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「でもね。まったく餓死者がでなかった場所があるの……」
ぼくは、また悲しい歌を歌った。
心の中で……。
そう。その答えはもう知っている。
「そう、この街です」
「羽良野先生? 村の人は200年近く生きていたの?」
羽良野先生は、頷き。そして、首を振った。
「彼らは生きていないところもあるの。呪い? いえ、自然よ……。永久腐敗。それが彼らの身に起こったことだった。それがこの世のものとは思えない悲劇を産んでいるの。そう、私もそうなの……彼らと同じ……人を食べないといけない体なの……」
「え?」
羽良野先生は醜い顔のまま。女の子のように泣き出した。
「ごめんね……。ごめんね……。歩君……」
ぼくはそんな羽良野先生に何も言えなかった。
羽良野先生も悲しい人だった。
不死の人たちはみんな悲しい。
「私も同じなの……人を食べないと生きていけないの……生きていけないの……」
羽良野先生は泣き崩れ、同じ言葉を繰り返し繰り返していた。
幾つものあばら家にガソリンを撒いた。
村全体のガソリンの揮発性で鼻がどうにかなるくらいだった。もう、暑い昼が過ぎ。夕暮れの時間になっていた。羽良野先生は涙を流しながらライターを取り出した。
「もう終わりにしないと……」
「これで最後よ……」
「お父さん。お母さん。おじいちゃん……ごめんね……」
そんなとりとめのないことをこぼしながら羽良野先生は、村の端の一軒のあばら家に火を放った。
村田先生が急に散弾銃を撃ちながら叫んだ。
「早く! 村の人たちが起きてしまった! 農耕車から子供たちを助けたい!」
「待って! 羽良野先生。どんなに悲しくても……命は粗末にしたらいけないって、おじいちゃんが言っていたんだ!」
しばらく、羽良野先生はぼくの言葉が耳に入っていないかのように、次々とあばら家付近の藁に火を点けていった。
火炎が村を襲う。
地獄の業火のような火炎だった。
その炎はバラバラの子供たちごと村中を包みこんでいく。