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それでは
どうぞっ。
ーーー
血が滴る音。
それは心臓の鼓動と共に鳴る。
いや、鼓動が血を吸い込んでいくのか。
あの日。あの瞬間。路地裏で彼女を見た時、全てが崩れた。崩れるべきだった。
怯えているはずなのに、目はしっかりと私を捉えていた。
その目、どこかで見たことがある。
いや、見たことがない。
見たことがないけど、知っている。
……、いや違う!違う!
あの目は私を知ってる目だ!
気が狂いそうになる目。
それなのに彼女は逃げなかった。
震えているのに、目を逸らさず、私を見つめる。
あの目が私を全て語っている。
私の中の何かが目を覚ます。
私はそれを決して知ってはいけない。
ーーー
土砂降りの日だった。
足元ばかりを見つめ、もう何日もまともに眠れていなかった。
家出をして、行く宛てもなくただただ街をさまよっているだけだった。
家を出た理由なんてもうとっくに忘れ、誰かに助けを求める勇気もなくただ逃げることだけを考えていた。
路地裏の冷たい風が肌をさす。
恐る恐る歩を進めると、どこからか呻き声がした。
それを追うように、私は足音を立てずに進んだ。心臓が急に早鐘のように鳴り始める。
何か不吉な気配が漂っている。それでも、本能はやめろと言っていても、無意識のうちに体が引き寄せられていくようだった。
角を曲がると、目の前に不気味な光景が広がっていた。血の海に浮かぶ死体。
性別の分からない人間がその場に倒れ、血を流していた。
横たわる人間の傍らには1人の女性がいた。長い黒髪を揺らし、無表情で人間を見つめるその姿はまるで、悪夢だった。
💛「、……!!」
私は目を大きく見開いた。
足が動かない。思わずその場にいた女性を見つめていた。
彼女の手には血のついた輝くものが握られていた。
彼女はそれを見つめ、やがて何の感情もなくそれを血に染った地面に落とした。
静寂が支配する中、私はその女性に目を奪われていた。
女性がゆっくりと顔を上げる。
彼女の視線が私を捉えた。
終わり。
それでも、足は動かない。
🩵「”ねえ”」
私は動けなかった。
心臓が鼓動を早め、耳の中で響く音が大きく感じられる。
全身が硬直し、血の気が引いてくのが分かる。
目の前の女性が何もかも見透かされているように感じた。
短い沈黙の後、彼女がゆっくりと歩み寄る。
血の海を歩く粘り気のある音が、妙に気持ち悪さを増幅させ、耳を塞ぎたくなる。
そんな嫌な足音が、路地裏に響く。
彼女はまるで何事も無かったように、ただ何の感情も読み取れないまま、その瞳で私を捉えていた。
🩵「何見てるの。」
🩵「怖がってる?」
その一言が私の胸を撃ち抜いた。
恐怖。
疑念。
信じられない現実_。
全てが私の中でぐるぐると渦巻く。
だが、何故かその瞳から逸らすことは出来なかった。彼女の目には異常なものがあった。
それなのにどうしてか、私はその目から逃げられなかった。
その時、彼女は僅かに笑みを浮かべた。
冷徹でどこか寂しさのある笑み。それが私を締め付けた。
🩵「ねえ、……どうするの?」
その声が私の脳に深く響く。
彼女は答えることなく、ただ立ち尽くしていた。
その場から動けなかった。
恐怖や不安が支配する中で、何か心が引き寄せられるような感覚が湧いてきた。私にはそれが何か分からなかった。
ただ、ひたすらに彼女の存在が私に刻まれていた。
🩵「まぁ、いい。君、名前は?」
その問いかけに、潔く口を開く。
💛「綺羅…、山口綺羅。」
🩵「綺羅、か……。」
再び彼女は微笑んだ。
その微笑みが私の何かを呼び覚ましたようだった。それは怖くもあり、どこか心地よいものだった。
彼女はゆっくりと歩み寄り手を握った。
🩵「怖がらないで。」
🩵「私は、君を傷つけたりしない。」
その言葉が何を意味するのか分からなかった。
だけど、心の中で何か動き出した気がした。
🩵「ね、……こっちおいで。 」
NEXT。