テラーノベル
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FORSAKENのサバイバーロビー。
かつてここは、試練を前にしたサバイバーたちが沈黙と不安に包まれる場所だった。
……しかし今。
「1xコーチー! 今日ね、教えてもらった通りに障害物ギリギリを攻めたら、キラー空振りしたよー!(≧▽≦)」
焚き火のそばで、ヴェロニカが嬉しそうに報告する。
その瞬間――
ニュッ。
シェドレツキーの足元に伸びたエメラルドグリーンの影が、ゆらりと揺れた。
そこから、ドミノクラウンを被った1x1x1x1が上半身だけひょっこり姿を現す。
「……フン。当然だ。」
腕を組み、いかにも偉そうに鼻を鳴らす。
「誰に教わったと思ってんだ。
あの程度できなかったら、俺の弟子失格だからな。」
口調は相変わらず偉そう。
しかし頭から立ちのぼる炎は、ぽかぽかと穏やかなエメラルド色。
嬉しい気持ちが隠しきれていない。
「ふふっ、ありがと!」
ヴェロニカはロビーの売店で買った箱を差し出した。
「はい、お礼!」
影の前へ置かれたのは、
『特製ライムパイ(期間限定)』
「……あ?」
1xが眉をひそめる。
「俺は甘いもんなんか――」
そう言いかけた瞬間。
シュバッ!!
影から腕だけが高速で飛び出し、ライムパイを一瞬で回収。
「あっ。」
「取った。」
「絶対食べるじゃん!」
ロビー中が笑いに包まれる。
「うるせぇ!!
保存しただけだ!!
あとで味見して毒見してやる!!」
「それ普通に食べるって言うんだよ。」
シェドレツキーが苦笑する。
すると今度はビルダーマンが近付いてきた。
「1x、これもどうぞ。」
コトッ。
置かれたのは冷えたブロクシーコーラ。
「いつも守ってくれてありがとう。」
「誰が守ってる。」
シュバッ。
コーラ消失。
「俺はシェドレツキーがボコボコにされるのを一番近くで見物してるだけだ。」
「見物する割には毎回助けてくれるよね。」
「助けてねぇ。」
「でも前回ノスフェラトゥ吹っ飛ばしたじゃん。」
「……あれはアイツが邪魔だっただけだ。」
「スペクターの怪異も吹っ飛ばしてたよね?」
「……。」
「ね?」
「…………。」
影の中へスッ……
引っ込んだ。
「あ、逃げた。」
「照れた照れた。」
ロビーはまた笑い声に包まれる。
そんな中、シェドレツキーが影へ向かって優しく笑った。
「1x。」
#bl注意
ゆ
3,482
ゆ
1,330
「なんだ。」
「みんな、お前のこと好きみたいだよ。」
数秒。
沈黙。
次の瞬間。
「ばっ……!」
影の中から真っ赤な炎がボフッと噴き上がる。
「好きとか言うなバカ!!
気色悪ぃ!!
俺はキラーだぞ!!」
「うん。」
「恐れられる存在なんだぞ!!」
「うん。」
「差し入れ係じゃねぇ!!」
「ライムパイもう半分食べた?」
「…………。」
「食べたんだ。」
「うるせぇ!!」
影の中から空箱だけがポイッと投げ返された。
「完食してるじゃない。」
ヴェロニカが吹き出す。
「美味しかった?」
「普通だ。」
「全部食べたのに?」
「……普通だった。」
「ふふっ。」
「笑うな!」
その様子を少し離れた場所から見ていたデュセッカーは、小さく肩をすくめた。
「世界を恐怖に陥れた伝説のバグが……今ではロビーのおやつ担当とはな。」
シェドレツキーは照れくさそうに笑う。
「案外、甘いもの好きなんだよ。」
「聞こえてるぞバカシェドレツキー!!」
影から即座にツッコミが飛んでくる。
「好きじゃねぇ!!
たまたま全部食っただけだ!!」
「全部食べたなら好きなんじゃ……」
「違う!!」
ロビーは腹を抱えて大爆笑。
絶望のゲームとは思えないほど、温かな時間が流れていた。
⸻
――その頃。
ロビーを見下ろす観測室。
豪奢な浮遊チェアに腰掛けたスペクターは、赤いシルクハットを目深にかぶり、映像を無言で眺めていた。
モニターには、
サバイバーたちが笑い、
1xがお菓子を受け取り、
シェドレツキーが穏やかに微笑む光景。
「…………。」
スペクターはゆっくり紅茶を口へ運ぶ。
一口。
二口。
三口。
カチャ。
静かにカップを置いた。
「……おかしい。」
誰も答えない。
「僕は絶望を作っていた。」
沈黙。
「恐怖を育てていた。」
沈黙。
「愛憎劇を楽しむ予定だった。」
さらに沈黙。
スペクターは映像を指差した。
「なんで毎日おやつ交換会になってるんだい!!?」
観測室いっぱいに悲鳴が響く。
「キラーがサバイバーを育成して!
差し入れをもらって!
ライムパイ食べて!
みんなで笑って!!
……どこがホラーゲームなんだぁぁぁぁ!!」
ガンッ!!
思わず机へ突っ伏すスペクター。
「僕のFORSAKENが……。」
肩を震わせる支配者。
その後ろを通りかかったアズールが、おそるおそる尋ねた。
「スペクター様……次の試合のご指示は……?」
スペクターは机に突っ伏したまま、小さな声で答えた。
「……今日は休み。」
「え?」
「キャンプでもしておいで……。」
「はい……?」
「もう好きにして……。」
アズールは首をかしげながら去っていく。
スペクターの「限界」が、いよいよ近づいていた。
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