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第五章 封じられた真実
第六話 太陽教会
数日後、帝都中央区画。
そこには、巨大な白亜の建造物がそびえ立っていた。
太陽教会。
ソレイユ帝国最大の宗教施設。
高く伸びる尖塔。
色鮮やかなステンドグラス。
純白の石造りの外壁は、陽光を受けて眩しく輝いている。
まるで、光そのものを形にしたような場所だった。
「うわぁ……」
シュンタが思わず声を漏らす。
「デカ……」
「田舎者みたいな反応するな」
隣でハヤトが苦笑した。
「いや、こんなん初めて間近で見たら普通そうなるやろ」
周囲には大勢の人々が集まっていた。
祈りを捧げる者。
病人を連れた家族。
神官へ頭を下げる商人。
誰もが、この場所を信じている。
シュンタはその光景を眺めながら、小さく眉を寄せた。
「……めっちゃ綺麗やのに、
なんか、息苦しいな」
ジュウタロウの銀の瞳が、静かに教会を見上げる。
「分かる」
短い返答だった。
その時、大扉が開き、白い法衣を纏った神官達が現れる。
周囲の民衆が、一斉に頭を下げた。
「ハヤト殿下」
年老いた大神官が、穏やかな笑みを浮かべる。
「ようこそお越し下さいました」
ハヤトも静かに一礼した。
「突然すまない。
少し、古い記録について聞きたいことがある」
大神官は、ほんの一瞬だけ目を細めた。
僅かな変化。
だが、シュンタは見逃さなかった。
「……もちろんです」
穏やかな声。
けれど、何かを探るような視線が、一瞬だけ三人へ向けられる。
「フィルディアの王子までお越しとは、光栄ですな」
ジュウタロウは、軽く会釈するだけだった。
そのまま三人は、教会内部へ案内される。
中は、外以上に荘厳だった。
巨大な天井。
陽光が差し込むステンドグラス。
長椅子へ座り、祈りを捧げる人々。
静かで、神聖な空間。
なのに、シュンタはずっと妙な違和感を覚えていた。
「……なぁ」
小声でハヤトへ話しかける。
「この教会、地下とかある?」
ハヤトが少し驚いた顔をする。
「おそらく……でもなんで?」
シュンタは答えなかった。
ただ胸の奥が、ざわざわしていた。
嫌な感じがする。
奥へ進むほど、空気が重くなる。
まるで、何か大切なものを隠しているように。
やがて三人は応接室へ通された。
大神官が穏やかに微笑む。
「それで、どのような記録をお探しで?」
ハヤトは少し迷い。
それから静かに口を開いた。
「……三百年前の記録だ」
その瞬間、空気が変わった。
大神官の笑みが、ほんの僅かに止まる。
「黒い少女と、幽閉塔事件について知りたい」
静寂。
部屋の空気が、急に冷えた気がした。
大神官は、ゆっくり目を細める。
「……その名を、どこで?」
低い声だった。
ハヤトの黄金の瞳が、真っ直ぐ大神官を見返す。
「皇室書庫だ」
「だが、記録が不自然に欠けている。
教会なら、何か知っているのではないかと思った」
大神官は、しばらく黙っていた。
その沈黙が、妙に長く感じる。
やがて、
「……忘れるべき歴史です」
静かな声が落ちた。
シュンタの眉がぴくりと動く。
大神官は続ける。
「闇は、人の心を惑わす。
故に、深く触れるべきではありません」
「それは、皇室も教会も同じです」
ハヤトの目が細まる。
「答えになっていない」
その瞬間、大神官の視線が、僅かに鋭くなる。
「ハヤト殿下」
穏やかな声、なのに、妙な重さがあった。
「光を疑うことは、民を不安へ導きます。
太陽の加護なくして、この帝国は存在できない」
「どうか、誤った道へ進まれませぬよう」
空気が張り詰める。
シュンタは、無意識に目を細めた。
――ああ、この人。
何か知っとる。
でも、隠しているというより、
まるで、その記憶に触れること自体を、恐れている。
◇
応接室を出た後も、重たい空気は、三人の間に残り続けていた。
白い回廊を、大神官の案内で歩いていく。
窓から差し込む陽光は暖かいはずなのに。
なぜか、寒気がした。
「……なぁ」
シュンタが小声で呟く。
「やっぱこの教会、変やで」
前を歩く大神官へ聞こえないよう、声を落としていた。
ハヤトも小さく頷く。
「あの反応は明らかだ」
「三百年前について、何か知っている」
ジュウタロウは無言だった。
ただ、銀の瞳だけが、静かに周囲を観察している。
その時だった。
シュンタの足が、ふと止まる。
「……?」
胸の奥がざわついた。
嫌な感覚。
先日の魔物事件で感じたものに、少し似ている。
いや、もっと弱い。
けれど、確かに何かがある。
「どうした」
ジュウタロウが振り返る。
シュンタはゆっくり視線を落とした。
白い床。
その下の、もっと深い場所。
「……下や」
ハヤトが眉を寄せる。
「下?」
「なんか、感じる」
シュンタの表情から、いつもの軽さが消えていた。
「めっちゃ微かやけど。
下から、何か気配がする」
その瞬間、前を歩いていた大神官の肩が、僅かに揺れた。
ほんの一瞬。
だが、今度はジュウタロウも見逃さなかった。
銀の瞳が細められる。
「……この下には何がある」
大神官はすぐに穏やかな笑みを作る。
「地下保管庫です。
古い聖典や美術品などを管理しております」
「立ち入りは制限されておりますが」
落ち着いた返答。
けれど、シュンタは感じていた。
間違いなく、何かを伏せている。
その時、教会の鐘が鳴り響いた。
ゴォン、ゴォン――
低く、重たい音。
大神官が立ち止まる。
「祈りの時間です」
「申し訳ありませんが、本日の案内はここまでとなります」
明らかに、話を切られた。
ハヤトが何か言いかける。
だが、ジュウタロウが静かに制した。
「……行こう」
その声に、ハヤトも口を閉じる。
三人はそのまま、教会を後にした。
ーーー
外へ出た瞬間、シュンタが大きく息を吐く。
「っはぁ……、息詰まるわ、あそこ」
「お前、何を感じた」
ジュウタロウが真っ直ぐ聞く。
シュンタは少し迷い、それから低く呟いた。
「……分からん。
でも、確かに嫌な気配やった」
ハヤトの表情が険しくなる。
「教会なのに?」
「うん」
シュンタは振り返る。
白亜の巨大建築。
陽光を浴びて輝く、太陽教会。
しかし、その地下には、
光の届かない場所に、何かが隠されている。
そんな気がしてならなかった。
その時だった。
「……殿下」
背後から、小さな声がした。
三人が振り返る。
そこに立っていたのは、一人の神官だった。
年は四十代半ばほど。
纏う法衣の重厚さから、高位の神官と思われる。
不安げな瞳。
彼は周囲を何度も確認するように視線を彷徨わせる。
そして、小さく頭を下げた。
「少しだけ、お時間を頂けませんか」
ハヤトが目を細める。
「あなたは?」
神官は、すぐには答えない。
ただ、緊張したように唇を結び、小さな声で告げた。
「……ここでは話せません」
しゅうたろう
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コメント
1件
comiさん、第49話読みました!太陽教会の荘厳さと、その裏にある息苦しさがすごく伝わってきました。大神官の「光を疑うことは…」の台詞、あれめっちゃ不気味でゾクッとしたわ。シュンタが感じた地下の気配も気になるし、最後の神官の「ここでは話せません」で終わるタイミングが完璧すぎる。続きが待ち遠しい🔥