TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

千紘と別れた凪は、次の仕事に向かった。


「これから仕事なんだってば」


そう言った凪をあっさり解放したものだから、凪もすっかり拍子抜けだった。駅で待ち合わせをした客と合流する。


本日3回目の指名なのは、DMを追って確認済だ。


「お待たせ。今日はどこのホテルにしよっか?」


「綺麗なところがいいなぁ」


「綺麗なところね。じゃあ、タクシーで行こう」


そんなやり取りをして2人でタクシーに乗り込む。凪よりも4つ年上の女性は、好意の眼差しで凪を見つめる。


「今日もカッコイイね」


「うん? ありがとう。ゆうちゃんも可愛いよ。あ、ネイル変えたね?」


「わぁっ! 気付いてくれるの嬉しい!」


タクシーの中だというのに、凪の腕に抱きつく女性。ネイルの柄など一々覚えてはいない。これで地雷を踏んだことも何回かあったが、当れば今のように特別感は増す。


ホテルに着くと上着をハンガーにかけながら暫し世間話をする。本日は240分の指名。4時間もあればかなりゆっくりと施術ができる。

湯船に湯を張りながら歯磨きをする。


「今日、一緒にお風呂入る?」


「えー……恥ずかしい」


「何で? この前も一緒に入ったじゃん。脱がせてあげるね」


マニュアル化した言動を繰り返す日々。どんなに熱い視線を向けられても、どんなに好意を示されても心が揺らぐことはない。

鍛えられたクビレが現れて、凪は少しだけ興味が増す。


ああ、この人そこそこスタイルいい人か。と脱がせてから思い出すこともあった。顔は好みではないが、肌の質や湾曲は悪くない。

後背位なら本番もいけるか……なんてあれこれ考えながら自分のペースへ持っていった。


「どうする? ……挿れる?」


入り口付近で半分硬くなった竿を押し付ける。とろけた表情を見れば、相手も欲しがっていることなどすぐにわかる。


「えー……でもぉ……本当はダメなんでしょ?」


「本当はダメだけど、ゆうちゃんが欲しいなら、特別」


実際は特別でもなんでもない。けれど、客というやつは、皆特別という言葉が大好物なのである。


「じゃあ……する」


「する? 誰にも言っちゃダメだよ? 2人の秘密」


「……うん! 秘密にする!」


秘密の共有も特別感を演出するのにもってこいだ。凪はその体を抱きしめながら、ゆっくりと挿入した。顔が見えたら萎えるから……そんなふうに頭の中にタイプの容姿を思い浮かべるように目を瞑った。


激しく腰を打ち付け、甘い喘ぎ声を聞きながら頭の中には好みの女性を想像する。しかし、やはり中々やってこない射精感。

この女性は中でイキにくいのか、絶頂を迎える気配はない。普段なら女性が果てたタイミングで終わりとなるが、女性側がイかないとなると、凪も終わりが見えなかった。


何でイケないんだよ……。アイツに触られた時にはあんなに……。


千紘に犯された時のことを思い出す。あの時は、自分の意思とは関係なく何度も絶頂を迎えた。自分が挿入したわけでもないのに、ただ触られただけで何度も。


やっぱり後ろなのか……。そんな考えが頭をよぎり、意識が後口へと向く。キュッと力を入れると、中でゾワッと何かが疼いた気がした。


「後ろ、向いて」


女性を後背位にさせると、凪は腰を振りながら自分の後口に自らそっと触れた。湿った感覚がし、軽く指で広げた。

その瞬間、ゾクゾクと体の底から快感にも似た不思議な感覚が込み上げた。


指を押し進めると、千紘に弄られた時の情景が甦った。千紘の指の動きと息遣い、それから優しく竿を扱く感覚。それらが記憶とリンクし、途端に射精感がやってきた。


「っ……あ、イクっ……」


凪は素早く引き抜き、避妊具の中へと射精をした。久しぶりに、開放感を得た気がした。


「もう、快くん先にイッちゃうなんて酷い」


女性は振り返ってそう言った。むくれた顔を見ながら凪は謝ったが、射精できたことの安堵の方が大きかった。

しかし、それと同時に自ら後口に触れたことと、千紘のことを思い出して絶頂を迎えた事への絶望をも感じることになった。


客と別れた凪は、1人歩きながら先程のことを思い出す。千紘の顔が過ったこと、千紘とのセックスを思い出したこと。


マジかよ……。アイツ、何してくれてんだ。俺じゃなきゃイケなくなるって言ってたけど……アイツじゃなきゃっていうより、ケツか……。


ガックリと肩を落した凪。誰にも触れさせることなどなかった。自分ですら弄ったこともなかったのに、今日初めて自分で後口を触りながら絶頂を迎えた。

今後、1人で欲を満たすにしてもそちらを触らなければ射精できない気がした。


「自分でもイケないって……」


凪は泣きたくなった。あんなにも女性が好きだったはず。だからこの仕事に就いたのだ。それが女性の体も見飽きて、ただでさえ勃起しにくくなったというのに、更に射精までできなくなったらもう男として終わったような気分になった。


……どうしよ、俺。このままセラピスト続けられんのか? 今回みたいに毎回自分で後ろを弄んなきゃいけないなんて、どの客の前でもできるわけじゃねぇし……。


今回はたまたま後背位が許されたが、中には他の体位を楽しみたい客もいるのだ。その客に合わせてサービスを行うのも仕事。

もちろん凪が射精をすることが仕事なわけでもないし、求められていることでもない。しかし、それを求めている客もいるのも事実。


「あー……クソっ……。アイツに出会わなきゃこんなことにはならなかった」


出てくる言葉はそればかり。それなのにいつも記憶の中にいる千紘の存在。すっかり向こうのペースに持っていかれている気がして、凪は大きく溜息をついた。


来月また髪を切りに行かなきゃならない。その前に今日みたいに連絡がきてデートをするはめになるかもしれない。

あの写真がある限り、見えない鎖に繋がれたまま、凪は身動きが取れないのだ。それどころか体まで支配され、自由を奪われた気がした。


「……成田千紘。大っ嫌いだ」


凪はむすっと目を細めて小さくそう呟いた。

ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

37

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚