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―side真希―
俊太の家のリビングは 朝の柔らかな陽光に包まれて、窓から差し込む光がカーテンのレース模様を床に映し出ていた、 部屋に温かな赤ちゃんがいる雰囲気を漂わせ、テーブルの上には 哺乳瓶とミルクの缶が無造作に置かれていた
近くには晴馬の小さな産着が畳まれてあり、部屋の空気はミルクの甘い匂いと、どこか懐かしい木造の家の香りが混じる・・・壁にかけられた古い時計がゆっくり秒を刻む音が静かな部屋に響く・・・まるで楽園の様だ
「よしっ・・・ミルクの次はオムツだな」
俊太が晴馬を抱きながら気合いを入れるように呟く、彼の声には緊張が滲み、額にうっすら汗が浮かんでいる。生後2か月の晴馬は俊太の腕の中で小さな手を握りしめ、満足げに彼を見つめている、あたしはソファーに座り、そんな俊太のぎこちない動きを眺めながら思わずクスクスと笑ってしまう
「そんなに意気込まなくてもいいんじゃない?」
俊太が慌てた様にに顔を上げる
「だぁ~ ダメだ! やっぱり真希がやってくれ! オムツはまだハードルが高い」
彼の声は半分冗談で半分本気だった、あたしはまた笑いながら赤ちゃん言葉でからかう
「ダメなパパでちゅねぇ~」
俊太が照れ笑いする、その時晴馬が小さくうめき、ミルクの泡を口の端からこぼした
「あわわっ!ガーゼ!ガーゼ!」
俊太が慌ててティッシュで拭く姿がなんとも微笑ましい。そこへ義母が軽やかな足取りでリビングに入ってきた
「あらぁ~、楽しそうね~、はるまくぅ~ん♪おばあちゃんですよぉ~」
義母の声は弾むように明るく 、晴馬を縦抱きして背中をトントンした、すると晴馬が大きなゲップをした、あたしと俊太は「おおっ!」と義母を尊敬のまなざしで見る
「こうやって脚をバタバタするのは、俊太の小さい頃にそっくりね!」
義母の目が細まり、懐かしさに満ちた笑顔がこぼれる、 あたしはソファーの背にもたれながら彼らが晴馬を囲んで昔話を始めるのを微笑ましく見つめる
俊太の家に晴馬を連れてきて3日目、すっかりこの家で晴馬は人気者だ、義父は養殖牡蠣漁の仕事の合間に何度も家に駆け戻ってくる
「晴馬の顔を見ると疲れが吹っ飛ぶなぁ~」
と笑いながらベビーベッドまで買ってくれた、耳の障害を持っている俊太の弟も一日何度もリビングにいる晴馬を覗きに来る、彼にあたしは覚えた私話で言う
「抱っこする?」
すると弟は首を振るが興味深げに晴馬の小さな手をじっと見つめる、その視線には新しい家族への好奇心と、どこか照れくさそうな優しさが混じる
みんなの温かさがあたしを幸福にする、今あたしは本当に幸せだ