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世界は戻り始めている。
歪みは消え、崩れた空間はゆっくりと繋がり直される。
完全ではない。
だが、確かに守られた。
ダイスケはまだレンの隣で立っている。
息を整えながら。
その少し離れた場所にラウールはいた。
背を向けたまま動かない。
長い沈黙。
誰も、声をかけない。
かけられない。
やがて、ラウールが小さく息を吐く。
🤍…終わったか
独り言のように。
その声には、もう張り詰めたものはない。
ダイスケがゆっくりと視線を向ける。
何も言わない。
言葉が見つからない。
ラウールは振り返らない。
ただ、続ける。
🤍結局、君は世界ではなく“一人”を選んだ
責めるようではない。
ただ、事実を確認するように。
ダイスケは答える。
静かに。
🩷…うん
それだけ。
でも、十分だった。
ラウールはわずかに目を伏せる。
🤍非合理だね
小さく笑う。
だがその声には、皮肉も嘲りもない。
🤍でも、
ほんのわずかに言葉を切る。
迷うように。
そして、続ける。
🤍その非合理が、世界を残した
レンが一歩前に出る。
だが、何も言わない。
ただラウールを見る。
ラウールはその気配に気づく。
少しだけ顔を横に向ける。
完全には振り返らない。
🤍…君も
レンへ。
🤍選ばれた側ではなかったな
レンは答えない。
だが、視線は逸らさない。
ラウールが続ける。
🤍それでも
小さく息を吐く。
🤍選ばれた存在を、繋ぎ止めた
その言葉は、評価に近い。
レンが短く言う。
🖤繋ぎ止めたんじゃない
一拍。
🖤一緒にいた
ラウールがわずかに笑う。
🤍そう
それ以上は言わない。
沈黙が落ちる。
長く静かに。
やがて、ラウールがゆっくりと振り返る。
その目は、もう戦う者のものではない。
どこか、遠くを見ているような。
🤍…俺は間違っていたのか
誰にともなく、呟く。
タツヤが小さく言う。
💜間違いじゃない
ラウールの視線が向く。
タツヤは続ける。
💜でも“足りなかった”
一拍して
💜人の部分が
ラウールは黙る。
否定しない。
ヒカルが肩をすくめる。
💛世界をいじる前に
短く言う。
💛もうちょい他にやり方あったろ
ラウールは小さく笑う。
🤍…そうかもしれないね
素直にあっさりと。
その認め方が、逆に重い。
ダイスケが一歩、前に出る。
迷いながら。
それでも。
🩷ラウール
名前を呼ぶ。
ラウールは視線を向ける。
静かに。
ダイスケは言葉を探す。
そして、やっと一つだけ出てくる。
🩷…ありがとう
レンが目を見開く。
ヒカルもタツヤも、わずかに驚く。
だがラウールは驚かない。
ただ、静かに受け止める。
🤍…そう
それだけ言う。
否定もしない。
肯定もしない。
だが、その声はわずかに柔らかい。
🤍君をここまで押し上げたのは。
小さく呟く。
🤍確かに俺だ
自嘲のように笑う。
🤍皮肉だね
ラウールは視線を空へ向ける。
もう歪んでいない空。
戻りつつある世界。
🤍…これが、君の選んだ世界か
ダイスケも空を見る。
そして 答える。
🩷うん
短く。
でも 確かに。
ラウールはゆっくりと目を閉じる。
そして一歩、後ろへ下がる。
🤍俺はここで終わる
その言葉。
戦いの終わりではない。
“役割”の終わり。
タツヤが一歩出る。
💜待って
ラウールが止まる。
振り返らない。
タツヤは言う。
💜あなたのやったことは消えない
ラウールは静かに聞く。
💜でも
続ける。
💜それでも、この世界は残る
💜あなたが壊そうとした世界が今、ここにある
長い、長い沈黙。
やがてラウールが小さく笑う。
🤍…そうだね
それを認めるように。
そして、最後に一言だけ。
🤍ならば
わずかに振り返る。
ほんの一瞬だけ。
🤍見届けよう
その視線は、ダイスケに向いている。
そして、静かに歩き出す。
光の中へ。
止める者はいない。
その背はもう“敵”ではない。
ただ一人の人間として、去っていく。
光が、静まっていく。
崩壊は止まり、
歪んでいた空間が、ゆっくりと元の形へ戻り始める。
完全ではない。
だが確実に世界は残った。
ダイスケの歌が、最後の余韻を残して消える。
息だけが響く。
🩷…終わった…のか…
ダイスケが小さく呟く。
レンの手は、まだ強く握られている。
離せないように。
レンも何も言わない。
ただそこにいる。
それだけでいい。
その時空気が、揺れる。
さっきまでとは違う静かな揺らぎ。
優しい気配。
ダイスケの指がぴくりと動く。
ゆっくりと顔を上げる。
🩷…
そこに“誰か”が立っている。
淡く、透けるように。
光の中に溶けるように。
女性。
優しい目。
どこか懐かしい。
🩷…母上…?
声が震える。
確信はない。
でも、分かる。
その存在が誰なのか。
女性は静かに微笑む。
何も言わずに。
ダイスケの目から涙が溢れる。
🩷…なんで…
一歩近づこうとする。
だが、足が止まる。
触れられないと、本能で分かる。
母はゆっくりと口を開く。
声は、直接心に響く。
「…よく、選んだね」
その一言。
優しくて、あたたかい。
ダイスケが首を振る。
🩷違う…
涙が止まらない。
🩷俺は…何も…
母は静かに首を振る。
否定するように。
「あなたはずっと、選ばされてきた」
ダイスケの呼吸が止まる。
「でも今は違う」
「初めて、自分で選んだ」
その言葉が、胸の奥にゆっくり染み込んでいく。
🩷…母上…
かすれた声。
🩷知ってたの…?
母は微笑む。
悲しさを含んだ優しい笑み。
「全部ではない」
「でも“ここに辿り着く未来”は見えていた」
レンが息を呑む。
タツヤも、遠くで目を見開く。
ダイスケの手が震える。
🩷…未来?
母は頷く。
静かに、言葉を紡ぐ。
「私は“歌の守り手”であると同時に」
「世界の“流れ”を見ることができた」
「可能性の先を」
タツヤが呟く。
💜…未来視…
理解が繋がる。
母は続ける。
「あなたが運命の人と出会うことも」
「苦しむことも、選ぶことも」
少しだけ、目を伏せる。
「…知っていた」
ダイスケの目が揺れる。
🩷じゃあ…なんで…!
声が初めて強くなる。
🩷止めなかったんだよ…!
怒りと、悲しみが混じる。
母は否定しない。
ただ、まっすぐ見つめる。
「止めたら」
静かに。
「あなたは“選べなかった”」
その言葉に、すべてが止まる。
「未来を知ることはね」
「変えることじゃないの」
一歩近づく。
触れられない距離で。
「“信じる”こと」
ダイスケの目から、涙が溢れ続ける。
「あなたが、必ず―」
一拍。
「愛のために歌うと」
その言葉が胸の奥に深く刺さる。
🩷…あの言葉…
幼い頃、何度も聞いた。
意味も分からずに。
母は微笑む。
「やっと届いたね」
ダイスケが崩れそうになる。
隣で何も言わずにレンが支える。
母の姿が、少しずつ薄れていく。
ダイスケが手を伸ばす。
🩷待って…!
届かない。
母は最後に言う。
「あなたは“力”じゃない」
優しく確かに。
「“誰かのために歌う人”よ」
光が、ほどける。
完全に消えていく。
静寂が戻る。
ダイスケは涙を流したままその場に立ち尽くす。
でも、顔を上げる。
レンを見る。
そして、小さく笑う。
🩷…やっと分かった
かすかに。
でも確かに。