「てぇぃっっ!!」
ルティの思い切りのいい拳が闇シーニャに命中する。これがいつものシーニャであれば、素早い動きで避けていたはず。だが闇シーニャは、真正面から繰り出される拳を両手で受け止めている。
岩を粉砕し風圧をも引き起こす拳だ。まともに当たれば、並の相手なら吹き飛ばされて大ダメージを負う。
しかし、
「ウゥゥッ……ニンゲン、その程度。それだけ……強くはナイ」
闇シーニャはそれをまともに受け止めている。まるで受けたダメージを両手で吸収しているような感じだ。全くダメージを受けておらず、ルティが繰り出す攻撃を避けずに全て防いでいる。
「むむぅぅ! いつもと勝手が違う気が~……。せっかく本気出しているのに、全部ですよ、全部!!」
何やら頭にきているようだが、手応えを感じていないということなのだろう。
「ルティ。へこたれず連打を続けてみろ!」
ルティはおれの言葉に頷きながら、強烈な拳圧を繰り出した。不意打ちに近いが、相手に当てようとする動きを見せると全て受け止められてしまうからだろう。拳で圧縮した空気の塊を飛ばし相手にぶつけようとしているのはいい判断だ。
「ウゥッ!!」
「――わたたっ!?」
しかしそれまで受け身だった闇シーニャが拳圧を恐れずにルティに突っ込み始めた。拳圧といっても直接的な攻撃程の威力は無いのを見破った可能性がある。それを見越しての突っ込みだとすれば、突撃タイプのルティには分が悪い。
案の定、今度はルティが防戦一方になった。闇シーニャの攻撃は自前の爪攻撃のみだ。しかし強さを発揮出来ていないのか、動きが散漫だ。変則的でもなく、目が慣れればどうってことはない左右の攻撃。
一方のルティは攻撃特化で、防御力はあまり高くない。彼女には素早さも無いだけに体力的な問題が出てくる。
「ゼハァ~ゼハァ~……これは駄目です~」
「弱い、弱い……オマエ、どけ! ソイツ、戦う!」
やはり体力というか持久力が無かったな。ただでさえ力加減を知らずに連打しまくりのルティだ。息が上がるのも早い。おれが出て行けば簡単だが、ルティのやる気を削ぐわけにはいかないよな。
だが、おれの考えが正しければルティにもあの力があるはずだ。
「ルティ! 必殺技だ。アレを使っていいぞ!」
「ほへぇ!? ひ、必殺技ですか? な、何かありましたっけ!?」
「風の奴からもらっただろ! それを意識して拳を振るってみろ」
「かぜぇ~? 何だかふわふわしたものを感じていましたけど、そういうことですか!?」
ルティを抱きかかえた時、ラファーガの印がおれの手に宿った。その時ルティにも僅かながらではあるが、風の力が付与されていた。ルティの全力攻撃にしては腰のひねりが足りないと思っていたが、恐らくそういうことだろう。
「よぉし、よぉぉし……!」
「ウゥゥゥ!?」
訳もわからず拳に息を吹きかけたルティだったが、風を勝手に感じながら力強く拳を握りしめた。
そして、
「――グゥッ、ゥゥゥッ!?」
ルティに突っ込んでいた闇シーニャの上半身に対し拳が命中する。このまま連続攻撃をすれば、相手の動きを止められるに違いない。
「よし、いいぞ! ルティ、闇シーニャを――」
「はへぇぇぇ~……つ、疲れましたぁぁ~……アック様、交代してください~」
「……そうなるよな」
「ごめんなさぁぁい~はひぃ~」
「よくやったぞ、ルティ。そこで休んでていいからな!」
風の力を取り込んだルティの拳は闇シーニャを壁まで吹き飛ばした。それでも致命的なダメージを負ったわけではなく、意表を突かれたといった感じにとどまった。
闇に支配されているからとはいえ、中身はシーニャそのもの。同じ攻撃をして壁にぶつけるやり方はなるべくしたくない。となると、ここで使うしかないのは獣化スキルだけ。
おれはすぐさまそれを発動させた。獣化して気付いたが、以前よりも体躯が大きくなっている気がする。しかしそれは視点の問題だと思われる。
「おれの言葉が分かるか? シーニャ」
「邪神サマ……? チガウ……ウウゥ」
「悪いな、一撃で決めさせてもらうぞ。ごめんな、シーニャ」
「――!? グゥゥアッ!!」
風のラファーガがいた場所は両側が全て白い壁に覆われている。おれはフェンリルの爪を振り下ろし、壁ごと吹き飛ばした。闇シーニャは強烈な風にあおられながら、壁もろとも数十メートルほど飛ばされていく。
爪による攻撃は抑えたが、暴風でどこかケガをしていないか心配だ。
「ひぃえええええ~!? 飛ばされますぅ~!!」
しばらくして――
崩れた壁から村人がぞろぞろと様子を見に出て来た。ラファーガは何も言っていなかったが、やはり村を壁全体で隠していたらしい。出来れば騒がれる前に去りたいところだが。
微かに聞こえたが、どうやらルティもどこかに飛ばされたようだ。
「ウニャァ~! アック!! アックが見えるのだ! フニャ~」
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