テラーノベル
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翌朝
目覚めた瞬間から、胸の鼓動は早鐘のようだった。
机の引き出しを開ける手が震える。
そこには、数え切れない夜を共に過ごした相棒たち
───スケッチブックと、埃を被った小さな木枠のキャンバスが眠っている。
(……本当に見せるんだ)
昨日の夕焼けの中で交わした約束が、まだ耳に残っている。
『水瀬の絵、もっと見せてくんない?』
あの時の天馬くんの真剣な眼差し。
それを思い出すだけで、喉の奥が熱くなる。
震える指で一番上のスケッチブックを取り出す。
表紙は少し擦り切れ、端っこはくしゃくしゃだ。
何度も開いては閉じてを繰り返してきた証。
ページをめくる。
最初に目に飛び込むのは、線香花火の鮮烈な輝き。
次は、祖母の家の古びた箪笥の把手。
そして、母が落として割れたカップの破片。
さらに、コンビニで買ったポッキーの銀紙が太陽に反射した光の粒。
日常の何気ない断片が、僕なりの方法で切り取られ、並んでいる。
その下から取り出したのは、もっと大きなキャンバス。
描かれているのは小さなハムスターの肖像だ。
この子は小学生の時に飼っていて、「ハミちゃん」と呼んでいた。
寿命が来て、小さな箱に収まってしまったあの日の悲しみを抱えて、何度も何度も鉛筆を滑らせた。
目に映っていた姿形だけではなく
ふわふわの背中を撫でた感触や、鼻をひくひくさせる仕草まで全て描き込んでしまいたかった。
これら全てを鞄に入れようとして腕が重くなった。
物理的な重量だけでなく、そこに乗る期待と不安が、まるで見えない鎖のように絡みついている。
もしまた、あの時みたいに
「キモい」
「こんなん描いてるから虐められるんだよ」
と嗤われたら――。
昨日の優しい言葉が嘘になるかもしれない。
そんな考えが脳裏を掠める度に胃のあたりがぎゅっと痛む。
(それでも……)
僕は唇を噛んだ。
それでも、僕の絵を見ても嘲笑ったりしなかった天馬くんなら───
そう信じてみたくなる自分がいるのも事実だった。
◆◇◆◇
その日の放課後
いつもより少しだけ早く着いた美術室に、天馬くんの姿はまだ無かった。
僕は鍵を借りてドアを開けると
誰もいない室内に鞄を下ろし、中のものと睨めっこしながら準備をする。
机の上に広げられたスケッチブック。
その横に立てかけられたキャンバス。
少し距離をおいて立ったままそれを見下ろしていると、ガラリと勢いよく扉が開いた。
「ごめん!ちょっと遅れた!」
肩で息をしながら駆け込んできた天馬くんが、そのまま足を止めずに机へと近づいてくる。
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#シリアス