テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第2話【お気楽な玉座と、甘美なる制裁】
人間界、ミラディア帝国の気品あふれる謁見の間。
そこには、およそ
「世界の頂点に立つ皇帝」とは思えない、
あまりにも緊張感のない光景が広がっていた。
「んむ、やっぱりミラディア産のアーモンドはカリッと香ばしくて最高だねぇ」
玉座にだらしなく腰掛け、ポリポリと小気味よい音を立てて木の実を頬張っているのは、若き皇帝アーモンド・R・ミラディオン。
人間としての外見年齢は30歳。しかしその正体は、天界の退屈に耐えかねて自ら堕天した1800歳の元大天使レミエルである。
薄黄緑色の美しい髪を右前に垂らし、左肩には結った長い髪を乗せている。
流し目の長い睫毛に縁取られた薄紫色の瞳は、いつも楽しげに細められていた。そして両耳には、かつて戦場で出会った「大好きな魔皇帝」の瞳と同じ色――鮮烈なレッドダイヤモンドのピアスが、怪しく、美しくきらめいている。
『陛下、またそうやって朝からおやつばかり……! 帝国歴856年度の予算書がまだ未確認でございます!』
老臣が頭を抱えて懇願するが、アーモンドは
「ま、堅いこと言いっこなしだよ」
とにこにこ笑うばかり。
周囲の臣下たちは、彼のことを
“『顔だけは超絶美形だが、いまいち威厳のないお気楽な若造王』”
だと信じて疑わなかった。
――だが。彼らが知る「アーモンド皇帝」は、ほんの表面の薄皮一枚に過ぎない。
その日の深夜。
皇帝の執務室の隠し部屋――音一つ漏れぬ地下の密室に、アーモンドの姿があった。
「ひっ、あ、貴方は……!?」
転がされているのは、地方の領地で民から不当に税を搾取し、あろうことか隣国へ横流ししようと企んでいた悪徳貴族の男だ。
昼間、皇帝の前で
「すべては帝国のためにございます!」
と殊勝に平伏していた男である。
昼間の優しげな雰囲気は、今のアーモンドには微塵もなかった。
彼は細いがしなやかな筋肉がついた身体を
上等な仕立ての衣装に包み、長い睫毛に縁取られた薄紫色の瞳で、冷徹に男を見下ろしている。
その流し目には、獲物をいたぶる冷酷な光が宿っていた。
「やあ、こんばんは。昼間は素敵な嘘をありがとう。僕ね、完璧な事務作業を邪魔されるのと、せっかく平和にした世界を汚す圧政が大嫌いなんだよね~?」
アーモンドはにこりと微笑んだ。しかし、その笑顔は昼間のものとは一変して、見る者の背筋を凍らせるほどに禍々しい。自他ともに認める、鬼畜ドSの本性が完全に目を覚ましていた。
「あ、足が、動か……があああぁっ!!!?」
男が逃げ出そうとした瞬間、アーモンドが放った目に見えぬほどの神聖魔力のプレッシャーが、男の五体を床に縫い付けた。骨がきしむ音が密室に響く。
「威厳がない王様だからって、舐めてもらっちゃ困るなぁ。僕の治世で悪さを働く不届き者にはさ……きっちり、きっかり、お仕置きをしなきゃいけない決まりなんだ」
アーモンドは優雅な手つきで片耳のレッドダイヤモンドのピアスに触れた。
この美しい赤を見るたびに、あの愛しい魔皇帝の苛烈な瞳を思い出し、彼のサディスティックな魂は心地よく疼くのだ。
「さあ、始めようか。君が隠し持っている裏帳簿のありかと、関わった人間全員の名前を吐くまで……僕がどれだけ『鬼畜』か、その身でじっくり味わうといいよ」
男の絶望に満ちた悲鳴が響き渡る。
それから数時間後。完璧に制裁を終え、すべての情報を手に入れたアーモンドは、返り血一つ浴びていない衣服を整え、ふうと息をついた。
「あ~あ……人間界の掃除もそれなりに楽しいけど……やっぱり天界と同じで、ちょっと退屈になってきちゃったなぁ……
誰もいなくなった密室で、彼はぽつり。
「アイラナちゃん、今頃どうしてるかな。
会いにいこうかなぁ……」
大好きな魔皇帝アイラナのことを想い、薄紫色の瞳を極上に細めて微笑む。
元最強大天使にして帝国のドS皇帝が、初恋の魔皇帝との再会を心待ちにしているその頃――。
魔界からはすでに、一途すぎる愛を胸に秘めたアイラナが、まっすぐにこのミラディア帝国へと向かって進撃を開始していた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
21
ぽんぽんず