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「樹、大丈夫か」
けっこう本気のトーンで、北斗が訊いてくる。
みんながいる楽屋。5人はわいわい談笑してるのに、珍しく黙っているから心配してくれたんだろう。
「大丈夫だよ。気にすんな」
本当は、さっきから胸がキリキリと痛かった。
俺は少し前に「肺気胸」と診断された。右の肺に、穴が空いているのだそう。
でも程度は軽いから、入院はせずに通院治療を選んだ。そして、世間にも発表はしないと。
北斗との短い会話が耳に入ったのか、慎太郎とジェシーも振り返る。
「どうした」
「もしかして苦しい?」
嘘になるとはわかっているけど、首を振った。「何ともない」
きょもだけが、何も言わずにこっちを見ている。
みんなは優しい。だからこそ、病気がわかった俺に対する優しさは今まで以上だ。
でも、それが辛かった。優しすぎて、いらないと拒否してしまいそうになる。そんなこといけないってのに。
心の中を逡巡する葛藤のせいで、さらに苦しさが増す。
「あ、ほらもう時間だ。行かなきゃ」
時計を見上げれば、撮影が始まる時刻も近い。今日は、グループで雑誌の仕事が入っていた。
立ち上がって、みんなで楽屋を出る。
そのとき、ジェシーが声を上げた。「樹さ、今日の衣装シャツだけだったっけ?」
あっと俺はつぶやく。
「ジャケット楽屋に忘れてきた。時間ないし、先行ってて」
そう言い残して踵を返す。5人の足音が遠ざかっていった。
楽屋の椅子の背に、俺の衣装が掛かったままになっている。それをさっと羽織った。
「ケホケホッ」
そのとき、軽く咳が出る。それはもう慣れたこと、だけど、
「――って!」
今までに感じたことのない、鋭い痛みが胸に走った。とっさに服を掴んでうずくまった。
だけど痛さで背中を丸めれば丸めるほど、息ができなくなる。
痛い、苦しい、助けて。
足の力もなくなっていき、床に倒れ込んだ。冷たい感触がある。暗くなっていく視界の中で、メンバーの笑顔が脳裏を流れていく。
俺の気胸が見つかってから、みんなを笑わせられていない。ライブの話も出ないし、新曲だってできるか……。
6人で笑い合いたい。今はただ、それだけでいい。
その刹那、誰かが「樹」と呼んだ気がする。誰だろう。でも、聞き慣れた安心する声だ。
それを認識したとき、意識が深い闇の底へと落ちていった。
続く
コメント
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まじ最高です🔥👍