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うめぼっち

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冷たい風がすーっと吹き抜けてドレスの裾を揺らした。しかし、私の気持ちは凪いだ海の如く、揺れる事はなかった。
私が死を望んでしまったことを臆さずに言える──と思ったら。
「うん。話したらいいよ。僕はあとでチヒロから聞くから」
と、クリス様は風呂敷に包まれたお重を持って、東屋を背にした。
てくてくと去る背中に、声を掛けたのは隣で立ち上がった蒼波様だった。
「おい、クリス。どこに行くんだ」
「どこに行くも何も、リストランテにお重を返してくる。待たせている車はチヒロ達が使って帰ればいい。僕は一人で帰るから」
「ならば、俺達も」
蒼波様がぱっとクリス様へと手を伸ばすが、クリス様は背中向きでも蒼波様の動きを把握していたかのように、背を向けたまま手を振った。
「三日振りの夫婦の再会なんだろ。そろそろ僕は退散するよ。あぁ、この公園の中には池があって、そこに小銭を入れると願いが叶うとか。どこかの国の噴水の|hommage《オマージュ》みたいだけども、二人で行ってきたら?」
クリス様の「夫婦」と言う言葉に私と蒼波様の視線が合って、ちょっとだけ恥ずかしくなり、私は下を向いてしまった。
クリス様が最後に「Enjoy the rest of your evening」と流暢な英語を耳に残して、東屋を離れていく。
完全に闇に紛れる前にこれだけは、言わねばならないと顔を上げた。
「クリス様、本日はありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
ガス灯の明かりに金髪の髪を靡かせて、夜に消えゆくクリス様の背中に声を投げ掛けるのだった。
クリス様の遠ざかる足音も消えたとき、蒼波様の苦笑いのような吐息が聞こえた。
「さてと……真那。クリスも、あぁ言っているし少し二人で歩かないか?」
そっと手を差し出されて、断る理由など何もない。
「も、もちろんです。よろしくお願いします」
ここはせめてマナーで学んだ淑女のように|優雅《エレガント》に手を差し出そうと思ったけど、蒼波様の微笑みに体は固まった。
それでもギクシャクと手を動かして──ちょんと蒼波様の手に触れた。
それは|優雅《エレガント》とは程遠い動きで、やはり三日間の付け焼き刃ではダメだと視線を下げてしまいそうになったとき、ぐいっと手を掴まれた。
「真那、遠慮するな」
遠慮ではないのだけども、首を縦に振ってからぎゅっと蒼波様の手をしっかりと掴んだ。
「じゃあ、池まで歩いてみよう」
「はい」
蒼波様に手を引かれて歩く夜の公園は、本当に気持ちの良いものだった。
緩やかな波に身を委ねるように、自然に私は蒼波様との出会った理由を口にしていた。
以前、文字では書き綴ることが出来なかった、その先もちゃんと言えた。
そして、一番大事なこと。
私はもう二度と死を選ばない。
助けられたのは私のほう。
その恩に報いる為にも、蒼波様と一緒に生き続けたいと、手を握りながら伝え切った。その間ずっと、蒼波様は静かに聞いてくれていた。
言い切ったときには視界が開けて、目の前に池が現れた。
黒い水面にさぁっと風が走り、月光がきらきらと反射する。池の微かな水音は海と違って、奥ゆかしい。
まるで夜空から落ちてきた、夜の雫が横たわっているようだった。
コメント
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ああ、もう、もう……! クリス様がああやって颯爽と去るのがまた素敵で、でもそれ以上に、真那さんが自分の口で「もう死を選ばない」と言えた瞬間が本当に胸にきましたね。蒼波様と手を繋いで歩く夜の公園の空気感も、池に映る月光も、すべてが優しくて、目が潤みました。あの「夜の雫」の比喩、とても美しかったです。お二人の新しい一歩を見守るような温かい気持ちになりました🌷