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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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旧時代の地下シェルターの洗面所は、剥き出しの蛍光灯が「チチチ……」と不気味な音を立てて明滅し、冷たいコンクリートの壁を白白と照らしていた。
室内には、鉄錆の臭いと、重く沈殿した新鮮な血の臭いがドロドロと立ち込めている。
作業台の上には、アルコールランプの火で炙っただけの裁縫用の針と、太いナイロン糸、そして血に染まった大量の包帯が乱雑に広げられていた。
「……っ、ふ、……う……」
ピザガイは、コンクリートの床に直に膝を突き、上半身を大きく丸めていた。
背後から見上げる彼の背中には、昼間の防衛戦でルナティックの強襲からエリオットを庇った際に刻まれた、悍ましいほどの大きな裂傷が斜めに走っている。
衣服であった「Builder Brother’s Pizza」の赤い制服シャツは無残に引き裂かれ、露出した分厚い肉からは、未だにドクドクと赤黒い生命の灯火が溢れ出し、床に小さな水溜りを作っていた。
「……チッ。大した傷ではない。さっさと縫え、エリオット」
地獄の底から響くような、低く掠れた声音。
銀髪の隙間から覗く黒い瞳は、苦痛のあまり異様なほどに充填され、岩のような全身の筋肉がギリギリと硬質な音を立てて強張っている。
国家最暗部の特殊部隊でどれほど過酷な肉体改造を受けてこようとも、生身の肉を引き裂かれる痛みが消えるわけではない。
シェルターの救急箱の中に、麻酔の類は一切残っていなかった。
エリオットは針に糸を通す細い指先を、かつてないほどに小さく震わせていた。
頭の傷だらけの赤いバイザーのつばは、彼の青い瞳に深い影を落としている。
いつもならどんな地獄の窮地でも完璧に維持される彼の「ビジネススマイル」は、今や完全に消失し、白皙の頬は恋人の流血の凄惨さに青ざめていた。
ブランドのプライド、自分たちの絆の証明であるこの赤い制服が、自分のせいで血に染まっている。
その事実が、エリオットの胸の奥を激しく乱打していた。
エリオットはゆっくりとピザガイの前に回り込み、床に膝を突いて男と視線を合わせた。
そして、ぶかぶかの袖から細い指先を伸ばし、ピザガイの、怒りと痛みに震える岩のように大きな右手を、下からそっと包み込むようにして握りしめた。
「……ねえ、ピザガイ。これから、君のその頑丈な皮膚を、麻酔なしで縫い合わせる」
エリオットの声は、いつもより低く、静かだった。
青い瞳の奥には、深い愛着と、痛みを分かち合おうとする剥き出しの執着が漲っている。
エリオットは、男の手を自らの薄い唇のすぐ近くへと引き寄せると、痺れるような、最高に切なく甘美な微笑を浮かべた。
「痛かったらさ……僕の手でも、その辺の肉でも、どこでも好きなだけ噛んでもいいよ。君の痛みの注文(オーダー)、僕が半分、身体で引き受けてあげるから」
それは、この絶望的な荒野で、彼が示せる最大限の、そして最も狂おしい愛のデリバリーだった。
だが、ピザガイの黒い瞳の奥で、理性の防壁が別の熱によって吹き飛ぶのを、エリオットは至近距離で目撃した。
「……お前は、本当に、馬鹿な口しか回らん男だな」
ピザガイは低く呻くように呟くと、エリオットに握られていた大きな手で、逆にエリオットの細い手首をガシリと掴み返した。
骨が軋むほどの圧倒的な筋力。
そして、傷口から新たな血が噴き出すのも厭わず、大柄な体躯を前へと傾けると、エリオットの線の細い身体を洗面所の冷たい壁へと強引に押し潰した。
「っ、ピザガ……」
エリオットが声を上げるよりも早く、その赤く熟れた唇は、ピザガイの熱く、乾いた唇によって、乱暴に、そして息の根を止めるほどの質量で完全に塞がれた。
「ん、ぅあ……ッ、んん、……っ!」
それは、負傷した恋人を労るような優しい口づけでは断じてなかった。
ピザガイは激痛に耐えるため、全身の筋肉を硬直させながら、その鬱屈した破壊衝動のすべてを吐き出すかのように、エリオットの口腔の奥深くまで舌を滑り込ませ、その熱を、存在のすべてを強欲に貪り食い始めた。
激しい苦痛が男の肉体を襲うたび、エリオットの薄い唇を強く噛み締めるような、暴力的でディープな口づけ。
エリオットの口内から、微かな鉄の味が広がる。
だが、エリオットは逃げようとするどころか、自らピザガイの分厚い首筋へと細い腕を回し、その銀髪を狂ったように指に絡めながら、男のすべてを受け入れた。
背中に刻まれた傷の激痛を、エリオットの粘膜から伝わる圧倒的な甘さと熱さで強引に上書きしていく。
ピザガイの身体から立ち上る猛烈な熱気と、硝煙、そして彼自身の濃厚な匂いが、痛みに震える空間を完全に支配していた。
唇を重ねたまま、エリオットは自由な左手に針を握り、男の背中の裂傷へと、迷いなく最初の一針を突き立てた。
「……ッ、ん、んんーー!!」
ピザガイの喉の奥から、引き裂かれた獣のような悲鳴が漏れ、同時にエリオットの手首を掴む力が、肉を圧壊せんばかりに強まる。
だが、男は決してエリオットの唇を離さず、さらに深く、血の味が混ざり合うほどに口づけを貪り続けた。
痛みが深まるたびに、2人のキスの熱量は限界を超えて跳ね上がっていく。
それは、崩壊した世界の片隅で、お互いがまだ生きて脈打つ肉体を持っていることを、痛みと快楽を通じて確かめ合う、冷めることのない聖なる儀式だった。
やがて、最後の一針が通り、糸が固く結ばれた時、2人の荒い息遣いだけが、蛍光灯の明滅する洗面所に残された。
ピザガイはエリオットの肩に額を預けたまま、ハァ、ハァと荒い熱風を首筋に吹き付けている。
エリオットは、血の滲んだ自らの唇をそっと舌で舐めると、潤んだ青い瞳に蕩けるような愛おしさを灯し、恋人の銀髪をゆっくりと優しく撫でさすった。
「ああ……あはは。最高の『仕込み』だったよ、ピザガイ。君の熱さで、僕の唇まで、芯から焦げちゃいそうだ」
外の世界がどれほど地獄に満ちていようとも、この痛みを共有し、お互いの体温で世界を塗りつぶし合う2人にとっては、この冷めない檻の中だけが、永遠に破られることのない唯一の現実だった。