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わざとじゃないんです。
ちょっと忙しくて
すいません😿
その日は、朝から妙に静かだった。
ざわついてないのに、落ち着かない空気。
みんな、なんとなく様子をうかがってる。
(……来るな、これ)
そんな予感がしてた。
そして、それはすぐに当たる。
「ちょっといい?」
ホームルームの前。
担任が教室に入ってくる。
その後ろに、見慣れない教師が一人。
空気が、張りつめる。
「少し確認したいことがある」
その一言で、全部察した。
視線が、一斉に後ろに集まる。
いるまの席。
「入間」
名前が呼ばれる。
「はい」
いつも通りの声。
「昨日、体育館裏でトラブルがあったと聞いている」
教室が静まり返る。
「……ありました」
否定しない。
ざわ、と空気が揺れる。
「詳しく話を聞かせてほしい」
一瞬、間が空く。
いるまは、少しだけ視線を下げて――
「……俺が関わりました」
それだけ言った。
(……またそれかよ)
空気が、一気に決まる。
「やっぱり」
「またじゃん」
小さな声が、あちこちで漏れる。
(違うだろ)
言わなきゃって思うのに、
言葉が出る前に――
「違います」
声がした。
……いるまじゃない。
自分でもびっくりするくらい、はっきり出てた。
教室中の視線が、こっちに集まる。
「絡まれてただけです」
静かに言う。
「先に手出したの、あっちだし」
「……本当か?」
先生の視線が来る。
一瞬だけ、迷う。
でも、すぐに答える。
「見てました」
はっきり言い切る。
沈黙。
「……他に見ていた生徒はいるか」
教室が、固まる。
誰も動かない。
(……だよな)
そのとき。
「……俺も見てました」
後ろの方から、小さな声。
振り向くと、あまり話したことないやつが手を上げてる。
「俺も」
もう一人。
ぽつ、ぽつと。
少しずつ、手が上がる。
完全じゃないけど、
ゼロじゃない。
空気が、少しだけ変わる。
先生が頷く。
「わかった。後で個別に話を聞く」
それだけ言って、話は終わった。
教室の空気が、ゆっくり戻る。
でも、完全には戻らない。
ざわざわしたまま。
でも――
さっきまでとは、違う。
決めつけだけの空気じゃない。
少しだけ、“迷い”が混ざってる。
(……十分だろ)
席に座ると、
隣から小さく声がした。
「……なんで」
振り向く。
いるまが、こっちを見てる。
「何が」
「さっきの」
少しだけ考える。
でも、答えは簡単だった。
「ちゃんと見たから」
それだけ。
沈黙。
しばらくして、
「……バカだな」
ぼそっと。
でも、そのあと。
「……でも」
ほんの少しだけ、間があって――
「助かった」
ちゃんとした声で言った。
初めて聞くくらい、まっすぐな言い方だった。
「おう」
それだけ返す。
それで、十分だった。
その日、初めて。
教室の空気が、少しだけ軽くなった気がした。