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第2話:触れた、先輩の本音
先輩の部屋は、やっぱりきれいだった。
黒とグレーで統一されたインテリアに、無駄なものが一つもない。
そんな中で、オレだけが濡れた子犬みたいにちょこんと座ってる。
「葵、こっち来いよ」
呼ばれて顔を上げると、先輩は自分のベッドに腰かけてた。
その横、ぽんぽんと叩かれるスペース。
「……そ、そこ?」
「他にどこあんの?」
冗談っぽく笑うけど、目は全然笑ってない。
なんか――変だ。
さっきまで優しかったのに、今の先輩は……少し、こわい。
オレが隣に座ると、すぐに先輩の手がオレの髪に伸びた。
「ちゃんと乾かさねぇと、また熱出すだろ」
その指先は、優しくて、あったかくて。
でも、背中がゾクリとするのは――きっと、先輩の声が低いから。
「おまえ、さ。俺に甘えすぎじゃね?」
ぽつり、落とされた言葉。
何かが始まる予感がして、息が止まった。
「俺がなんでも許すと思って、気軽に俺ん家くんなよ。……俺、そんなに器用じゃねぇし」
そう言いながら、先輩はオレの首元に顔を近づけてきた。
鼻先が触れそうな距離。息が、混ざる。
「……かわいすぎんの、罪なんだけど?」
耳たぶに熱い吐息がかかって、心臓がバクンと跳ねた。
でもそれ以上に――
その時の先輩の目が、完全に“男”だった。
オレのこと、ただの後輩として見てない。
そんなの、目を合わせただけで分かった。
「……っ、やだ……」
反射的に首をすくめたけど、逃げられなかった。
次の瞬間――
唇が重なった。やさしく、けど、逃がさないように深く。
「……おまえのこと、我慢してたの俺だけとか、ムカつくんだけど」
そのキスは、宣戦布告みたいに熱かった。