浩太と再会して数十分。
未だに目の前に浩太が居ることが信じられなかった。
ここまで分かったこと。
浩太と麻美たちは大学時代の友人で、今でも数か月に1度は飲み行くくらい仲が良いこと。
そして今、浩太には彼女が居ないということだった。
昔は私と身長が大して変わらないくらいだったはずなのに、見た感じかるく10cm以上は伸びていて、スーツをビシッと着こなしている。
気のせいか声だって少し低くなっているような気もする。
昔の面影は残ってはいるものの、どこから見ても大人の男性で、そんな浩太の変化にさっきからずっと落ち着かない。
「ね、本当に2人が会うのって中学卒業以来?」
興味津々な顔で麻美が聞いてきた。
「ああ。何度か見かけはしたけど、こうしてちゃんと会うのは卒業以来だよな」
「うん、そうだね」
あ、同じだ……
急に話を振られ相槌だけ返しながら私はふと、昔のことを思い出してしまった。
浩太とは中学の1年と3年同じクラスで、わりと仲が良かった。
私は浩太に好意を持っていて、もしかしたら浩太もって何度か思ったこともあった。
だから卒業前に告白しようとも思った。
だけど、もしフラれたらって思うと怖くて一歩勇気を出すことができず、友達の枠という居心地の良い場所に甘んじることを選んだ。
フラれると気まずくなって会えなくなってしまう可能性はあるが、友達のままだと卒業しても今まで通り普通に会うこともできるし関係性も変わらない。
それなら敢えて危険を冒す必要はない。
そう思い、中学を卒業して別々の高校に進学した私たちは疎遠になってしまったのだ。
だけど、あの出来事が私たちの間の関係の歯車を狂わせた。
「で、どうする?」
「え?何が?」
不意に麻美に話を振られ、私は意味が分からず聞き返した。
「だから、この後よ!」
「この後って……。週末だしもう1軒行く?」
一応、時間を確認する。
「そうじゃなくて」
私の答えに麻美が呆れた声を上げる。
「そもそも2人を合わせた理由を覚えてる?」
「そうそう」
なかなかピンと来ない私に佑志さんまで渋い顔を見せる。
「忘れてるみたいだけど懐かしの同級生を偶然、引き合わせるためじゃないんだよ」
「――あっ」
そこまでハッキリ言われて、やっとここに居る趣旨を思い出した。
「やっと思い出してくれたみたいで良かった」
半分呆れ気味に軽く嫌味を溢された。
「ごめん……」
せっかくセッティングしてくれた麻美たちには申し訳ないが、予想外な浩太との再会に驚きすぎて、根本的なことをすっかり忘れてしまっていた。
「どうする?」
思わず浩太に答えを求める。
「それを俺に言われても……」
浩太が苦笑いを漏らす。
「ですよねー」
さすがに、じゃあ付き合おうかにはならないか。
「どうしよう」
今度は麻美に話を振ってみる。
「それを私に聞かれても……。でも、相手が辻井くんなら性格知られてるんだし、無理にキャラ変しなくてもいいから奈緒にとっては好都合な相手なんじゃない?」
振った相手を間違ってしまったらしく、言わなくてもいいことまで言われてしまった。
「ちょっと!」
「キャラ変?」
慌てて麻美を窘めるが浩太の耳にはしっかり届いていて聞き返されてしまった。
恥ずかしすぎる……
調子に乗った麻美がそれをかわきりに私が誕生日に彼氏にフラれてしまったことや、最近の坂本さんとのことまで赤裸々に暴露されてしまった。
最初は恥ずかしさで頭を抱え貝になっていた私も、途中から半分自棄になり自虐ネタとばかりに自ら話に参加することにした。
おかげで場の空気は盛り上がり、浩太とも冗談交じりに笑いを交えながら楽しい時間を過ごすことができた。
それはまるで、あの頃に戻ったかのような錯覚に陥ってしまった。
やっぱり浩太との時間は楽しくて、ついついお酒も進んでしまう。
「大丈夫か?」
私のお酒を飲むペースの速さに浩太が心配そうに様子を伺ってきた。
「うん、大丈夫」
そう答えたものの、さすがにちょっと飲みすぎてしまったかもと後悔。
結局、気づくと“紹介”から単なる同級生の飲み会に代わってしまっていた。
「じゃあ、そろそろお開きにするか」
店のラストオーダーの時間も過ぎ、そう切り出したのは佑志さんだった。
「そうだな。終電の時間もあるし」
それに賛同する浩太。
私としては、もう少し一緒に居たいと思ったけど、さすがに言い出せず帰ることにした。
「じゃあ辻井くん、奈緒のこと送ってあげてよ」
私の気持ちを察してくれたのか麻美が浩太に私を送るように言ってくれた。
連絡先を聞くタイミングを逃したまま別れなきゃいけないと思っていた私にはチャンス到来で、心の中で真剣に麻美に感謝してしまった。
だけど……
「悪い。そうしたいのは山々なんだけどこの後、佑志のとこで他の奴らと飲む約束してて……」
申し訳なさそうに私を見てきた。
「何でこんな日に約束入れるのよ!」
麻美も知らなかったらしく、可哀そうに佑志さんも責められてしまっている。
「駅からも近いし大丈夫だから」
そう答えてはみたものの内心かなり気落ちしてしまった。
「じゃあ、また」
そう言って改札を潜ろうとする私の手を浩太が掴む。
「待った」
驚き振り返ると
「連絡先、聞いてなかった。教えてもらってもいい?」
スマホを私の方に寄せてきた。
「うん」
これで最後じゃない。
嬉しくてニヤ懸想になるのを必死で堪えながら、めでたく浩太と連絡先を交換することができた。
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