テラーノベル
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最初の返信
画面には、
入力欄が開いたままになっている。
指を置けば、
文字はすぐに並ぶ。
なのに、
何も浮かばない。
上手く見せたいわけじゃない。
面白いことを言いたいわけでもない。
ただ、
重くしたくなかった。
期待させる言葉も、
軽すぎる言葉も、
どちらも違う気がした。
「はじめまして」
それすら、
打っては消した。
考えすぎだと、
自分でも思う。
たった一通の返信だ。
それだけで、
何かが決まるわけじゃない。
それでも、
この一文が、
僕と彼女の距離を
決めてしまう気がした。
画面の向こうに、
菜月がいる。
今は、
何をしているんだろう。
もう、このアプリを
閉じてしまっているかもしれない。
それほどまでに、
この三日間は長かった。
それでも、
僕は指を動かした。
短い文章。
挨拶と、
ほんの一言。
それ以上は、
書かなかった。
――送信。
画面が切り替わる。
それだけのことなのに、
胸の奥が、
少しだけ熱くなった。
深く息を吸って、
ゆっくり吐く。
やっと、
言葉を渡した。
まだ、
何も始まっていない。
でも、
もう「沈黙」ではなくなった。
期待と不安が、
同時に胸に広がる。
ベッドの中、
光量を落としても、
画面は眩しすぎた。
そこに映っているのは、
妻でも、
子供でもない。
菜月の ほんの一部だった。
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