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実母からの着信は放置して続いて義母にも電話を掛けた。
彼女は電話に出なかった。長いコールの後に留守番電話に切り替わった。自宅に連絡しても、誰も受話器を上げなかった。
ああ、そっか。二人とも光貴のデビューライブを応援しに行ったんだ。
だったら家にはいないよね。電話にも出られないはず。
……もう、いいや。疲れた。報告は明日にしよう。
明日……か。私に未来(あした)はあるのかな。
どす黒い感情が心を覆い尽くしていて、すべて投げやりになっている。詩音を失ってまた、心から笑って過ごせる日がいつか来るのかな。
今はもう、なにも考えたくない。
……そうだ。新藤さんが託してくれたあの曲を聴こう。
骨壺を抱きしめたままベッドから這いずり下りた。気怠い身体で二階まで下り、ポータブルCDプレイヤーと二枚のCDを取り出した。
RBの音源と白斗の歌だ。CDプレイヤーは新藤さんが返さなくていいと持たせてくれたのだ。
ベッドまで戻ってヘッドフォンをジャックに差し、CDをセットしてプレイヤーを再生した。
白い華が美しい調べと共に流れてくる。絶望に震える心を歌い、辛く苦しい思いをしたこの歌を聴く人を救おうとしてくれる白斗の切ない歌声が、今の私を癒してくれる。
まるで私のために作られた曲のように感じてしまう。
今頃光貴も誰かの光になっているのかな。
光貴はサファイアのメンバーとして歩き出した。
光貴に憧れ、応援してくれるファンにその雄姿を見せ続けなきゃいけない宿命を背負ったのだ。
神様。今日のライブは、どうか成功しますように。
一番大事な詩音を取り上げられたのですから、このくらいのお願いをきいてくれないと報われません、と随分上から目線の祈りを捧げた。
時刻を確認すると午後八時を過ぎたところだった。開場は確か六時、開演は七時。絶賛本番中だから、今すぐ私からの連絡を彼が見ることはないだろう。
私は光貴にメッセージを送っておいた。
――お疲れ様。今日のライブは大成功だったと信じています。
詩音のことで大切な話があるから、早く家に帰って来て。電話では話せない。
顔を見て話したいから。待ってるね。
光貴はせっかちだから、ライブが終わったら電話かけてきて、どうしたんや、って聞くんだろう。
長い付き合いだから、行動パターンが読める。
だから詩音のことは、どうしても言えなかった。言ったら光貴がどうなるか、手に取るようにわかるから。
光貴も詩音のことを黙っていた私を責めるのかな。
責められた時、私は冷静でいられるかな。
どうなるか想像ができない。
私は暗い部屋で独り、白斗の歌を聴きながら光貴の帰りを待った。
私が様々な過ちを犯してきたことは、その時点で気づくべきだった。
私は光貴の音が好きと言いながら、心から癒され、求め、拠り所にしていたのは、白斗の歌だったから。
こんな時に聴く曲は、本当なら光貴の音のはず。
それなのに求めていたものは、全く別の音だった。
十六年も前からなにひとつ変わっていない私の心は、光貴ではどうすることもできなかった。
もっと早くに気が付いておけば
光貴を裏切らずにすんだのに――