ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。無事にライデン社との初接触を済ませることが出来たと思います。
後はダイロスさんにお土産として渡した果物をライデン会長が気に入って頂ければ商売の規模を更に拡大することが出来ます。
それに、最近『大樹』の成長も活発でそれに伴い豊かな土壌も広範囲に拡大しています。町の建設を最優先にしていますが……。
「何の、農地の拡大ならば我々だけでも行えます。お嬢様のお手を煩わせるまでもございません。ロウめに委細お任せくださいませ」
ロウの頼もしい提案により、農地拡大は農園従事者のみで行うことになりました。もちろん、必要な道具や資材などの共有は絶やさずに行います。
拡大した農地には早速種や苗木を植え込むと相変わらず凄まじいスピードで成長していきます。
野菜ならばどんなものでも三ヶ月で収穫可能な状態にまで育ちますし、果実の木は半年もあれば通常の倍以上の大きな実をそれこそ溢れんばかりに産み出すレベルに育ちます。
ルミ曰く果実のなる木は数年の時間を有する筈ですが、相変わらず出鱈目です。莫大な利益を産み出しますし、今のところ困ったことはありません。
『大樹』の葉にも何やら特別な力があるような気がしますので、然るべき時まで落ち葉を大切に保管しています。
こうしてみると、あの日『大樹』の苗を手に入れたのは運命のような気がしてなりません。私は『大樹』と共に大きくなっていますから。
唯一困ることがあるとするなら、周囲の地面にまで顔を出す太い根がルミのお墓を覆い尽くそうとする点でしょうか。なんとか守ろうとしていますが、今となっては墓石のほとんどが『大樹』に取り込まれてしまっています。
ただ、墓石を傷つけるのではなく優しく包み込み、表面はしっかりと表に出しているのでそのままにしています。
『大樹』がルミのお墓を守ってくれるなら私としても安心できますからね。
「本日もお参りですかな、お嬢様。ルミちゃんも喜んでいるでしょう」
日課であるルミとの語らいを行っていると、ロウが声をかけてきました。ちなみに足は完全に完治して、今では自由に歩き回れています。
「はい、昨日の事を話していました」
「ライデン社の方でしたな。帝国最大の企業と誼を通じるとは。旦那様がご覧になれば、さぞやお喜びになられたでしょう」
「そうだと良いのですが」
皆さんに支えられて運にも恵まれて四苦八苦の毎日です。組織を率いる身となって、お父様の偉大さを痛感します。その背中は大きくて果てしなく遠い。
「セレスティン殿もお嬢様の手腕に感心しておりましたぞ。自信をお持ちくだされ」
「そう言われると悪い気はしませんが、慢心はいけません。大切なものを守るためにも」
そう、油断がエルダス・ファミリーに付け入る隙を与えたのです。
今回は偶然にも勝てましたが、次も奇跡が起きるとは思いません。誰を相手にしても負けずに守りきれるような体制を整えていかないと。
「その為にもたくさんの資金が必要になるのですな?」
「ロウはうちの大黒柱なんですよ?ちゃんと身体を労ってくださいね」
実際拡大を続ける農園を管理するなど最早ロウにしか出来ません。補佐できるような人材も優先して回していますから、今のところ問題はないみたいですが。
「御意。しかしお嬢様、少し問題がありましてな」
おっと、言った傍からですか。
「なんでしょうか?」
「このまま『大樹』の影響する範囲が今と同じ速度で増え続けますと、一年以内にあの山を飲み込むことになりますな」
ロウが指差す先には、小高い山があります。別に誰のものでもない平凡な小さな山です。
「むっ、山ですか」
教会周囲は平地、元は荒れ地でしたが山にまで影響が及ぶとどんなことが起きるのか。ちょっと楽しみではありますね。
「正直に申しまして、何が起きるか見当もつきませんからな。悪いことが起きないことを祈るばかりです」
「逆に恩恵が生まれる可能性があると?」
「これまでの傾向を見れば、自然の力を活性化することになるかと。そうなりますと、山菜など山の恵みを多く得ることが出来るでしょう。それに、樹木の成長も早くなるとするならば材木を手に入れることが出来ます」
「材木関係の商売も出来るようになるかもしれませんね」
商売の拡大は収益の拡大を意味します。資金はいくらあっても困りませんからね。とは言え、あくまでも予測に過ぎませんが。
「今は予測するしかありませんからな。何か分かりましたら、すぐにお知らせ致します」
「お願いします、ロウ」
ふむ、そう考えると『大樹』の影響が農作物以外に何をもたらすのか気になります。
幸い今は時間にも余裕がありますし、周囲を詳しく調査してみますか。影響を受けていても農業に適さない場所は放置したままですから。
翌日、私はルイを連れて農園周辺の探索を行うことにしました。
「これ、デートみたいなもんか?そう考えて良いのか?」
「色気なんて何もありませんが」
まあ確かに撃たれて以来そんな状態には一切なりませんでしたけどね。ルイはお猿さんなので、しっかり手綱を握っておかないと。
「そりゃそうだな。で、何をするんだ?散歩か?」
「『大樹』がどんな影響を与えるか詳しく調べてみようかなと」
「まあ確かに不思議な木だよな」
そう、不思議な木なのです。不思議なことは可能ならば解明したいと思うのは人間のエゴなのかもしれませんね。
私達は他愛ない雑談をしながら周囲をのんびり歩き、調査と言う名の散歩に興じています。
「この辺は確か、拡張計画が無いよな?」
「その通りです」
私達が来たのは険しい岩場でした。農園から比較的近くにあり、固い岩がたくさんあるので農地に適さないと放置されている場所です。周りの土壌を見るに、この辺りにも『大樹』の影響は及んでいるみたいですが。
「流石に岩がデカくなる様なことはないよな?」
「前向きに考えれば石材が手に入ると言う利点がありますが、邪魔になりますね。大きくならないことを祈りますよ…………ちょっとルイ?」
ルイが一際大きな岩に近付いていきます。
「何か見つけましたか?」
「ああ、見つけたぜ。シャーリィ、やっぱりお前は持ってるよなぁ。こんなの見つけるんだからよ」
視線の先には、明らかに人工的に造られた入り口と、先の見えない深い闇がありました。これ、まさか……ダンジョン……?
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