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60 ◇人生は短し
「こんばんはぁ~。涼さんたち、お祭りに行ってきたんですって?」
「ええ、珠代のところと一緒に4人で昨日も今日も行ってきました」
その言葉に、絹は顔を温子にも向けながら涼に尋ねた。
「よかったです?」
「人混みで疲れましたけど、複数人でしたし金魚すくいをしたり途中でかき氷を
食べたりして、なかなか楽しめました」
涼は絹に向けて返事をしつつ、温子の方にも視線を向けた。
「それは良かったですね」
「お休みのところ、急に呼び出してしまいすみません」
「あ~、大丈夫ですよ。どうせひとりでぼーっとしてただけですから」
「絹さんには、どうしても1番に……って、珠代たちにもう話してしまい
ましたが、話しておきたくて温子さんに呼びに行ってもらいました」
「……」
「絹さんに背中を押してもらい、今があると思います。僕と温子さんは
この度結婚することに決めました。つきましては、身内だけで婚義を
済ませて、なるべく早く一緒の生活を始めたいと思いまして……。
で、その折にはぜひとも絹さんにも出席をお願いしたいと思っています」
「すごいっ、ひとっ飛びに結婚まで駆け抜けるのですね。いいと思いますよ。
人生は長いようで短いんです。最初からおふたりはお似合いでしたもの。
私が背中を押さずとも、結ばれてたと思いますよ。
喜んで参加させていただきますね」
「「ありがとうございます。宜しくお願いします」」
ただ、温子が離婚してからまだ半年が過ぎておらず実際に籍を入れるのは
年が明けてからになる。
そのため、涼からの提案で早く一緒に暮らせるよう、身近な人たちに向けて
結婚することを先に発表してしまおうということになった。
片や、両親を亡くしていて……
もう一方は絶縁みたいなもので……
誰に気兼ねすることなく軽く動けるふたりは、珠代と和彦夫妻、そして
絹代からのお祝いは一律同額とし、祝いの食事は豪勢にして皆から祝福を
受けた。
そして従業員たちに向けての発表は休みの日にと考えていたが仕事が押していること
もあり、週末に平日の昼時間を延長して行なうことにして、飲み物やお弁当を従業員
たちに振る舞い、涼は結婚の報告と妻の紹介をした。
皆一様に根耳に水で、驚嘆の声をあげたかと思うと
『おめでとうございます』の大合唱でふたりを祝福してくれた。
中にはチラホラ、温子が妻になれたのなら、自分にもチャンスがあったかも
しれないのにと、とんだ勘違いをして泣きそうになっている娘たちが
いたかもしれなかった。
それでも温子の人柄と、看護婦という職業についていて落ち着いた人間で
あったことで、表立って嫌味などを言ってくる強者はいなかった。
ただ、社長の涼よりも年上で一度結婚をしていたことのある温子が工場の
経営者である男振りの良い涼と結婚するという、所謂玉の輿に乗ったことは
女子工員たちの羨望の的となったことは否めない。
温子はというと、従業員へ発表した時にはすでに涼の住まう家に引っ越しを
済ませていた。
何もかも超特急でことを進めたため、家のこと諸々生活用品などについては、
追々揃えればいいと……ふたりは相談の上、決めていた。
-1269-
――――― シナリオ風 ―――――
〇工場の応接室 / 夜
絹「こんばんは~。涼さんたち、お祭りに行ってきたんですって?」
涼「ええ、珠代たちと四人で昨日も今日も。
すごい人混みでしたが楽しかったですよ」
絹「そう、良かったわねぇ」
涼「お休みのところ、急に呼び出してしまい申し訳ありません」
絹「大丈夫。どうせ一人でぼーっとしてただけだから」
涼「絹さんには、どうしても一番にお伝えしたくて……。
実は僕と温子さん、この度結婚することに決めました。
身内だけで婚義を済ませて、なるべく早く一緒に暮らしたいと
思っています。
その折には、ぜひご出席をお願いしたいのです」
絹「まぁ……!すごい、ひとっ飛びに結婚まで駆け抜けるのですね。
でもいいと思いますよ。人生は長いようで短いんです。
お二人は最初からお似合いでしたし、私が背中を押さずとも
結ばれていたでしょう。
喜んで参加させていただきますね」
温子・涼(揃って)「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
(N):
ただ、温子が離婚してからまだ半年。実際の入籍は年明けになる。
そこで涼は提案した――「せめて周囲には先に結婚を報告してしまおう」と。
親を亡くした涼と、実家と縁を絶った温子。
誰に気兼ねすることもない二人は、珠代と和彦、そして絹を招いてささやかな祝いを行った。
さらに、工場の従業員たちにも昼休みに場を設け、弁当と飲み物を配りながら結婚を発表した。
〇工場 昼休み
涼と温子が並んで立つ。
従業員たちは耳をそばだてる。
涼「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます。
私から大切な報告があります。
――私、涼は温子さんと結婚することになりました」
一瞬、沈黙。次いで大合唱のように――
従業員たち
「「おめでとうございます!」」
(N):
驚きと祝福の声が入り交じる中、娘工員たちの胸には複雑な感情もあった。
「もし自分にも……」と涙ぐむ者もいたかもしれない。
だが温子の人柄、落ち着いた振る舞い、看護婦という職業――
そのすべてが嫉妬を押しとどめた。
むしろ、年上で一度の結婚を経てなお、涼という男振りの良い経営者を射止めた
温子は、工場の娘たちの羨望の的となったのである。
このとき温子は、すでに涼の家に引っ越しを終えていた。
何もかも超特急で進んだが、生活の細かい準備は「追々揃えればいい」
と、二人で笑い合いながら決めていたのだった。❀