テラーノベル
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厚い雲に覆われている中、迷いのない光が旧校舎に差し込んでいた。そんな光に乗って、天使が本当に舞い降りていくようで、天使の梯子とはこのことを言うのかとようやく理解できた気がした。
〈smile side〉
先ほども見たあの眩い光にやはり不思議と身体が動く。
あの着物姿の女性がまだ中にいるのであれば、助けたいと思った。
紅い霧に包まれた彼女の姿はいたく苦しくみえてここから連れ出してあげたいと感じたんだ
そんなことをぼんやりと考えながらいると、気づけば俺の目は旧校舎入り口を捕らえていた
そこにはただ独り。ふわふわとした黄金色の髪が風に撫でられて、眼鏡の奥には冬の夕暮れを閉じ込めたような美しい瞳がまつ毛に隠れていた。
光に包まれる彼がゆっくりとこちらを向く。
さわさわと優しい風が吹く。
旧校舎からの悲痛の叫びは消えて、彼の腕の中には小さな狐が一匹、静かに眠りついていた
kr 「スマイル、ここに来ちゃダメだろ?」
穏やかで耳に残る優しい声。
俺を見るその柔らかい瞳に見惚れていた
ポツッ
kr 「やべ、雨降ってきた。早く教室行こ!」
sm 「え」
引かれた手は少し強引で、それでも安心するようなこの感じは、いったい何なのだろう。
〈kiriyan side〉
あそこにスマイルが来るのは少し誤算だったけれど、無事に腐ってしまった噂を取り除くことができた。
sm 「で、その狐はなに?」
kr 「こいつが旧校舎の噂の正体だよ。」
まだこいつが眠っているからいいものの、早いうちにみんなにお願いしなくちゃな
kr 「今は眠ってるからいいけど、スマイルはこいつのことまた見たら近づかないでね」
kr 「こいつ、怪異だから。」
sm 「きりやんは平気なの?」
kr 「俺はもともと霊感みたいなのあるし、それについてはまた明日みんなに話すよ」
kr 「俺まだやることあるから、先帰っていいよ。体調には気をつけて」
sm 「ん、」
そうして静かに廊下を歩く後ろ姿が見えなくなるまで見守った
プルルルルッ
ーーーもしもーし?
kr 「あ、なかむ?
そろそろあれ頼みたいんだけど、」
ーーーお、待ってましたよー
kr 「今そっちにみんないるんだっけ?」
ーーーうん、いるよ
ーーーねぇ、本当にこんなんでいいの?
ーーーちょ、ぶるーくうるさい。
kr 「平気だよありがとう笑
じゃあ、あとはよろしくね」
プツッ
…………………………………………………*
〈smile side〉
個室の並ぶ小さな窓には青い光が差し込んで、張り付いた雫で世界は歪んで見えた。
まだ腕に残る、握られた手の感触。
心臓がドクンと大きく脈を打っているのは、雨の声に負けずに聞き取ることができるほどで、走ってもないのに体温が上がって、はく息は少し震えている。
ふと鏡を見た。
冷たい色をして並ぶ個室のドア、窓辺から差し込む悲しげな明かり、そこに合う紫のカーディガンに、雨で髪が濡れて少し滴る雫。
落ち着いた瞳に反して口角は微笑に上がり、耳は桃色に染まっていた。
俺、こんな顔してたのか。
こんな顔にさせた原因が彼のことを考えたからだと思うと、より桃色に染まってしまった
sm 「、、、くそ。なんだよこれ」
彼が触れてくれると嬉しくなる
彼が考えていることを知りたくなる
彼が見る景色を、聞こえる音を、欲しくなる
ーーーまた明日みんなに話すよ
俺だけに教えてくれるわけじゃないんだ、、
なんて我儘なことを言ったってどうしようもないのに、意味がないのに、どうも思考が止まって感情が先走る。
sm 「はぁ、」
ドアに背中を任せて、あまりにも自分らしさを見失ったが故にため息が宙を泳いだ
でも俺はこの感情を知らない。
糸が絡まるような或いはさまざまな色が混同するような、そんなふうになることが初めてで理解に時間がかかる
結局そんな思考は一旦放棄して、別のことに意識を持っていくことにした。
…………………………………………………*
〈kiriyan side〉
kr 「さてと、いつまで寝たふりしてんだよ」
狐「別に。目を閉じてただけじゃない」
kr 「明日には変な噂も無くなるだろうから、もう悪さすんなよ」
狐「私だって好きでああなったんじゃないわ」
kr 「、、、、、わかってる」
kr 「スマイルのことだけど」
狐 「さっきのあの子のこと?」
kr 「そう。怪異にお願いするなんてどうかしてるけどさ、上には通達しないでほしい」
狐「私は何も見てないわ。彼に見つからなければいいわけでしょう?」
kr 「恩に着るよ」
狐「等価交換ってやつよ」
狐 「それに、あんたも結構苦労しているみたいだし」
kr 「、、そうかな」
狐 「ただ、あの子が見つかるのも時間の問題じゃないかしら」
そんなの、俺だってわかってる。しかし焦りは禁物だ。
そうして女狐を旧校舎に返しては帰宅することにした。
きっと明日になれば、、、、
コメント
1件
初コメ失礼致します。言葉が出ないほど、凄いものを見た気がします。言葉の表現だったり何かと素敵な、、とても良い作品ですね!