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柘榴とAI

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#探偵
橘靖竜
5,431
その夏を最後に、勇太と勇信がしそね町を訪れることはなくなった。
曽祖母はその後もしそね町の実家で静かに暮らした。
吾妻財閥にも、金にもほとんど興味を持たない人だった。
ただ自然とともに暮らすことを望み、毎月の生活費は10万円にも満たなかったそうだ。
やがて曽祖母が亡くなり、しそね町の実家は取り壊され、野原になった。
兄弟があの町へ戻る理由は、完全になくなった。
時間はそうして記憶を消しながら、未来を作っていく。
あの日のメリーゴーランド。
地下へ続くはしご。
オレンジ色の鉄扉。
そして、扉に刻まれていたVISTAの文字。
それらはいつしか、兄弟の記憶から消え去っていた。
まるで地層が積み重なり、古いものを土の下へ沈めていくように。
「常務。こちらが堀口課長の履歴書です」
「どれ。堀口ミノル、静岡県しそね町出身……やはりそうか」
「えっ、しそね町ですか?」
「そうだ。ビスタの建設現場は、堀口さんの故郷だ」
「残念です……」
「まさか、あんな形でいきなり解雇になるとはな」
「常務。正直にお伝えしてもよろしいですか。副会長が開示されたファイルについて、私は疑問があります」
「どういったところに? 具体的に話してみてくれ」
「堀口課長の解雇は、一見すると正当な理由があるように見えます。ですが副会長は昨日会社に戻られ、本日いきなり改革の狼煙を上げられました。十分な検討の時間を経ずに貴重な人材を解雇されるなど、以前の副会長からはとても考えられません」
「それは、感情論だな」
「会社の方針はトップの意思によって変わるものです。だからこそ、副会長の人となりは考慮すべき要素だと私は思います」
「それもそうだな。ただ堀口さんの不正については、事故に遭う前からすでに知っていたのではないか」
「であれば、その情報は常務にも渡っているはずです。副会長は亡くなったと判断されていたのですから。ああ、もちろん、その時点での話ですが。グループ全体が常務を新たな中心として迎える準備を進めていたなら、重要な情報もまた引き継がれていたはずです」
「たしかに、会社のイメージダウンにつながる汚職案件だ。そんなものが、こちらに来ないはずはないな」
「おっしゃるとおりです」
「なら、昨夜から突貫で事を進めたのか? 昨日、家に帰ってこなかったわけだし」
「本日の発表よりも優先すべきタスクは、大量にあったと思われます。それらを処理したあとに方針転換を公表なさっても、遅くはなかったはずです」
「魚井秘書の結論はなんだ? 言葉を選ばず、正直に話してほしい」
「副会長は、十分な計画を練って今日を迎えられた。または、信頼できる側近からの報告だったため、疑いを持たなかった。あるいは副会長は……」
「副会長は?」
玲奈は、わずかに息を吸った。
「堀口課長を、スケープゴートに利用した」
しばらく沈黙が流れた。
ほんの数分前までモニターから勇太の力強い声が響いていたせいで、その沈黙はさらに深く感じられた。
「仮にそうだとして、なぜ堀口さんなんだ?」
「それはわかりません」
「まあ、上がってきた報告書を単に信じたのなら、たまたま堀口さんだったというだけだろうがな」
ポジティブマンは手にした履歴書をざっと確認したあと、堀口の企画書に目を通した。
勇信はこの時期、企業買収に力を注いでいた。
そのため、商業施設ビスタについてはあまり知らなかった。
しかし企画書を注意深く確認していくうちに、ポジティブマンは自分の中に込み上げる肯定的な感情に驚いた。
「どういうことだ? 副会長の発表内容と、堀口さんの企画書が正反対のように思えるんだが。魚井秘書も、一度目を通してもらえるかな」
「すでに確認済みです」
玲奈は手元のタブレットを開いた。
「堀口課長から送付があった時点で、要点だけまとめておきました。常務が確認される可能性があると思いましたので」
「……さすがだな」
「この企画は、ビスタ単体で利益を出すものではありません。スポーツ施設、選手寮、飲食、物販、雇用をつなげて、町全体に人の流れを作る構想です」
「つまり、ボランティア事業ではないと」
「はい。副会長がおっしゃった内容とは、むしろ正反対です」
「魚井秘書。このスポーツ振興事業というのは、国内のマイナースポーツ施設をしそね町に集めて、日本随一のスポーツ村にしようという計画だな」
「はい。そういうことだと思います」
「当然、アスリートが集まる場所には生活施設が必要になる。雇用も生まれる。そしてその中心に――」
「ビスタがあります」
玲奈が、ポジティブマンのつぶやきに答えた。
「いや! ちょっと待ってくれ!」
ポジティブマンが突然、大きな声を上げた。
「えっ? どうなさいました」
「なんだこれは!? ケージとリングを備えた総合格闘技の練習施設も項目にあるじゃないか! このサイズなら選手たちのための寮が必要で、十分なキッチンもいるはずだ! なぜ俺は、こんな最高のプロジェクトを今になって知ったんだ!」
「常務……。落ち着いてください。格闘技スイッチを入れてしまうと、冷静な判断が……」
[これはすぐにでも推進すべき偉大なるプロジェクトだ!]
[これはすぐにでも推進すべき偉大なるプロジェクトだ!]
[これはすぐにでも推進すべき偉大なるプロジェクトだ!]
自宅にいる勇信たちから、大量のメッセージが流れ込んできた。
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