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今回も最っ高でした!!!マイキーの片想い歴10年!がんばれ!続きも楽しみにしてます✨
今回の話もめっちゃめっちゃ面白かったです!!!続き楽しみにしています!!!頑張ってください( *˙ω˙*)و !
バベルの塔を思わせるような高層ビルのエントランスを真っ赤なピンヒールを鳴らして抜けると、奥のエレベーターへ向かう。一般企業が入っている低層階用の通常の受付とは別に最上階の受付も兼ねたエレベーター前のインターホンを慣れた手つきで操作する。
ほどなく応答が返ってくる。こちらには音声しか届かないが向こうからはカメラで見られているのだろう。壁に備え付けられたカメラに顔を向けて来訪を告げる。
しばらくするとモーター音と共にエレベーターが1階に降りてきて扉が開く。目的階のボタンは押さなくても、指定された階にしか止まらないので、エレベーターが上昇している間にスマホの電源を切っておく。
目的のフロアに到着して扉が開くと、エレベーターの前にココくんが立っていた。
「どぉも〜ウーバーイーシャです」「…おう」
この10数年でココくんから可愛らしさが無くなったことを残念に思いながら、ココくんの後ろを付いて廊下を歩く。
いつも訪れる部屋の前に立つと、扉のロックを解除して中に入るように促される。今日は私の都合で昼前に来たからか、珍しく部屋の中には他の人たちもいた。
皆いるなら皆の分も手土産でも持ってくれば良かったかな…。いつもは夜に訪れることが多いので、皆出払っていて案内役の人くらいしかいないので、いつも通りボスの分しか手土産は用意してきていなかった。
部屋の中には大きなソファが中央に置かれていて、灰谷兄弟、三途くん、明司さんが座っていた。案内役はその時々で手隙の人が対応してくれているようで、割と皆には順に会えていたのでそれ程懐かしいわけではないが…こんなに一斉に会えるのはいつぶりだろうか。
「キリコ先生〜いらっしゃい♪」「何か飲むか?」「おい、ドブ。早く薬よこせ」「ジャンキーは黙って待ても出来ねぇのかよ」
……うん、皆相変わらずで安心する。
「キリコ、ボスがお待ちだ。早くしろ」
ココくんに催促されて、部屋の奥の扉から隣の部屋へ移動する。
ブラインドが完全に閉じられた部屋は真っ暗で、ベッドサイドの間接照明の仄かな灯りが部屋の中を照らしていた。先程の部屋は大きな窓から太陽の明かりがしっかりと差し込んでいたので、まだ目が暗さに慣れない。
「マイキーくん、診察するからブラインド開けてもいいかな?」
大きなキングサイズのベッドの上で座っている人影に問いかけると、照明のオレンジ色の灯りに照らされながら頷くのが見えたので、壁のスイッチを操作してブラインドを開け放つ。
真っ暗だった部屋に眩しい程の明かりが窓から差し込んでくる。
マイキーくんは眩しそうな素振りも見せずにベッドの上に胡座をかいて座ったままだった。しかし大きな瞳の中で瞳孔がキュッと猫のように小さく閉じた。
そして、その目の下にはいつからか消えなくなった隈がしっかりと刻まれている。
ベッドに腰を下ろして、マイキーくんの顔に手を添える。昔のようなプニプニしたほっぺの手触りはなく、ゴツゴツと骨が掌に当たる。
「薬飲んでも寝れてない?」
肯定するかのように瞼が伏せられた。すでに結構強めの睡眠導入剤を処方しているので、これ以上は常用薬として処方するのは避けたい。
しかし前回よりも酷くなった隈ややつれてしまっている様子を見ると…なんとか眠ってもらわなければいけない。
座っているのに疲れたのか私の方に倒れ込んでくるマイキーくんを胸に抱き止めて、髪を撫でながら考える。栄養状態も体調も良くはないが、髪や肌のコンディションが悪くないのは部下達の手厚い介護のおかげだろう。
…でも、それよりももっと食事とか睡眠の方に力入れてくれないかな…なんなら殴ってでも寝かせてやってほしい。
ここってそういう組織でしょ?最終手段の力技を初手から出すんでしょ?
枕元にアロマとか焚いてあげるよりも、一撃で仕留める方がみなさん得意でしょ?
ちょっとボスを甘やかしすぎじゃないかな……。この際、気絶でもいいから休ませてやってほしい。
腕の中でマイキーくんがクンクンと鼻を鳴らしているので、カバンから紙袋を取り出した。
「まだ温かいですよ」「………ん、ありがと」
紙袋の中から鯛焼きを一つ手渡すと両手で受け取って、すぐに口に運んでくれた。
鯛焼きが好きなところとかちゃんとお礼を言えるところは昔と変わっていない。でも昔のように大きな口で頬張ることはなく、モグモグと少しずつ食べていく。
頬についた餡子を指で拭いながら、ゆっくり咀嚼するマイキーくんを見つめる。
好きな物なら食べてくれる。それならと特別に作らせた鯛焼きだった。ビタミンやミネラル等の必要な栄養素を詰め込んで、なおかつ味が変わらないように仕上げるのに数ヶ月かかった。鯛焼き職人も何人犠牲になったかは私の知るところではないが…医師として私のアドバイスも詰め込まれている。
開発に成功した鯛焼き店は梵天の後ろ盾を得たのか、最近は全国展開するほど有名になった。もちろんこの特別な鯛焼きは梵天幹部と私しか購入できないし、レシピも極秘扱いなのだが…。
マイキーくんが食べてる間に、ココくんからさっき渡された記録を確認する。ボスの食事や体調を記録してもらうように渡しているノートなのだが…担当者ごとに癖が強すぎる。看護師が付ける記録ほど専門的な内容は期待していないが……ほぼ日記である。
ココくんは全て数値で出してくれるので助かるが、計測が細かすぎるんだよな……どうやって測定したのかわからないような数値まで記載されている。それに関しては深く突っ込みはしない…そうしないと生きてはいけない世界に私も彼らもいるからね。
蘭ちゃんはいつも絵日記だ…しかし抽象画とか印象派とか…何を伝えたいのかさっぱりわからない。
竜胆くんも絵を添えてくれることがあるが…画伯なんだよな。反社なのにこんな絵描くの?ってホッコリしてしまって、他の内容が入ってこなくなる。
明司さんと望月さんの時は極めてシンプルで必要事項だけ走り書き。ペンの走る速度が早すぎるのか、解読に時間はかかる…なので、しっかり書き込まれると大変だから文量的には必要事項のみで助かる。
一番の酷いのが…三途くんなんだよね。薬をキメてる最中に書いたものは、幼稚園児が書いてのかと思えるような文章だし…なによりも正常な時の文章もマイキーくんへの称賛の言葉や推しを前にしたオタクみたいなことしか書かない。一応体温や食事量とかの最低限の情報は書いてあるので読むんだけど…隣に「今日も食事をするマイキーが尊い」とか「体温が正常、推しが生きてる世界に感謝」とか……そういうのはノートに書かずに本人に直接伝えてあげてほしい。
今週分のノートに目を通し終えたところで、マイキーくんも鯛焼きを食し終わったようだ。紙袋の中が綺麗に空っぽになっていた。
「じゃあ、歯磨きして寝ましょうか」
洗面所に歩いていく足取りにはフラつきなどはないようだ。点滴スタンドを準備して、点滴をセットする。アンプルのラベルを確認して注射器に吸わせて、銀色のバットの上に必要なものを並べていく。
洗面所から戻ってきたマイキーくんは先程よりは少し血色が良くなっているようだった。ベッドの布団を捲って待っていると、ベッドには上らずに、私の背中にのしかかってきた。
「マイキーくん、寝なくていいの?」「今眠くない…」「……眠くないのはいつもでしょ?」「後で寝るから…、もうちょっと起きてる」
「じゃあ、あっちの部屋に行きましょうか…………っよっと…」
ピンピールを足先だけで脱ぎ捨てて、後ろのマイキーくんを支えるように腕を後ろに回すと、勢いをつけてマイキーくんをおんぶした。
軽いとはいえ、成人男性なので12cmのピンヒールではバランスを崩しかねない。裸足のままで隣の部屋に移動する。後ろから私の脱ぎ捨てたピンピールを持ってココくんが追いかけてくる。
「………それ逆じゃね?」キリコにおんぶされたボスを見ながら、部屋に居た全員の視線がそう訴えかけてきたが、口にするものは誰もいなかった。
ソファにマイキーくんを下ろそうとすると、鶴蝶くんが手伝ってくれた。診察している間に鶴蝶くんと望月さんも来ていた……もしかして今日全員集合??何かあるの?
ソファに下ろしたマイキーくんに腕を引っ張られて、マイキーくんの膝の上に座り込む。上座に置かれた一人掛けのソファは広いので並んで分に座れるはずだが、細いマイキーくんの足の上に乗せられた。
「……マイキーくん、骨折れちゃうから下ろして」「こんくらいで折れねぇよ」
いや…マイキーくん栄養足りてないから骨密度は思ってるより低いんだよ…。あっでも筋肉はしっかりあるから、大丈夫か。
そんなやり取りをしていると、突然…パンッ!!と大きな音が鳴り響いた。
ソファから降りて身を隠そうとしたのだが、マイキーくんに後ろから抱きしめられているせいで逃げられなかった。
身を縮めて警戒していると……なにやら視線を感じて、顔を上げる。
クラッカーを手にした三途くんが首を傾げてこちらを見ていた。
「え?ビビりすぎじゃね?」「………銃声かと思った」「そんな俺らだってこんなとこで銃ぶっ放すわけ…………あるな」「おぉ、よくあるな」「昨日もお前らここでやり合ってただろうが…」
そんな会話をしながら竜胆くんが特大のケーキを持ってきた。蘭ちゃんも持ってきたシャンパンを開けようとしているが…………その方向まずくない?
ポーンッと軽快な音とともにシャンパンの蓋が開いて、噴き出した液体が……キラキラと太陽の光を反射しながらケーキに降り注ぐ。
ケーキを持っている竜胆くんにも盛大に降り注いでいるのを見ながら、蘭ちゃんは爆笑している。
そう…蓋の空いたシャンパンを持ったまま豪快に笑っているものだから……部屋中にシャンパンシャワーが降り注ぐ。
思わず後ろのマイキーくんが濡れないように庇っていると、鶴蝶くんがタオルを持ってきてくれた。マイキーくんが濡れているのに気付いた三途くんが、クラッカーを拳銃に持ち替えたところで、マイキーくんが口を開いた。
「キリコ、誕生日おめでとう」「へ?誕生日……あーそういえば、今日だったっけ。でもなんで知ってるの?」
「そんなもんすぐ調べられるだろう…俺らのことなんだと思ってんの?」「……梵天幼稚園」
三途くんに銃を持ったままイライラした状態で詰め寄られたので、マイキーに抱きついて言ってやった。
三途くんの持ってる銃でこの至近距離で打ったら、私を貫通してマイキーくんまで怪我させちゃうからね。私もこの十数年で医学以外にも色々学んだんだよ…。
鶴蝶くんが切り分けてくれたシャンパンまみれのケーキを美味しくいただいていると、蘭ちゃんと竜胆くんが近づいてきた。
「キリコせんせ、これ誕生日プレゼント」「俺からはこっちな」
渡されたのはどちらも鍵だった…。竜胆くんの方は跳ね馬がモチーフの海外の高級車メーカーのロゴついた鍵だった。
蘭ちゃんの方はブランドのキーホルダーがついてるだけで…なんだろう?
「ん?わかんないかな?これはあっこの鍵」
蘭ちゃんが窓の外を指さしたので、その方向を向くと建設中の高層マンションが見えた…。
「私、こういうの要らないです。キャバ嬢にでもあげたら喜びますよ」
両方の鍵をテーブルの上に返却する。
「お前ら、そういう固定資産はきっちり書類とかも揃えなきゃ面倒になるだろうが…キリコ、俺からはこれだ」
ココくんから渡されたのは書類の束だった。
なんだ?と書類に目を通す。
「箱根の温泉旅館の所有権だ。書類の名義もすでに変更してある。お前疲れてるって言ってたし、温泉好きだっただろ」
自慢げに灰谷兄弟を見下ろしているが……温泉は好きだ。…でも、所有権とかほしくない。
「悪りぃな…ココのプレゼントの後で、俺のはショボいんだが」
そう言っておずおずと明司さんが渡してくれたのは、温泉宿の宿泊券だった。
ココくんに書類を突き返して、明司さんのプレゼントを受け取る。
「明司さん!!ありがとうございます!!温泉嬉しい♡」
「は?俺の方がいいだろうが!!いつだって温泉入れるんだぞ!!!」「………勝手に名義使って固定資産増やさないでもらえますか?すぐに取り消してくださいね」
冷ややかな視線と言葉でココくんのプレゼントを返却する。
「俺からは…これだな。一般流通してない酒造直卸の酒だ」「望月さん…これって幻の……嬉しいです!!是非一緒に飲みましょう!!」
一升瓶を抱え込みながら目を輝かせてお礼を告げる。
鶴蝶くんからは癒しグッズを頂いた。本当にセンスが良くて…肌触りの良いシルクのパジャマに、好みの香りのアロマとか色々詰め合わせてくれて…ちゃんと私のことを考えて選んでくれてる。そういう心遣いが最高に嬉しいので、その気持ちをそのまま伝えた。
「喜んでもらえて良かった」と少し照れた貴重な顔まで拝ませていただて、最高のプレゼントです!
「ちっ、俺からもくれてやる。臓器が必要になったらいつでも新鮮な臓器届けてやるよ」「…………は?」「だから、お前が移植出術とかする時の臓器をいくらでも提供してやるって言ってんだよ!!」「……………はぁ??」
この人はまた質の悪い薬でラリっていらっしゃるんでしょうか?最低のプレゼントを提示してきたぞ…いや、プレゼントですらないな。
「もうこいつの臓器をプレゼントってことでいいんじゃね?」「あー…薬漬けの臓器なんて使えないのでいらないです」「はぁ?このドブがスクラップにすんぞ」「スクラップにしても使い物にならない人は黙っててください…あっでも見た目は綺麗だしホルマリン漬けにして観賞用ならありかも」
「よし、お前今日から薬やめてホルマリン飲め」
ただの煽りだったのにマイキーくんが乗ってきた。
ボスからの言葉に悩み抜いた三途くんは…たっぷり考えた後に「はい」と答えていた。
もちろん本気で送られても困るのでマイキーくんに「うちにはあんな大きいの置く場所ないんで要らないです」って告げたら…
「頭だけなら嵩張らないだろう。こいつ顔小さいし…」
…んー反社ジョークなのか本気なのかわからないので、「三途くんはいらない」ときっぱりお断りしておいた。
最後は…マイキーくんだよね?なんか後ろで鶴蝶くんがゴソゴソしてるけど……これは……まさかの………
「キリコ、ほらプレゼントだ」
………出た。『プレゼントはわ・た・し♡」ってやつだ!!マイキーくんの頭にまっかなリボンが結ばれてて……その辺の女の子がやるよりも数億倍需要あるやつだ!!!!
が……貰ってどうしろと????
抱いてやればいいの?え?私が?梵天の首領様を???
「三途はいらないって言ってたけど……俺はいるよな?」
あー……先にノークレームノーリターン宣言されちゃった。
助けを求めようにも、プレゼント受け取り拒否した人達は凹んで部屋の隅で反省会開いてるし、明司さんと望月さんはプレゼント渡した後はそそくさと退出していったし…鶴蝶くんはマイキー側だし……………………詰んだ。
「あ、あ、あ、りがたく……頂戴………いたします。
でも……マイキーくんの一生は誕生日プレゼントとしては豪華すぎるので、今日一日だけで…」
「……わかった。じゃあ向こうの部屋行こっか」
人物紹介
手塚桐子(てづか きりこ)
前世の年齢にやっと追いついた。師匠の元から独立して闇医者を続けていて、梵天の幹部達も患者。マイキーの診察のために梵天事務所には週一ペースで通っているので、専属になれとずっと言われているが、断り続けている。
マイキー
不眠症。摂食障害。キリコが来る日は眠れる。(睡眠薬と麻酔で眠らされているだけ)キリコに片想い歴10年以上、告白しても仕事優先でかわされ続けている。もういい大人なので肉体関係だけはある……のかもしれないし、ないのかもしれない。
三途
ドラッグ中毒。キリコが処方したドラッグを基本的には好んで飲んでいる。しっかりキマるがオーバードーズしないので。でも少しずつしか渡してもらえないので、切れたら怪しい薬にも手をだしてラリるれろ〜になる。
鶴蝶
ストレス性胃腸炎。梵天幼稚園の保母さんなので、日々ストレスで胃が荒れている。
ココ
過食症。ストレスを食事で発散するタイプ。年々食べた後に胃もたれを感じることが増えているので消化剤を処方してもらっている。
蘭ちゃん
既往歴なし美容のためのサプリメントはキリコ処方。
竜胆くん
既往歴なし肉体作りのためのサプリメントはキリコ処方。
明司、望月
加齢による体の衰えを感じ始めたので、健康診断は毎回キリコに依頼している。
主です!
l Fを書きました。
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