目が覚めるともう朝になっていた。気づいたら寝ていたようだ。
周りを見ると街が変わり果てていた。大きな音楽堂も、劇場も、いつも賑わっている繁華街も、居住地区も、全てが変わり果てていた。
時間が経つにつれどんどん心が暗く沈んで堕ちていった。
『どうしてこうなってしまったんだろう。私があそこに入らなければこんな事には……』そんな事を彼女は思っていた。
コーンコーンと夕方の時報が鳴る。街はこんなにもメチャクチャになっているのに、人々の心がこんなにも弱っているのに、時間というものは容赦なく訪れ、無慈悲に過ぎていく。
「嫌だ、やっぱり雨は嫌いだよ」
そんな事を彼女は呟いた。
あれから一週間が過ぎ、街はそれなりに活気を取り戻してきた。そして一ヶ月も過ぎるともう完全に前の街と同じくらいになっている。
今日は街の再興を祝ってのパーティー。
「では皆さん‼︎乾杯‼︎」
そうキャノルが言うと皆んな乾杯をして街の再興を祝った。
さすがヨーロッパ風の街だと思ったのが、出て来る料理が全て洋食のコース料理のようなクオリティだし美味しさだったこと。
「んー。おいし〜」
彼女が今食べているのは肉料理で噛むと溢れ出す肉汁に柔らか過ぎず硬過ぎずの肉、そして味付けのハーモニーがまさに最高の料理で彼女のほっぺたが落っこちたのは当然のことだし、それを超えて骨抜きにされかけた。
ここでふと、彼女は思った。
それはーー私はこの世界に居て良いのかということだ。
彼女は元々外の世界にいた人、そんな人がこの雨の世界に居て良いのだろうか。
そんな事を考えると無性にもといた世界に戻りたくなってきた。
「あのさ……キャノル」
彼女がキャノルに話しかける。
「はい、なんでしょう」
そうキャノルが言う。
「私さ……外から来た人じゃん。そんな人がここにいて良いのかなぁって思って。実際私が立ち入り禁止区域に入っちゃって街があんな事になっちゃたじゃん。だからさーー」
「良いですよ」
キャノルが彼女の話を遮って言う。
「もともとあなたは別の世界から来た人ですし、私もいずれもといた世界に帰さなくてはと思っていました。そして、今がちょうど二人の考えが一致してます。そのうちに、どうぞもといた世界にお戻り下さい。今までありがとうございました」
そうキャノルが言った。
それから数分後、彼女はパーティーを抜け出して入ってきた扉がある所に向かっていた。
なぜそんな事が分かるのか、それは彼女自身も分からない。ただ、今向かってる先に扉がありそうと思ってるだけかもしれない。
彼女はふと足を止め、その先の風景を眺めた。
その先にあったのはーー扉。
この世界に入って来た時と同じ所にその扉はあった。
彼女は扉のドアノブに手を掛ける。
でも、そんな事をしても天気雨は降らなかったし、キャノルも来なかった。
『ちょっと寂しいな』彼女はそう感じる。
『でもこの世界に来なかったら私はずっと雨が嫌いだったし、この世界に来て良かったかも』そう思うと彼女はグッとドアノブに力をやり
「やっぱり雨が好き」
と言って扉を開ける。
その先にあったのはーー彼女がもといた世界だった。窓を開けて見るとそこには天気雨が降っていた。
後ろを振り向くとまだそこには扉はあった。
「ありがとう。キャノル」
そう彼女が言うと扉はすーっと消えた。
ーNEDー
コメント
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初コメ失礼します! 一次創作初めて見たんですがとても読みやすくて、とても面白かったです!
全部見たよ~!! めっちゃ面白かった!