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Side 緑
「ほら慎太郎、そんな深刻な顔すんなって」
病院の待合でも、ジェシーはいつも通りに話しかけてくれる。だけどその声を聞いても、手の震えは止まらなかった。
「あいつなら大丈夫だよ」
みんなは見てないから、そんなことを言えるんだ。邪な言葉を口走りそうになるのを、必死でこらえる。
つい今朝から入っていた雑誌の撮影仕事。その直前、樹が倒れた。
しかも、ひとり楽屋に戻っていった樹が遅いのを心配して俺が見に行くと言ったとき、4人はスタジオに向かっていた。みんなで戻れば、スタッフさんにも迷惑がかかるから。
楽屋のドアを開けると、目に飛び込んできたのは床に横たわっている樹の姿。その表情は苦痛にゆがんでいて、息を荒げていた。
俺は慌ててメンバーとスタッフさんを呼んだ。そのときにはもう、樹の意識はなかった。
そして救急車でかかりつけの病院に搬送されていき、俺らも後を追って今に至る。
俺が目にした、樹の辛そうな顔がどうしても忘れられなかった。
すると、処置室から担当医であろう医師が出てきて、こっちにやってくる。
「呼吸困難がありましたが、さきほど意識も戻りました。もう安心していいかと思います。ただ、病状が悪化していますので…手術と入院が必要です」
俺らは揃って黙り込んだ。
やっぱりか、と思う。こんなひどい発作は初めてだった。
「もうすぐマネージャーが来ると思います。少し本人と相談させてやってください」
言ったのは高地だ。
わかりました、と言って医師が去っていったあと、きょもが口を開く。
「もしかしたら…っていうか、樹はきっと続けたいって言うと思う。でも、さすがにもう休ませなきゃだめだよね」
メンバーはみんなうなずく。
「京本が言う通りだな。同時に公表と……」
北斗は言葉に詰まった。全員わかっている。グループのこれからのことだ。
「ゆっくり考えようよ。樹とも話さなきゃ」
ジェシーは言う。それから、みんなで病室に向かった。
彼は酸素マスクをつけ、点滴に繋がれている。そんな樹を見たくなくて、思わず目を背けた。
「樹。来たよ」
高地が優しく声を掛ける。
「……ありがと。慎太郎」
ふいに俺の名前が呼ばれる。はっとなって振り向いた。樹の薄く開いた目が、俺を捉えている。
「倒れたとき、…来てくれたの、慎太郎でしょ。助かった…」
目頭に溜まった涙がこぼれないよう耐えながら、樹の細い手を取る。
「ちょっと休憩しようね。無理しちゃっただろうから」
嫌だ、と小さく首を振る。5人で顔を見合わせた。
「俺一人…やだ。みんなで、休も」
わかった、と北斗は震える声でつぶやく。「じゃあ全員で立ち止まろう。疲れたもんな」
俺らの意志は固まった。
今までだって激しい雨に打たれても、支え合って乗り越えてきたんだから、今回も絶対大丈夫。
それぞれに、そんな曖昧な確証を心に秘めて。
続く