テラーノベル
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朝、目覚ましが鳴った。
いつもと同じ音。
いつもと同じ時間。
まどかは、
少しだけ長く布団にいた。
――これが、
最後かもしれない。
理由は分からない。
決まってもいない。
それでも、
そんな気がした。
学校へ向かう道。
自転車のベル。
犬の鳴き声。
通学路の見慣れた看板。
全部、
ちゃんと目に入る。
今まで、
こんなふうに
歩いたことはなかった。
「おはよー」
教室に入ると、
いつもの声。
「今日さ、
放課後コンビニ寄らない?」
「新しいアイス出たんだって」
たわいない話。
まどかは、
少し遅れて笑った。
授業中。
ノートを取る音。
チョークが黒板に当たる音。
先生の話は、
正直、
あまり頭に入らなかった。
でも、
それでよかった。
この教室にいること自体を、
覚えていたかった。
昼休み。
机をくっつけて、
いつもの輪。
「まどか、
それちょーだい」
「はいはい」
おかずを交換して、
笑って、
少し文句を言って。
特別じゃない。
でも、
確かにここに居場所がある。
校庭を見る。
風で砂が舞って、
誰かがくしゃみをしている。
完璧じゃない。
整ってもいない。
それが、
どうしようもなく
好きだった。
放課後。
「じゃーね!」
「また明日!」
何気ない別れの言葉。
まどかは、
少しだけ立ち止まった。
“また明日”が、
本当に来るかどうか。
誰も、
分からない。
校門を出る。
振り返る。
校舎は、
夕日に照らされていた。
古くて、
少し汚れていて、
でも、
ちゃんと温かい。
「……ありがとう」
誰にも聞こえない声で、
そう言った。
この学校に、
この時間に、
この日常に。
家に向かう途中、
まどかは思った。
鈴蘭学院に行っても、
きっと、
大丈夫だ。
でも、
ここにいた自分は、
もう戻らない。
最後かもしれない一日。
それは、
悲しいだけじゃなくて、
ちゃんと、
大切な一日だった。
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