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聖女の力を持っている私が、その身代わりとしてここへ飛ばされたこと。
「わ、わかってますよね……? あなたが、村の長である父にそう言って脅したのでしょう……?」
縋るような思いで、震える声で問いかけた私に、魔王は心底不愉快そうに眉をひそめ、吐き捨てた。
「なんだそのデタラメは。俺は人間界になど、ここ数百年干渉すらしていないぞ。ましてや村の脅迫だ? 下らなすぎて笑えん」
心臓が、氷水を流し込まれたように冷たくなっていく。
目の前の男から放たれる覇気は本物だ。
これほどの強者が、わざわざそんな取るに足らない小細工を弄する理由がない。
……つまり、父親は私を適当な嘘で丸め込み
魔王の手によって「合法的に殺させる」ためにここへ放り出したということ。
実の親に、厄介払いとして死をプレゼントされた。
その事実に気づいた瞬間、私の中で張り詰めていた糸が、音を立てて千切れた。
ボロボロと、大粒の涙が頬を伝って止まらなくなる。
嗚咽が勝手に喉から溢れ出し、私はベッドの上で崩れ落ちるように泣きじゃくった。
「ビビったり泣いたり…忙しい女だな」
「…っ」
顔中が涙と鼻水でグシャグシャになっていたが、もはや恥じらう余裕も、取り繕う気力もなかった。
全てを終わらせたかった。
この生き地獄のような孤独から、一刻も早く解放されたかった。
「もう……なんでもいいので、私を……殺して……消していただけませんか……っ」
魔王はそんな私の醜態を、しばらく黙って眺めていた。
その目は侮蔑や嘲笑ではなく、むしろ深い困惑と……わずかな苛立ちを孕んでいるように見えた。
「くだらん」
短い一言が、静まり返った部屋に冷たく響いた。
「勝手に死ぬ権利すらないものを、誰が望んで殺してやる。少なくともここで……俺の領地で好き勝手に死ぬことは許さん」
私はハッと顔を上げ、涙に濡れた瞳で彼を見つめた。
予想外の拒絶。
死を拒まれることがこれほど理不尽に感じるのは、生まれて初めてだった。
「…も、もう、私には帰る場所もありません。ここにいたって……人間の私では馴染めないし、あなたの迷惑になります」
絶望の底に沈む私を、魔王はしばらく無言で見つめていた。
やがて彼は、大きなため息をつくと、観念したように口を開いた。
「……わかった、わかったから泣くな」
「え? じゃあ……」
ようやく殺してくれるのか。
そう思って期待を込めて顔を上げた私に、彼は残酷なほど不敵な笑みを向けた。
「望み通り、消してやる。だが、それはこの魔界からではなく、下界からだ。お前に関する記憶を持つものの記憶を、すべて消してやる」