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コメント
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灯華って、この前さらっと新キャラって書いてあった子だったっけ。死亡じゃなくて行方不明っていうのがグッてくるんだよなぁ
自分の背丈より長い影を連れ、茜がかったアスファルトの上を歩く。
美しい夕焼けには目を向けずに、職場までただただ歩き続ける。
俺が働いているバーは開店が夜からのため、出勤時間は日が暮れるころだ。
朝が弱い俺にとってはありがたいが、友人たちと会える時間が減るのは惜しい。
仕事が嫌というわけではないが、それを再認識すると少し落ち込んでしまう。
落胆するようにはぁ、とため息をついた。
すると、耀太?という聞きなれた優しい声が背後から聞こえ、反射で勢いよく振り向く。
ホワイトオパールのような瞳を守るためにかけている丸いサングラスに自分の顔が映る。
「…なんだ、天渡か」
何とか冷静を装って反応した。
「なんだってなんだよ」
柔らかく笑って返されると、きつく締まっていた糸がほつれたような気持ちになった。
何気なく天渡の手元に目を向けると、食品や生活用品が詰め込まれたエコバッグの持ち手を、なんとか持てているという様に両手で握っていた。
「買い物帰りか」
「そうだよ。奏斗にお使い頼まれて。でも、買い物って大変だね。家まで運べるか分かんないや」
「ちゃんと運動してねえからそうなんだよ」
「何も言い返せないなぁ…」
天渡はそう苦笑いした後、何か思考に耽る様に少しの間を置いた。
不思議に思っていると、天渡は嬉しそうな、どこか寂しそうな笑みを浮かばせながら口を開いた。
「…なんか、その返し……灯華みたいだなって」
その言葉に思わずはっとした。
灯華。いつも明るくて、優しくて、男勝りな性格で。男女関係なく人気があり、13年前に突如行方不明になった、俺の姉。
姉と天渡は幼稚園からの幼馴染で、天渡が物心ついた時から姉に対して恋心を抱いていることは見ていれば分かった。
想い人が行方不明になったと聞いた時、天渡はきっと、俺みたいな馬鹿には想像出来ないほどの感情がのしかかったのだろう。
その感覚をまた感じさせてしまった様な気がして、咄嗟に頭を下げて謝った。
そよ風の音が沈黙を繋いだ。
「大丈夫だよ」
「こっちこそごめん。気を使わせるようなことしちゃって」
顔を上げると、天渡は夕日を背に微笑んでいた。
逆光で顔は見えにくいが、いつもの優しい微笑みとは、また別のものだろうと空気から察せた。
「…それにしても」
「?」
数歩だけこちら側に歩を進められただけなのに、さっきよりも距離がうんと近くなった気がする。装っていた冷静さが剥がれていくような気がして、たまったもんじゃない。
天渡のタコが出来ている指が、自分の染毛料で傷んだ髪先にそっと触れた。
「お前たち姉弟は、本当そっくりだよね」
笑い混じりでそう言うと、黙々と愛おしそうに頭を撫でられた。
本当にそっくりだと言うならば、俺がお前の隣にいたら、お前の心の穴は埋まるのか。
ふつふつと湧き上がる苦い感情に蓋をして、俺は「だろ?」と自慢げに言ってやった。
俺は、あくまでそっくりなだけだ。
その思考がよぎると、自然と苦い感情は音もなく鎮まった。