大好きだよ!」
そう叫んだ。
僕が言えることは言っておこう。君の耳に届くうちに。メンバーさんや周りの方々の分まで、届いたかな。
「…..り….がとぅ….ぉ…しゃ….ん…….ぉげ……で…..」
かすれた声でそう呟き、にこっと笑いながら、大森さんはゆっくりと目を閉じた。
大森side…21時
今、何時だろう。
お医者さんが何か言っているように見えた。靄がかかったように暗くて、よく見えない。耳もあまり聴こえない。でも、
「大好きだよ!」
そう言っていた気がする。若井達の声も聞こえた気がする。気の所為だろうけど。
「ありがとう、お医者さん。お元気で。」
そう言い残したつもりで、笑顔をつくったつもりで、僕はゆっくりと目を閉じた。
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