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あの夏が飽和するの曲パロです。
初投稿なので誤字脱字あればご指摘ください。
「昨日人を殺したんだ。」
君はそう言っていた。
梅雨の冷たい雨に打たれて、ずぶ濡れの君が部屋の前で小さく震えながら泣いていた。雨音が屋根を叩く音と混ざって、世界が静かに揺れていた。
夏が始まったばかりというのに君はひどく震えていた。
そんな話で始まるあの夏の日の記憶だ。
震えている君を家にあげ沈黙の中君は口を開いた
「殺したのは隣の席のいつもいじめてきてたあいつ。もう嫌になって肩を突き飛ばしたら打ちどころが悪かったんだ。もう帰る場所なんてないし、遠いどこかで静かに終わるつもり。」
そう言い悲しそうに俯き笑う君を見て笑いながら僕は君の潤んでいる綺麗な目を見ながら言った。
「それじゃあ僕も連れて行って。」
そういう僕に驚いたのか君は目を大きく見開き少ししたら笑っていた。
君となら死んでもいい。
そう思ったから。早速僕らは準備を始めた。
普段鞄の中身は汚い君だけどこれは綺麗にすると言い笑う君が愛おしかった。
二人で鞄の中にナイフを詰めた。
君はナイフを布で丁寧に巻いている。
「すごい丁寧に包むね。」
僕は笑いながらそう言った。
君は「壊したくないものもあるんだよ。たまには」
いつもなら笑ってくれるのに今日は笑ってくれなかった。
貯金してたお金も全部財布にいれて携帯と君とよくしていた思い出のゲームも鞄に入れよう。
要らないものは全部壊していこう。
でも、あの古い日記にはまだ、君の弱さや希望が隠れている気がして、どうしても捨てられなかった。笑えてた頃の写真は、君がまだこの世界に縛られていた証だった。
君は人を殺し、僕は自分を殺した。
そんな僕らの終わりなき逃避行。
そして僕らは逃げ出した。この狭い狭いこの世界から。
家族もクラスの奴らも全部捨てて君と二人で。遠い遠い誰もいないとこで二人で死のうよ。
もうこの世界に価値などないよ。人殺しなんてそこらじゅう沸いてるじゃんか。君は何も悪くないよ。君が好きだから僕は今日もこう言う
「君は何も悪くないよ」
僕らの行動ネットでも批判されていた。
やっぱり僕らは誰にも愛された事なんて認められた事なんてなかったんだ。
愛されたいと思うのは罪なのか一度で良いから僕も愛されてみたかった。
けどそんな嫌な共通点で僕らは簡単に信じ合ってきた。
僕がもし愛されて幸せを感じれていたら君とは出会えなかったのかもしれない。
こうして今君と笑い合えていなかったかもしれない。そう考えると案外悪くない。
だって君と会えたから。僕はそれだけで幸せだよ。君といれるだけで幸せだから。
どこか寂しそうにする君の手を握った時微かな震えもすでに無くなっていて誰にも縛られないで二人線路の上を歩いた。
所持金もなくなり金を盗み二人で逃げて。
生きるのは、ただの罰ゲームだって思ってた。でも君と一緒なら、もう少し続けてもいいと思った。
僕は君とならどこにも行ける気がしたんだ。今更怖いものは僕らにはなかったんだ。
額の汗がぽたりと落ちて、眼鏡は曇り、世界の境界線も溶けていった。
あぶれものの小さな逃避行の旅だ。
綺麗な星を眺めながら二人きりの夜僕は君に言った。
「みんなに優しくて誰にも好かれる主人公ならこんなに汚くなった僕達も見捨てずにちゃんと救ってくれるのかな?」
君は口を開き
「そんな夢なら捨てたよ。だって現実を見ろよ。幸せの4文字なんてなかった今までの人生で思い知ったじゃないか。」
何も言えなかった。だって実際そうだったら。
「目立たない方が楽だった。居ないのと同じだから。この先のことなんか考えても無駄だから考えてない。」
そう言い辛そうにする君にいつものようにイヤホンを差し出して二人で音楽を聴いた。
それはまるで君と防空壕で呼吸しているような行為だった。誰からも見つからない、壊れそうな静けさの中で、僕らだけが生きていた。
君は話しかけたらしっかり目を見て話してくれる。
僕のしょうもない冗談にも付き合ってくれる。
僕が悩んでたら自分の事のように真剣に考えてくれる。君の悪い癖。
だから僕は君から離れられないんだ。だから 来世では100万年分の恋をしよう 二人で。
世間が僕らを非難している中今は君と穏やかに過ごしている。君とうまく笑えている。
いつまでもこんな時間が続けば良いのにそう考えていると隣から安定している寝息が聞こえる。
僕は音楽を切り君の心音を聞きながら眠りにつく。
こうしているとまだ君も僕も生きていると実感する事ができて安心できた。
今日も君の心音で僕は眠りにつく。君は良い人すぎるから。こんな汚れた世界は早かったんだ。
どうせみんな自分は悪くないと思ってるそんな世の中だから。だから君と逃げたかった。
けど本当は君と一緒に生きていたい。
こんな事言ったらきっと君は辛くなっちゃうから言わないよ。
君をこれ以上傷つけたくないから。
でもこんな前に伝えたかったな。
好きだって。
蝉の声だけが僕らを笑っているようだった。
朝起きて隣で安心して眠っている君を起こし僕達はまた進み始めた。
この生きづらい世界からの窒息から逃げるために。
この息の詰まった現実から離れるために僕らはまた歩き始めた。
もう水も無くなって揺れ出してきた視界に、迫り来る鬼達の怒号に。二人ではしゃぎあって。
ふと君はナイフをとり僕に言う。
「君が今まだいたからここまで来れたんだ。だからもういいよ。もういいよ。死ぬのは私一人でいいよ。」
そして君は首を切った。
まるで何かの映画のワンシーンだ。白昼夢を見ている気がした。気づけば僕は捕まって。君がどこにも見つからなくって。君だけがどこにもいなくって。
僕は、あの後、何度も事情聴取を受けて、精神科にも通った。
「更生」という言葉が、この胸の空白を埋めてくれるわけでもないのに。
誰かに話せば話すほど、君との日々が曖昧になっていくのが怖かった。
君と見た空の色、歩いた線路、交わした言葉。
どれも現実だったはずなのに、今は何も信じられなくなっていた。
君がいない世界はまるで色の抜けた絵のようだ。
それはきっと君が僕にとっての光だったから。
君の声が消えた瞬間世界の音も消えた気がした。
そして時は過ぎていった。
今年もあの暑い暑い日が過ぎってた。
家族もクラスの奴らもみんな居るのに何故か君だけは何処にもいない。
僕は今でもあの夏の日を思い出す。
僕は今の今でも歌ってる。君をずっと探しているんだ。君に言いたい事があるんだ。
九月の終わりにくしゃみして六月の匂いを繰り返す。
君の笑顔は君の無邪気さは頭の中を飽和している。誰も何も悪くないよ。君は何も悪くはないから。
『もういいよ。投げ出してしまおう。』
そう言って欲しかったのだろう?なぁ?